神戸からおはようございます。このニュースレターはいま353名の方が登録してくださっています。いつもありがとうございます。
今週で2023年の最初の3ヶ月が終わります。いろんな区切りがあることでしょう。会社の業績、異動や転職。家族や知人の進学や就職。引っ越しや新しい出会い。12月→1月よりも、生活の実質的な変化が多い月跨ぎになることと思います。
この3ヶ月で読んだ本の中で一番実りがあったのは、過去のこーべ通信でも取り上げた『ステータス・ゲームの心理学: なぜ人は他者より優位に立ちたいのか』です。ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』や、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』が好きな人は間違いなく楽しめる一冊だと思います。
日々感じるいろんな疑問、
なぜマルチ商法はどの時代・地域でも普遍的に見られるのか
高齢者がやたらと若者にマナーを押しつけたがるのか
優れた人格者とされる偉人でも謎の発言をしてしまうのはなぜか(あのマハトマ・ガンジーでさえアフリカの黒人を貶める言葉を残している)
イーロン・マスクなり孫正義なり「もうそんなにがんばらんくてもええのに」と思える人たちがなぜ体と心を壊してまでも激務を続けるのか
ファッションや音楽、アートがなぜ(どうせ消え去る一時の)流行であんなに大きく揺れ動くのか…等
に答えというか、精度の高い仮説が得られた感じがします。
…人間は支配、美徳、能力という行為からステータスを手に入れることができ、わたしたちは無我夢中でどんな戦略でも使おうとする。科学者もプリンセスも麻薬組織のボスも、支配、美徳、成功のモードを切り替えながら、人生というゲームをプレーしている。わたしたちはみな、ときにやりにくかったり、ときに矛盾しつつも、大きな目標に向かってこれら三つのルートを混ぜあわせているのだ。 (p.56)
みなステータスで少しでも上にいこうとし(同時に他者を下げようとし)、とあるゲームで自分に勝ち目がないとわかったら、新しいゲームに移ったり、なんなら自分自身で新たなゲームを生み出そうとするからなんだと。更には、最も簡単に生み出せるのが美徳・マナーのゲームだから、ローカルルールみたいなものが乱発されるからだと。この3ヶ月で1回でも「こいつなんやねん。わけわからんわ」と思ったことがある人は、本書から学べることがたくさんあるはず。
本書最後の文末がまた希望をくれました。
…スーパースター、大統領、天才、芸術家。人々から羨望と畏敬の念を抱かれるどんな人であろうと、 約束の地にはたどり着けない。そうわかっていれば、みなの慰みになるのではないだろうか。約束の地は蜃気楼だ。それは神話だ。最悪のときこそ、夢の真実を思いだそう。人生は物語ではなく、終わりのないゲームだと。つまり、わたしたちが追い求めるべきは最終的な勝利ではなく、シンプルに謙虚に前進すること、すなわち正しい方向へ進んでいるときの果てない喜びなのだ。ステータス・ゲームで勝つ人はいない。勝者は絶対に生まれない。人生の意味とは、勝つことではなくプレーすることなのだ。 (pp.385-386)
次の三ヶ月も、どんどんプレーしていきましょう。生きてるだけで儲けもの、その地平でやっていくのです。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
ブラジルの違法採掘現場でイーロン・マスクのStarlinkが大活躍:アマゾン奥地で違法採掘を行う犯罪組織がネット回線を使うためにStarlinkをがんがんに利用していることを現地環境局が告発。22年5月に現地で発売されて以来、アマゾン保護活動家の役にも立ってきたが、逆方面にも使われていると。 (Futurism, link)
データセンターの廃熱を利用して温水プールを温める:英国のスタートアップ・Deep Green社の取組み。ナッシュ改善な感じがして好きです。 (gigazine, link)
女子W杯の賞金が大幅増額:「男女同額を!」の声が大きくなる中、2023年大会の賞金は前回比で300%以上増額することに。しかしサウジアラビア観光局がスポンサーになるかどうかで揉め揉めしています。国際興行は大変だ。 (AP News, link)
米軍のイラク侵攻から20年:政治予算のほとんどは石油でまかなわれ民間経済は不活発。当然政治の混迷は深い。ギャラップ社調査ではアフガニスタン、レバノンに続き世界で3番目に不幸な国として位置づけられているイラク。22年10月に就任したスダニ首相は米国を「戦略的パートナー」と呼ぶのか。いやはや、現人口の半数は米国侵攻後に生まれている事実にもびっくり。 (Axios, link)
屈辱と無礼で動く国際政治:インドの作家、パンカジ・ミシュラは「感情が国家を形成する」と言います。いまのロシアの振る舞いや中国がロシアに共感する理由をそこから読み解く。いい論考でした。 (NOEMA, link)
脳と心の科学の「ミッドライフクライシス」:京大・神谷先生の記事。こういうことをまっすぐに言える研究者ってかっこいいな。>"脳と心の科学は、「心を理解する」「精神疾患の解明・治療」など、誰もそのテーマ自体の重要性は否定できないお題目を掲げ、社会の期待を集め、研究費の面でも優遇されてきた。30年前には予期できなかった飛躍的な技術的進歩があったものの、当初の期待に応えたとはいい難いだろう。" (Kaneko Shobo, link)
レオナルド・ダ・ヴィンチの母親は10代で誘拐された奴隷だった:伊・ナポリ東洋大学の研究。ダヴィンチの母は10大でコーカサス地方で誘拐された奴隷で、つまりダヴィンチはイタリア人とコーカサス出身者(チェルケス人)のハーフだったと。研究者自身はこれを反証しようと長く試みたが、すべての事実を鑑み、降参したと。近代最初の「祖国を失った民族」、チェルケス人の研究もこれで進むかしら。 (ナゾロジー, link)
スポーツ生観戦はウェルビーイングを改善させる:英国7千人超のデータを解析したところ、スポーツライブに参加すると生活満足度と生きがいスコアが改善し、孤独感は低くなると。今年9月にラグビーW杯@フランスを生観戦するので、私の秋は充実したものになるはず。 (Anglia Ruskin Univ., link)
微熱は感染症を早く治す効果がある:アルバータ大学の魚を対象とした研究。似たようなことをいう親類・知人いますよね。解熱剤のご利用は計画的に。 (University of Alberta, link)
偏頭痛に15分で作用する鼻スプレー型治療薬がFDA承認:救われる人が多くいそう。2023年7月にファイザーから発売予定。 (ナゾロジー, link)
「ジェンダーバイアスは世代間で受け継がれる」ことを歯の分析で示す:身体的ストレスが持続したときに歯に出来る線上のエナメル質形成を分析することで男女格差・平等どの分析に用いると。こういうクリエイティブなHow好きだ。 (Futirism, link)
シリコンバレーで広がる非スタートアップな小企業:ごりごりにネット/テクノロジーを活かすがVC含めたエクイティ調達に依存せず、早期に資本効率性の良いビジネスを構築することでスケーラビリティを担保する。うち・Cobe Associeも数年以内にそういうモデルに移行していきたいなぁ(いまは純粋な小企業なので)。新規事業を行う中小企業をすべて「スタートアップ!」と読んじゃうリテラシーからは早めに脱却しましょう。 (Working Theories, link)
GPTにおける優れたプロンプト=バスケにおけるジャンプシュート:初期のバスケットボールにはジャンプシュートは存在せず、初期のハードル走でランナーはハードルの前で毎回停止していた。しかし、1人の異端者が新しい戦い方を発明し、それが周りに波及していったんだと。このメタファーに乗っ取り、GPT-4のような新しいゲーム、新しい環境、新しいルールが生まれたときには、そこで新しい戦い方が生まれるんだと語るエッセイ。素敵な文章だった。 (Scott’s Substack, link)
生成AIが作り出した画像は「アートではない」by 米国著作権局:米国で行われた裁判によると、"「Midjourneyが何を作るかを事前に予測することは不可能であるためそのプロセスはユーザーによって制御されない」、つまり人間が実際に作ったわけではなくAI画像に著作権はない"とのこと。この判決によって権利関係のゴタゴタが回避され、産業発展が促されるというポジティブ面があるとこの記事はいいます。さて、5年後はどうなっているか。 (The Information, link)
世界を理解するためのコンセプト40個:人がドーパミン中毒に変えられていく"Limbic Capitalism(辺縁系資本主義)"、ファンやコミュニティ対応が過剰になっていく"Audience Capture"、現在の基準で過去・未来の善悪判断を行う"Presentism"など。自分の視点、見直しませんか? (The Prism, link)
📙本
文藝 2022年冬季号:バックナンバーで『魔女・陰謀・エンパワメント』の特集を読む。"現代魔女の基礎知識2022"なるパワーワードに惹かれながら、姿勢としての魔女を自分にも取り込みたいなと思う次第でした。特集以外だと小川哲『神についての方程式』が素敵でした。。 (Amazon, link)
美術手帖 2023年 04月号:最新号の特集は『「ブラック・アート」とは何か?』。↑文藝に掲載された第59回文藝賞の受賞作品が日本に住む黒人ハーフの方が主人公の作品だったので、不思議な巡り合わせに巻き込まれました。 (Amazon, link)
“日本も米国も人工知能、STEM (科学、技術、工学、数学)学習、手作業での工程をコンピュータが援助する戦略へと急速に向かっており、効率や経済的利益やロボットを賞賛するプロパガンダが生の唯一の可能性だと思ってしまう瞬間があります。いっぽうで、粘土やそのほかの工芸を選ぶことは、身体、手、個人的なもの、ゆっくりしたもの、限界があるものを選ぶことです。 それは身体にできることを喜び、同時に心にできることも讃え忘れずにいることです。これは驚くほど政治的な行為で、手は重要で、人々は自分の可能性、限界、能力を深く理解する権利があると主張するこの運動は絶対に必要です。”
美術手帖 2023年04月号 pp.32-33 Inteview with Theaster Gates
📻観た/聴いた
月刊誌・Midjourney:とりあえず購読してみる姿勢。月4ドル。 (link)
🧩感じた/感じている
エンジェルス・大谷選手を育てた花巻東高校野球部監督・佐々木洋先生の『先入観は可能を不可能にする』は全くもって至言だ。
「意志決定においてデフォルトをどこに設定するかが重要」だと知識としては知っていたが、頭を剃ってから一層それを感じる。剃る前はとっても不安だったが、剃った後は「毛根全部消えてくれないかな」とさえ思う。人間は面白い。
今後のアウトプットの質を予測する最も精度のいい因子はインプットの質・量+過去のアウトプットの量。一からはじめるなら、まずはインプットから。
世界経済も政治もえらいことになっている一方で、捏造だなんだで盛り上がれる国会を持つ日本という国は大変平和である。もっと気軽に「だからなんだというんだ?」と口に出す人が増えてもいいはずなのに。
なんでも良いものごとほど、どうでもよくはない。
🍵今の関心事
運転上手いマンになる最短経路。ハンドルへの手の添え方、いまだに正解がわからない。
いつ広島・岡山への車旅に出るか。久しぶりに尾道にいきたい。
Adobe Fireflyをどんな形で試すか。
🥑活動報告
ばちばちに忙しかった先週・先々週をくぐり抜け、今週は「あー、忙しいなぁ」くらいでいけそうです。今週末にGPT-4さんと試行壁打ちをしようと思っているので、素敵なプロンプトを収集中。リサーチじゃなくて叩き台作り→練り込み・磨き込みに使うべきものだと思っています>GPT系。
4/4に行われる将棋・名人戦第1局の前夜祭@椿山荘に参加できることになりました。めちゃくちゃ盛り上がっています。渡辺先生推し。ぬいぐるみ持参します。
5月中旬に北海道・札幌に行きます。
今週も、Happy Weekを:-)