がんばるあなたは偉い。
動画メディア・Pivot、里崎捕手、量より質、幸田露伴、直接努力と間接努力、バーベキューをAIに任せる、中国の産業政策、イタリアサッカーの不調と移民政策、自動運転と政治、ABC目標設定、富が人間をどう変えるのか、カール・ポランニー、マクルーハンのメディア論、小田凱人、
動画メディア・Pivotに元ロッテの里崎捕手が登場していた。オルツやニデックなど”アレ”なスポンサーを迎えていたり、企業不正が表面化した後に関連動画をしれっと削除したり、生理的に受け付けない広告企業 a.k.a 電通と組んで番組をつくっていたり(当然のように不祥事があり公開停止されている)して、普段全く観ないのだけれど、里崎回は別だ。捕手論と棋士論の素晴らしさはメディアを問わない。
メッセージはシンプルである。『とにかくやれ』『逃げるな』である。プロ野球の捕手として実働15年、日本代表やオールスターにも選出され、最高峰投手の球を受けてきた彼は、トップは例外なく量をやり、落ちる選手ほど『量より質』と逃げ言を言うのだと話している。量より質と言う人は漏れなく、ただやりたくないだけなのだと。本当に大事だと思っているならより質の高いトレーニングやパフォーマンスを追求するだろうがそれもしない。つまり、サボる口実として『量より質』を口にする。ヘラヘラしているやつほど、質を語るのだ。
3年前、幸田文のエッセイを読んだことをきっかけに、その父・幸田露伴の『努力論』を読んだ。日清・日露戦争を経て、個人・国家ともに、進歩や成功、修養や勤勉にいっそう価値が置かれはじめた明治末期〜大正期。努力しよう!と雑なメッセージが広がる中、明治以来の文豪・幸田露伴が乗り出してきて、努力なるものを理論的に整理しておこうというのが本書。露伴は、努力を「直接」と「間接」の二つに分ける。直接の努力はわかりやすく、ただ目の前の仕事やタスクに実直に向き合うこと。例えば、一生懸命に原稿を書く、たくさん商談に出て必死に語る、など。いっぽう間接の努力はやや複雑で、直接の努力を成果に変えるための土壌づくりを対象にする。観察力を鍛える、感受性を高める、世の中の理解を深める、身体を整えるなど。露伴は、直接の努力だけでは成果は出ない、間接の努力こそ価値を生むための基礎であり源泉だと書いている。朝から晩まで紙に句を並べても、感受性も成熟も育っていなければいい詩が生まれることはない。質を追求した努力は、果たして間接まで届くのだろうか。
会社員は、ただでさえ量を追求しづらい(させづらい)時代である。労働時間の制限は厳しく、○○ハラへの恐れは努力要求を後退させる。同時に、効率、最適化、タイムパフォーマンスなど、量をやらずに済ませるための嘘語彙だけが年々ぶ厚くなっていく。露伴が当たり前の前提にしていた、努力が地続きであるような世界はもう標準ではないのだろう。そもそも努力を嫌いのが人の常、80%の人は直接間接いずれの努力もせず、日々をやり過ごしているだけである。残った2割の人も、限られた業務時間、貴重な努力量を間接的なものに向ける/向けさせることは中々認められない(業務時間中に技術書を読むことが推奨される職場は体感年々減っている)。目の前のタスクを一生懸命こなしているともう18時である。さて、間接的な努力は本人に委ねられている。始業前、終業後、休憩中、週末と、直接の努力が成果に結びつくようにするための土壌は、自らで耕さなくてはいけない。
誰が逃げずに量をこなすのか。指示された直接努力をこなした上で、間接努力にまで手を出すのはどんな人なのか。結局、がんばる人である。少なくとも、がんばろうとする人である。がんばろうとする意志さえ持っていれば、努力の方向性や行うべきトレーニングなど、周りはいろんなサポートをして上げられる。がんばろうとしない人には救いはない。それを体の芯から理解しているからこそ、企業は体育会出身者を優先して採用する(極めて合理的な意志決定だと思う)
努力が標準だった時代には、がんばること自体に希少価値はなかった。進歩や成功、修養や勤勉に疑問が呈され、努力が例外になったいま令和の時代にこそ、がんばる人の価値はとんでもないことになっている。表面知識は機械がなんとかしてくれるいま、大量に手を動かした人の中にしか溜まらない判断や勘どころ、間接努力で耕した土壌こそがあなた自身なのだ。8割が手を抜く(しそれがある種の美徳とされる)世界で、淡々と努力をする2割、さらに限られた、自発的に間接努力にまで手を出す人は絶滅危惧種である。そして月曜の朝から、毒にも薬にもならないこのニュースレターを読んでいるあなたは、ある種の絶滅危惧種である。
いまは賢くなくていい。要領が悪くてもいい。努力の量を積み、その下の土壌を耕すこと。直接の努力も、間接の努力も、淡々と、両方やめない自分でいること。複利は金融資産だけでは無く、あらゆるものに利くのである。テレビの向こうで活躍する努力の鬼・大谷翔平を応援するのもいいけれど、自分の持ち場でがんばるやつになろう。
お便りをお待ちしています。
💼心惹かれたもの
BBQ Kobe West:神戸での生活8年目、神戸ワイナリー併設のこちらにはじめて伺いました。バーベキューが気持ち良い季節です。 link
おろしそば:改めて最近ハマっています。うますぎんか?
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
バーベキューをAIに任せること:You Kosekiさんの短編小説。土曜、友人家族を招いたバーベキューを開くはずだったのに、若手社員がAIに丸投げしたシステムトラブルが発生したばかりに休日出勤を余儀なくされ、バーベキューの方を個人AIにまかせることになったお話し。技術への盲信が生む滑稽さと不気味さ、むなしさが詰まっている。最新AIが『このシステムは必要以上に複雑なので、捨てるかゼロからつくり直しましょう』と提案してくるあたりのリアリティ。Kosekiさんがいう通り、近未来の話というより、ほぼ現実の話に見えてくる。link
マッキンゼーレポート『ロボット王国・日本を目指して』:2010年、産業用ロボットの世界トップ10社のうち5社が日本勢だった。だがAI×汎用ロボット時代にはそうはいかない。市場規模は2025年の10億ドル未満から2040年には3,700億ドルへと急拡大が見込まれている。マッキンゼーは、勝負はハードウェア単体よりも、精密工学にAI・ソフトウェア・データをどう組み合わせるか・束ねるかで着くとみている。日本の産業用ロボット生産シェアは2015年の54%から2024年に29%へと下落し、ヒューマノイドの特許出願は中国の1/7に留まる。経産省は『40年・世界シェア3割』を掲げるけれど、どこまで実現に本気なのだろうか。link
世界経済を破滅に近づける中国の産業政策:中国の中間層購買力向上が世界成長を牽引する、という予想は過去のものとなった。習近平が選んだのは、補助金と減税、賃金と通貨の抑制で輸出を人工的に安くする製造業国家モデルを突き詰めること。鉄鋼も太陽光パネルもEVも、外国企業は競争できないレベルの品質・価格バランスを実現している。ドイツは製造業の雇用を月1万人づつ失い、インドネシアは縫製業で数十万人分が失業の危機に瀕している。中国はウハウハなのかと思ったら、生産者を優遇し消費者を抑え込むこの構造が、中国経済自体も歪めていることが記事から伝わってくる。世界経済はどこに向かうんだろうか link
サッカー王国・イタリアの3連続W杯予選敗退は移民政策の故:イタリア代表は2018〜2026年までW杯三連続不在の危機にある。往年のサッカー王国で何が起きたのか、記事が指摘するのは、戦術の古さや若手育成の停滞に加えて、移民政策による人材プールの涸渇である。2022年9月に誕生したメローニ政権は、伝統的な家族観や国家主権の重視に加え、強制送還の徹底や移民船の侵入阻止など、厳格な移民制限を実施している。フランスやドイツが移民一世・二世の選手を代表に迎え躍進する一方で、イタリアは違う道を選ぶことになった。政治とスポーツの関係はどこまでも深い。 link
ニューヨークの高級ストリップクラブより:著者が記すのは、金銭と欲望が交換される空間の内側。入場した者は衣服とともに現実を脱ぎ捨て、店側が入念に用意したファンタジーに身を浸す。著者の書き方は露悪的でも悪の告発でもない。ただただ丁寧な観察の筆致が、人間の止められない欲望を取引可能な商品に変える経済の根っこの仕組みを冷静に解剖していく。冷静に見つめると、そこで何が売られ、何が買われているのかを厳密に定義することは難しい。親密さの演技に値段がつくとき、本物と偽物の境界はどこにあるのか。きらびやかな照明の下で、資本主義の素顔がちらちらと覗く。そんな文章だった。 link
100年失敗し続けた缶カクテルがやっと社会に浸透:2025年、アメリカ人は缶入りカクテルを約110億杯飲んだ。野球場でマイタイ、CVSやウォルマートでパロマの缶。100年以上失敗し続けてきた持ち運べるカクテルがついに定着したといえる。四本パックでショット6〜8杯分が12ドルほど。アルコールを飲む人が減っていると言うけれど、飲む人のあたりの飲酒量や、普段飲まない人がイベントごとで飲む量はむしろ増えている不思議。ビールより強い酒がビールと同じ気軽さで手に入るようになったのだ。お酒から考える社会変化、楽しそうな考察経路である。 link
事故を92%減らす技術を左派政治が止める:ウェイモ/Waymoの自動運転は重大事故を大幅に減らすことが実証されつつある。交通局がもつデータだけで判断するならば、導入を止める理由はない。ところがニューヨーク市長マムダニは、タクシー運転手の雇用を守ることを理由に試験走行の許可を更新しなかった。当然テック企業はお怒りで、西海岸の皆さまは左派に嘲笑を向けている。安全確保も雇用維持も正しい目標であり、この対立に簡単な答えはないけれど、技術が人命を救うんだという事実が明らかになるほどにこの対立は深刻なものになっていく。 link
トップアスリートが実践する緊張を飼い慣らす技術:2026年全仏準々決勝。コボッリはスヴァイダにあと一歩まで追い詰められ、緊張が身体に出て、考えすぎが手を狂わせた。トップ選手でも、緊張そのものは消せない。記事が扱うのは、消せない緊張をどう飼い慣らすかという技術である。深呼吸やルーティンといった限定的な対症療法ではなく、より広義の、侵入してくる感情や思考との付き合い方そのものがテーマである。コートで起きていることは、プレゼン直前や交渉の場で我々が抱える何かと地続きである。無理にでも笑顔を作り、拳をぎゅっぎゅと扱って、体から脳に指令を送ろう。link
古い本を読め:著述家・エマーソンが1870年に記した読書の三つのルール。一年以上経っていない本は読むな、有名でない本は読むな、好きでない本は読むな。乱暴に聞こえるが、時間というフィルター/研磨機構を通り抜けた本だけが頑健な知恵を持ち、有名であるほどにその強度は高く、さらに好きでないならそもそも学びにも成らないだろうと。苦境にあえぐメディア・出版業界がなんとかマーケティング手法を駆使して売りさばこうとする新刊や速報を脇目に、古典ばかりに手を伸ばすビジネスパーソンがいたなら、その人は信頼できる人かもしれない。link
目標による挫折を防ぐ『ABCゴールシステム』:一つの挑戦に対して、「Aは最高の理想、Cは最低限、ベースとなるBで始まる」この3層目標設定を推奨している記事。例えばマラソン。普段のペースから「B:4時間完走」を目標にスタートし、調子が良ければ「A:3時間半完走」に格上げし、どこかに痛みが出始めたら「C:歩かずに完走」へと目標を修正する。野心的な目標1つだけだと、未達瞬間にすべてが失敗に分類されてしまい、勢い・モーメンタムが消え去ってしまう。目標を三層分割し柔軟に行き来させることで、ペースが上振れ/下振れした日も前進できる。完璧か挫折かの二択は不毛である。何かを行っていれば、少なくともプラスにはなるのだ。 link
富が人間をどう変えるのか:大富豪を観察して得られた5つの見解から学ぼう。大原則は↓に集約されます。①富は人を変えるというより「本性を暴き出す」、②富裕層最大の問題は”孤立・孤独”、③儀式としての倹約、④富裕層にとって「成功=正義」、⑤結局リスクをとらないと快楽が得られない。 link
貧乏な時に幸せだった人は金持ちになっても幸せだ。惨めだった人は惨めなままだ
📙本
カール・ポランニー 市場社会・民主主義・人間の自由:労働・土地・貨幣の3つを商品として取り扱ったがばっかりに社会は壊れてしまった、と語る20世紀の社会思想家、カール・ポランニー。年収○千万!が社会ステータス化し、東京は住む場所でなくなり、債券価格と為替で国際政治が揉めまくる現代。彼が語った自由の観点から人生を捉えてみるのもいいかもしれない。 link
マクルーハン発言集 メディア論の想像力:「メディアこそがメッセージである」で有名なマクルーハン。『グーテンベルクの銀河系 活字人間の形成』と合わせてじっくり読んでいます。そら、VRやAIをやっている人がこの人の言葉を真剣に受けとめるわ。同時に、彼の言葉の表面でサーフィンしている広告マンの言葉が軽薄な理由もわかってきた。字幕でテレビをダメにしたのは皆さんですね。 link
📻観た/聴いた
Audible:庭の話:承認と消費が覆い尽くす社会で『私たちはどうすれば“支配できないもの”とうまく関わりながら、自分の手で生きる場所をつくれるのか?』を考える。宇野常寛さん、遅いインターネットも未読なのだけど、出遅れで面白がっています。 link
🧩感じた/感じている
ここ2週間ほど睡眠の調子がよく、結果として仕事や食事、運動も良いサイクルで回っている。良い睡眠は良い生活の礎。土曜の夜は9時間寝ました。
佐藤天彦先生の『技術革新×将棋』に関する質問回答、心に来る内容でした。技術がリアルに仕事現場を荒らしに来ている(AI単体だけではなくAI×配信の影響で棋士本人よりも視聴者の方が正解が見えていることが常態化している)のに、嘆くことをせず、研究者・勝負師・芸術家としての仕事を続けるトップ棋士の皆々様はただ尊敬です。 link
「新しいやり方」を受け容れられず「それまでのやり方」にこだわったり、中途半端になったりする時期は「移行期」ともいえます。移行期においては、ある程度成績が落ちるのは仕方がありません。「新しいやり方」にスムーズに移行できなくて内容も優れず、成績を落としているのは傍から見れば無様かもしれません。でも、こうして頑張っている自分自身のことがわかっていれば、必要以上に自分を責めることもなくなります。打ち込んでいる仕事がうまくいかなかったり、頑張りたくても頑張れないときに「自分を責めない」のは、決してベストな状態ではありませんが、ベターではあるのかなと思います。逆に、寄って立つものがないときは積み重ねた地力がさらけ出される瞬間でもあり、棋士としてはそうした時期もまた、優れた成績や内容といったものとは別の何かを表現しているのだと考えています。
🍵関心事
小田凱人の全仏連覇、どこまで続くのか。ストイックさをどこまで突き詰めるんだろうか。
月曜朝一の東京株式市場がどう動くのか。半導体株の熱狂にラガード投資した人の阿鼻叫喚が既にきこえてきている。
ホルムズ海峡をなんとかする!(そしてFRBは金利を引き下げるべきだ)とN回目の大言をぶっ放したトランプ大統領、どこまで本気なのだろうか。かれは結局の所なにをしようとしているのだろうか。
🥑活動報告
先週ご一緒したお客さんから私のホワイトボード使いを激賞されまして、ケーシー高峰の後継者になるぞと息巻いています。調べると高峰さん、家業を継ぐべく日大医学部に進学するもいろいろあって芸術学部に転部。母に勘当されるもクラブMCとして名を挙げ、芸人を志し14年下積みの後に漫談家・俳優として活躍された方だったとのこと。2019年に逝去。偉人です。
お便りをお待ちしています。


