神戸からおはようございます。このニュースレターはいま270名の方が登録してくださっています。いつもありがとうございます。
月曜の朝に少しだけ倫理の時間です。
(「ここは今から倫理です。」もとても良いマンガです、ぜひ)
毎朝Todoistの教え/事前設定した繰返しタスクに従って、セネカの倫理書簡集を読んでいます。そこに出てきた問い立ての一つが、
「いかなる苦痛にも妨げられずに長生きした賢者の方が、絶えず不運と格闘してきた賢者よりもいっそう幸福ではないのか」
私自身、20代後半まで、なんならつい最近まで、幸せな人生とは「幸せな瞬間ができる限り長く続くこと」だと思っていました。縦軸にその瞬間の幸せ値、横軸に時間を取ったグラフを考えて、その積分値/面積が人生の幸福度であるかのように。この考え方に従うなら、↑の問いへの答えは「そうですね、前者の方が幸福です」となるでしょう。
しかしセネカは、そうではないと言います。美徳は引き延ばすことは出来ない。いかにわずかな時間のうちにであれ、美徳は永遠の善を完成させるのであって、苦痛の有無や幸運/不運はそれそのものが人生の幸福に影響することはなく(少なくとも賢者にとって)、すべてはそれぞれに対していかに"向き合うか"こそが重要なんだと。
冷静になって考えてみると、運が良かった一週間もあれば不運続きだった一週間もあって、そのどちらもがいまの自分に繋がっているわけです。何かの脳内物質分泌量で私の幸福度を測るのならば前者の方が良い数値を出すのでしょうが、後者を人生の幸福を妨げられた一週間と呼んでいいものか。割り切れない自分もいます。
測れないものを無理に測ろうとしないこと。
学部生の時に読んだ「ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ 世界を変えてみたくなる留学」の中に、そんな項目があった気がします。最後に読んだのは10年以上前ですが強く印象に残っているコンセプト。計測は改善・向上のために大切なことなんですが、誤った対象を誤ったツールで計測して出てきたデータ、それを誤った手法で分析しても意味はないのです(事業現場でよく見かけます)
もし人生に求めるものが幸福の積分値最大化ではなく、ただ一瞬でも美徳を発揮する・体現することにあるならば、この朝から生き方を見直さなくてはいけないでしょう。いま、この瞬間から。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
文章を書くことが好きではない人のための、文章の書き方:私自身書くことには苦手意識がずっとあったんですが、好き勝手にやろう!と決めて以来、なんだかんだニュースレターを1年半も続けてこれました。楽しく書こう。微分を書くのは後回しで、シンプルに、赴くままに。 (Books&Apps, link)
2022年『第32回イグノーベル賞』の解説:医学賞、一般社会でもインパクトのある素敵研究。ドアノブを回す指に注目した日本の研究チームが工学賞を受賞。物理学賞の「カモの親子が一列に並んで泳ぐ理由」研究も好きです。 (note, link)
Google Docsを出会いのツールとして使う:自分自身のプロフィールをGoogle Docsにつづり公開、そこで出会いを探す習慣の登場について。めちゃんこおもしれー!日本でやっている人を見たことないけど、いるんだろうな。 (Wired, link)
AlphaFold開発者、Breakthrough prizes受賞で4億円超獲得:素晴らしい成果には素晴らしい報酬を。 (Nature, link)
プロペラなしドローンが4分半の飛行に成功:イオン風で飛ぶんですって。騒音問題が解決されるかも…?? (Nazology, link)
OpenAIから高精度文字起こしAI・Whisperが登場:日本語の単語誤り率は6.4%で相当高精度に見える。早めに試したいです。 (gigazine, link)
AIは神か悪魔か:普通のエッセイかと思いきや、途中に「実は前の章はGPT-3に書かせました」とかやってくる。こういう創作のスタイルというか物事との向き合い方はどんどん普通になっていく気がする。宿題で「上の部分はAIに解かせました。前提は私が整理しています」みたいな。 (Atlantic, link)
トッププロの不正疑惑に揺れるチェス界:もはやAI/コンピュータがトッププロの実力を上回っている現代、靴の中敷きや腸の中に仕込んだデバイス経由で差し手の指示を受けていたのではとの不正が疑われています。記事原題は "Chess Is Just Poker Now"。日本の将棋界では現状対局場への電子機器持ち込み禁止で対応していますが、向こう10年でもっと色んな対策が求められるだろうな。人生かかってますから。この事件の日本語解説がGizmodeに。 (Atlantic, link)
レバノンで携帯電話とネットが同時ダウン:経済危機極まれり。 (reuter, link)
南アフリカではアルゴリズムという形で差別が続いている:植民地支配の中で培われた不動産・金融業界のネットワークが未だに生きており、その中でAIアルゴリズムが駆動することで、差別構造の存続、なんなら加速が続いていると。"採点アルゴリズムが書類上では人種に中立であっても、実際にはアパルトヘイト政権が南アフリカで分離された住宅市場を維持するために用いたのと同じ選別メカニズムを生み出しているのである" (Logic Magazine, link)
進化心理学で「愛」を考える:ミクロ経済学をやると「いかにお互いのコミットメントを明確にし、遵守するか/させるか」の大切さ/難しさがわかるのですが、愛はその解決策の一つだったのかも知れません。50音の相当前半で、かつ2文字での表現という優遇地位を与えられていますし。 (gigazine, link)
人生の成功のためには「弱い絆」を拡げよう:MITスローン経営大学院の研究チームがLinkedinのデータを分析し、「弱い絆からもたらされた情報が転職を成功させやすい」と発表。掲載誌はなんとScience。 (nazology, link)
科学が信頼できるのは、科学が科学自身を信頼していないから:カール・ポパーの科学哲学論を引用しながら。反証可能性を担保していくの、怖いんですけど、大事なんですよ、あらゆるシーンで。批判ではなく反証にオープンでありたい。 (The Conversation, link)
「火星で最初に育てるべき植物」とは何なのか?:ジャガイモでしょう(アンディ・ウィアのファンより)しかし研究チームが言う人は、火山性土壌にも対応し他の作物の肥料にもなるムラサキウマゴヤシ/アルファルファが最適らしい。(gigazine, link)
唾液から自殺願望の程度がわかるかも知れない:フロリダ大の研究。ここ数週間内に自殺を考えたことのある大学生は、唾液中の歯周病に関連する細菌レベルが有意に高いと。8月下旬のScientific Reportsに掲載されています。 (nazology, link)
生きる伝説、ロジャー・フェデラーが引退する:テニスをやり始めて彼の偉大さを改めて実感しました。獲得したタイトルは100以上、1,500試合以上出場して途中棄権なし。テニス選手のInstagram、ロジャーとの思い出が溢れています。レーバーカップ後のインタビュー、泣きます。 (Atlantic, link)
📙本
SF作家の地球旅行記:日本で一番好きな作家・柞刈湯葉さんの旅行エッセイ。色んな表現が秀逸で、馬上の揺れを「中華鍋で振られるチャーハン」と比喩したのには震えました。 (Amazon, link)
そして誰もゆとらなくなった:「桐島、部活やめるってよ」「正欲」等で有名な朝井リョウさんのエッセイ集を東京にいく飛行機往復でゆっくり読みました。単語単語の選び方が↑の柞刈湯葉さん文体と近しいベクトルを感じています。 (Amazon, link)
生存する意識――植物状態の患者と対話する:次のCobe.fm課題本。植物状態になっている患者さんの15-20%くらいは実は意識あるんだよ(ただそれを伝えられないだけで)という事実にめちゃんこびっくりする。 (Amazon, link)
フラジャイル 23巻:最高でした。科学と人間の境目で。RCT治験の向こうに誰がいるのかを想像すること。ただの読者ですが、プロとしての在り方、人間としての在り方を問われている気になります。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
The Green Dragontail Butterflyの羽ばたき:日本人が撮影された蝶の様子がただただ美しい。 (Tweet, link)
米国宇宙軍 軍歌 “Semper Supra”:この9月に完成。校歌感あります。 (youtube, link)
🧩感じた/感じている
自分がどういうゲームを戦っているのかは常に意識しておきたい。
近距離で通る"筋"に頼ってはいけない。筋の射程を伸ばそう。 (Tweet, link)
自分がやっていること・扱っているものについて、2割くらいの健全な猜疑心を持っておきたい。「これが業界監修なので」に毛が生えた程度のロジックで説明をしているのに、それを自覚出来ていないとしたら人間の業を深めてしまう。
金も権力、人間の器程度に持つのが良い。器より少なく持っているよりも、器より多く持っている方が害が大きい。こぼれるし。じゃあ器とは何かと言われれば、無意識に浸透した理性と美徳の量及び質である。
私自身、人間集団の可能性については強く悲観的だが、人間個人の可能性については概ね楽観的。その上で、社会集団として努力することは大切だと思っている。
私が「何でこの組織/人はこういう意思決定をしちゃうんだろう」と思ったとき、エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』を読むとほぼ謎が解ける。
人間は孤立することを最も恐れている。
理性的な人間であればあるほど、自分は自らの意思で動いていると信じているし、理性や意思の「積極的な自由」を求めることを自然だと考える
しかし人間は、自由になればなるほど、潜在的に耐えがたい孤独感や無力感に脅かされることになる
結果、退行的な逃避のメカニズムが働き、人間は自由から積極的に(しかし無意識に)逃走する。
なんにせよ、フラジャイル最新刊が素晴らしかった。
🍵今の関心事
アゼルバイジャンとアルメニアの今後。
Care-lessとCare-freeの境目を超えていきたい。アシュリー・バーティのメンタルコーチがこの重要性について語っていた。
いかにUnselfingするか。(link)
🥑活動報告
先週は朝と夜にがつっと会議をしつつ、昼は未来の事業+ライフミッションのための視察をしていました。人生を生きよう。充実したライフにしよう。
そろそろ車を買いそうです。広島カープファンなのでMazda一択。
今週も、Happy Weekを:-)