神戸からおはようございます。このニュースレターはいま305名の方が登録してくださっています。(やったー!300名を超えた!)ずっと読んでくださっている方も、最近購読してくださった方も、お初の方も、ありがとうございます。
そろそろ年末が近いので、この1年で読んだおすすめ本をまとめ始めています。どんな本を選ぶことにしているかというと、本のタイトルや表紙を見たときに『あぁ、これは良い本やったなぁ』としみじみ思えるかどうか、その一点。売れた本か、書籍サイトのレビューはどうかは全て無視。ド主観でこれまで約10年やってきました。
→昨年のまとめ がこちらです。
わたしは、著者and/or訳者あとがきの素敵な本が好きです。よくある「読書力を上げたければ目次を熟読してから内容を想像して…」的な読み方よりも、あとがきを読んで自分にしっくりくる本を熟読する方がよっぽど学びが多い。
今年読んだ本の中で、圧倒的にあとがきが素敵だったのが、ファニー・ピション著/高遠弘美訳の『プルーストへの扉』です。高遠弘美先生はフランス文学者で、まさにプルーストの専門家。代表作「失われた時を求めて」の翻訳出版を2010年9月から手がけるそんな方が、本国・フランスで発刊されたプルースト解説書の『翻訳』をされるなんて。プルーストの生い立ちと生涯、『失われた時を求めて』を読むべき理由、プルーストの文体論に焦点を当てた各章も素晴らしいのですが、↓で引用するあとがきがあまりに秀文でした。長いですが、その素晴らしさを伝える上で、いずれも欠くことの出来ない一節だと思っています。
…最近になっても年間数多く出版されるプルースト関係の書物はとても書棚一つや二つでは足りません。とはいえ、座右において折に触れ繙読したいと思うプルースト論は、私の場合、今ではそれほど多くないというのが正直なところです。(中略)… 結局は何冊かの再読したいプルースト論を除けば、何度目であろうと『失われた時を求めて』を再読するほうが残り少ない自らの人生でなすべきこととしては正しいと思うようになりました。
(中略)「失われた時を求めて』はピションも言うように、何千頁もある大長篇小説です。そこからある糸を探るように、自分のテーマに引きつけて研究論文をなす人々があとを絶たないのは当然のことでしょう。それだけプルーストの世界が豊饒である証拠であり、いずれも意味深い研究と言えるのですが、それにしても最終的に「失われた時を求めて」に未読の読者を誘わないとすれば、そうした研究の意義はどこにあるのか、私個人としてはずっと疑問に思ってきました。ピションの本には少なくともそのような心配はありません。ピションの本はそうしたいわゆる研究書ではなく、あくまでプルースト、あるいは「失われた時を求めて」に寄り添って話を進めているからです。本書の目的についてピションは次のように言います。
ひとことで言えば、『失われた時を求めて』を読んでみたいと思っていただくこと、それに尽きます。 自分の人生を変えた本として挙げられるものはごくわずかですが、『失われた時を求めて』はまさにそうした本に属しています。とはいえ、魔法の杖を振ったかのようにいっぺんに人生が変わることはありません。自らの人生を変えるためには少しばかりの努力が必要です。作者のプルーストが必死に書き続け、道半ばで斃れたのも私たちのためだったのですから。
ここ数年、私が気になって仕方のないことがあります。それは『失われた時を求めて』で「挫折」するかどうかを気にする方が少なくないということです。
さまざまな機会に申し上げていることですが、本には読むにふさわしい時があります。『失われた時を求めて』をいま読めなくても、あるいは生涯縁がなくても構わない、ただし出会うことができればこれほど豊かな読書の時間は滅多にないと思うのです。その代わり、全篇読んだかどうかを他人と競う必要もありませ ん。読書とはきわめて個人的な経験であり、誰かと競って勝ち負けを争うような行為ではないからです。
(同書, pp.148-151)
今年読んだ本の中で最も印象に残っている本のうちの一冊がこの『プルーストへの扉』であることが、この部分を読んで頂くだけでも伝わるかと思います。著者も訳者もプルーストへの愛に溢れている、そんな本でした。できれば、↑の文章をゆっくりと声に出して読んでみて欲しいです。自分の口と耳で、ゆっくりと身体に馴染ませてほしい。
年末年始にはまとまった時間で読書が出来る、と思っている方もいるかもしれません(週末お会いした方のひとりは、23日から7日までおやすみとのことでした)。他人の目など気にせず、ぜひご自身を深める本と向き合って頂ければと思います。読書とは極めて個人的な体験で、誰かと競って勝ち負けを争うような行為ではないのですから。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
努力を「有効な努力」にするために:「量を質に転換する」ためには内省とフィードバックのループ、そして場数・打席・機会の絶対量を担保するための周囲のサポートが必要。経験学習モデル、昔からあるけど、まだまだ有効に活用する余地の残ったモデルだよなと改めて感じます。 (note, link)
エンジニアのやる気を削ぐ会議術:私のやる気も削がれる技がたくさん紹介されています。特に「事前に資料を配った上で、当日資料を読み上げる」が最悪です。 (Qiita, link)
刮目して観よ!Excel世界選手権を:盛り上がるサッカーW杯の裏で。バスケットだけではなく、Excelにもブザービーターが存在します。世界選手権がESPN3でストリーミング配信されていることに驚きました。オールスターゲームや大学選手権もあるんだ… フォートナイト (Atlantic, link)
米国でインフルエンザ流行が始まる:11月末からの1週間で2万人近くがインフルエンザで入院。感謝祭→クリスマスシーズンの旅行で更に患者が増加する見込みとAP通信が伝えています。 (Axios, link)
米国陸軍はCall of Duty配信者のスポンサーになる:Z世代、特に女性や黒人、ヒスパニック系視聴者を増やすために、eスポーツ関連イベントやCall of Dutyの配信者に対して合計数百万ドルをスポンサーしようとしていたことが内部文章から判明。Activisionのセクハラ騒動で中止となりましたが、ブランディングやリクルーティング施策の一環だったと考えられます。 (Vice/Motherboard, link)
韓国で初の自動運転バス路線が開設:ヒュンダイ傘下のスタートアップ・42dotが開発した、カメラ+レーザー技術を活用した自動運転バスがソウル市内の3.4km周回ルートを回ります。日経にも、ヒュンダイ自動車がソフトウェアにかける気迫が語られていました。 (Impact Lab, link)
ソーシャルメディアの時代は終わった:ソーシャル・ネットワークとソーシャル・メディアは違うものだぞ、前者は無為かつ不活発だが後者は活発かつ多動なものだと。Facebookの凋落やTwitterの混乱をみて、SNSがもたらす災厄がやっと人々に認知され、静かな、ネットワークだけが残るのだと。AtlanticにはInstagramがもはや若者の愛するメディアでなくなったとの記事も出ています。同じ著者がメディアの未来について語った内容も良かったです。中毒から離れ、もっと静かな世界を取り戻そう。 (Atlantic, link)
ピーナッツとハーブ・スパイスが腸内細菌叢改善に効果的:ペンシルベニア州立大チームの研究。1日30グラムのピーナッツ、または小さじ1杯程度のハーブやスパイスを食事に加えるだけで、健康な肝臓代謝と免疫機能に関連する細菌群であるRuminococcaceaeに良い影響を与えました。簡単にできる健康対策。じゃんじゃんスパイス使おう。 (PennState, link)
クラゲ的生物の泳ぎ方を水中航行体設計に活かす:海洋生物ナノミア・ビジュガは、十数個のふにゃふにゃ構造体が水を後方に押し出すジェット推進で泳ぐのですが、スピード重視orエネルギー効率重視を必要に応じて使い分けられるんですって。オレゴン大学の研究チームがこのマルチジェット機構に注目し、コンピュータモデルで解析を行い、今後の水中ロボット開発に活かすとのこと。 (AroundtheO, link)
味を損なわず食物繊維を増やすデンプンを開発:豪ロイヤルメルボルン工科大学のチームが開発したFiberXを使ってパスタやケーキを作れば、同じ味で、腸内環境を良くする食事に出来るかも! (ナゾロジー, link)
欲望は戦略ではない:自らの欲望をただ表明・構造化したOKRはただの目標、つまり欲望であって、戦略たり得ないと元ロットマンスクール学長のロジャー・マーティンは言います。全く同意見で、多くの人は、フレームワークを導入するとそこで思考が止まってしまう。出発点に過ぎないのに。 (Roger Martin, link)
📙本
プルーストへの扉:カバーストーリーを書くにあたって再読。プルーストが好きになっちゃったアゴスティネリとの関係に改めてドン引く(飛行機を買ってあげる、ですって???)。プルーストの周りにいる人間とそこにある社会、あまりに人間で愛すべき何かでした。いつか読むぞ、失われた時を求めて。 (Amazon, link)
暴力と紛争の“集団心理”:愛国心!攻撃的国民性!みたいな一般庶民的勘違い・間違いが多そうな(私もしていそうな)領域なので腰を据えて勉強。とある研究では『戦争の最前線にいる兵士でもその15%しか発砲しない』(!)らしく、自律型兵器が導入されたときのインパクトについて思いを馳せています。外集団も内集団も幻想で、幽霊だと信じています。 (Amazon, link)
体はゆく −できるを科学する〈テクノロジー×身体〉:東工大・伊藤亜紗さんの新著。元巨人・桑田さんのフォーム解析の中で生まれた『変動の中での再現性』のコンセプト、咀嚼しがいがあります。 (Amazon, link)
カルロ・ロヴェッリの科学とは何か:すっかりこちらもファンなので。古代ギリシャに生まれた世界初の『科学者』アナクシマンドロスに焦点を当て、科学的思考って何だっけ、を問い直す本。今年読んだ本トップ10入りです。文化相対主義、宗教、それらと科学を分かつものは何か。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
Rebuild 349:序盤に先々週から盛り上がっているChatGPT話。先週月曜にStackOverflowはChatGPTが生成した回答の投稿を禁止。ダイアログを観ると、だいぶ左寄りのリバタリアンのようです。Qiita掲載の使い方まとめこちら参照ください。私はChrome拡張を入れました。 (link)
🧩感じた/感じている
先週から乗り始めたHonda・Rebel1100DCT、いまのところ最高です。カスタムも楽しい。来年はこれに乗ってツーリングツアー+ワーケーションをします。
積み上げもギャンブルも、どちらにも取り組むべき(メタファーです) (link)
どれだけ言葉を尽くしてもわかり合えない人間関係は存在し、たとえお互いが敬意と善意を持っていたとしても、その事実に変わりはない。
“予定通りに仕事ができない人間は、結局は人に甘えている” (森博嗣)
“恐れるよりは恐れられた方が、嫌うよりは嫌われた方が、妬むよりは妬まれた方が、はるかに状態が良い” (森博嗣)
🍵今の関心事
Cobe AssocieのB2Bマーケティング、何からどう手をつけるか。来年前半に強い関心対象になる。お金をかけてがつっとアセットにしたい。
これまで大事にしてきた時間や無限性の概念が自らの無知から生まれているのだと知ったときに、その事実をどう乗り越えるべきか。
🥑活動報告
今日が今年最後の献血です。2022年11回目。成分献血の認知度が低いようなのでみなさんにお知らせしたい。注射が苦手な人ほど、健康なときに慣れ親しんでおくべきでは?(私もその一派です
今年後半がんばってきたプロジェクトの締めが今週溢れています。踏ん張りどころ、がんばります。アンディ・ウォーホル展@京都を観にいく予定を心の支えに、ひと踏ん張りします。
仕事術っぽい内容の、自身2冊目の単著が来年真ん中くらいに発売になる予定です。いろんな所からむちゃな内容とスケジュールを突きつけられているんですが、辻褄を合わせるのが私の本領なので、任せてください。
新規事業支援やリサーチ周りのご相談があれば、Cobe Associe/田中まで!良い仕事しますよ!(自薦
みなさま今週も、Happy Weekを:-)