神戸からおはようございます。このニュースレターはいま366名の方が登録してくださっています。いつもありがとうございます。
さて、ゴールデンウィークも明けました。5月病が社会に蔓延する時期です。この疾患、対処法があまりないことで有名で、なんや運動がいいだの人間関係のコツだのやいのやいのといわれるものの、個人的おすすめ技法は、
そんなもんだと割り切って、「ま、そんなもんだな」と口に出す。
1日に40回くらい口に出す。
以上です。モチベーションはコントロールできないですから。ほとんどの疾患と同じく、本人の意志と関係なく罹患し、たいがいは時間が勝手に解決してくれます。やる気が出ないときには、そういうものだと理解して、まずは寝ましょう。暴飲暴食も良い。とにかく割り切りましょう。
割り切ったあとにでも「ま、でもやらなきゃな」と思えるようなことだけがんばりましょう。誰にも感謝もされず誰もやりたがらないが、それでも誰かがやらなくてはいけないこと。村上春樹が『ダンス・ダンス・ダンス』で「僕」の口を使って表現したように、雪かきと一緒です。個人に閉じた"やりたい""やるべき"はいったん脇に置いて、誰か・どこかとの結びつきを繋ぐための活動。
「穴を埋める為の文章を提供してるだけのことです。何でもいいんです。字が書いてあればいいんです。でも誰かが書かなくてはならない。で、僕が書いてるんです。雪かきと同じです。文化的雪かき」
「僕」は続ける
「今やってることに関しては、好きとも嫌いともいえないですね。そういうレベルの仕事じゃないから。でも有効な雪かきの方法というのは確かにありますね。コツとか、ノウハウとか、姿勢とか、力の入れ方とか、そういうのは。そういうのを考えるのは嫌いではないです」
これについて牧村拓が返す。
「その雪かきという表現は君が考えたのか?」
「俺がどこかで使っていいかな?その『雪かき』っていうやつ。面白い表現だ。文化的雪かき」
さらに牧村拓が言う。
「でも今はそうじゃない。何が正義かなんて誰にもわからん。みんなわかってない。だから目の前のことをこなしているだけだ。雪かきだ。君の言うとおりだ」
(村上春樹新聞, link)
先月、村上春樹6年ぶりの長編小説「街とその不確かな壁」が出ました。タイトルも装丁も決まってない段階からAmazonで予約販売がされる(そして実際そうとう売れる)のはさすがとしか。実際読んでみた感じ、村上春樹節が前回でした。フェミニストの方々が怒りそうな雰囲気をバチバチに感じるコンテンツ、さすがです。
5月にやるべきはまずは雪かき。有意義な活動は、身体が馴染んでから考えましょう。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
小説】 地震が予報できるようになった未来の話:note連載のSF短編。大深度地震計と衛星による地質情報の蓄積がAIとかけ合わさって大地震でも数日前に予測できるようになった世界、翌週に納品を控えたシステム開発会社の社員に「3日後に震度7の地震が来ます」との予報が届く。SNSでのコメントやコンビニの棚やポップ、計画運休後のまちかどコメントすべてがリアルでした。「技術は人の日常を不便にする」これを実感しました。 (note, link)
研究】コード品質はやはりビジネスに影響を与える:コード品質がビジネスに与えるインパクトを時間で計測した論文、 "Code Red: The Business Impact of Code Quality – A Quantitative Study of 39 Proprietary Production Codebases"を紹介してくれています。コード品質を高めることで保守性が高まり、結果としてビジネスのアジリティを高めることに繋がると。低品質なコードは、高品質なコードと比べて、欠陥は15倍、平均開発期間は2倍、最大開発時間は15倍になると。これコードに限らず文章も一緒で、低品質なビジネス言語で記された文書で運営されるプロジェクトは、平均必要時間が数倍になるだろうな、という実感。 (mtx2s’s blog, link)
マカオのカジノ収入は前年比450%もコロナ前水準には遠く及ばず:中国本土からの観光客が戻ってきたと。東南アジアの観光地は今年どこも恩恵を受けることになりそう。景気回復が本格化したらより高水準になりそうです。 (bloomberg, link)
AIに係うのは"時間の無駄":The Atlanticで編集主任を務めるデレク・トンプソンの記事、現代はそのまま "AI Is a Waste of Time"。AIによるディストピア/ユートピアそれぞれを不安視/期待する議論で溢れている一方で、いま話題のChatGPTしかり、ほとんど人はAIをただの遊びの道具としてつかっているに過ぎないと。同時に、1994年に発表された研究で、20世紀に家庭に普及した技術は「時間を節約する技術」(掃除機や冷蔵庫など)よりも「時間を使う技術」(テレビやラジオなど)のほうが早く・広く普及したことも指摘しています。最後のこの一文が良かったです、おしゃれ。> "AI will waste a billion hours before it saves a billion hours. Before it kills us all, it will kill a lot of time." (The Atlantic, link)
禅と自転車メンテナンス技術:以前もこのニュースレターでとりあげた、コロナ禍契機で自転車旅に魅了された方。ブログ記事タイトルはロバート・M. パーシグ『禅とオートバイ修理技術』のオマージュ。ブルックリンから太平洋岸まで3,800マイルを自転車横断しようとしたら2マイルいったところで自転車が故障してしまった…しかし自転車の魅力は、ほとんどの場合、修理できることにあると。バッテリーに小規模な傷が出来るだけで廃車になってしまうEVとは違うのだと。自宅に戻って15分で修理をし、また走り出した筆者。続きが楽しみです。 (Clive Thompson, link)
不思議で謎だらけの粘菌:ナショナルジオグラフィックの最高特集。不思議ビジュアル。向こう30年くらいで、粘菌の面白さや可能性はどんどん見えてくるだろうなと思っています。各種検査機器がどんどん安く、高性能になっているし。 (National Geographic, link)
「プロに任せる」のが下手な人の話:プロに任せる能力をどんどん高めていきたい、という願望があります。本文中に触れられている「そもそも人の話を聞かない人」は、本当に、文字通り"大勢"いて、こういう人が顧客側にもプロ側にもいるのが問題。『案外、新しい世界との出会いは、そうしたプロが示してくれたりするのだ』これは本当にその通りだ。良いプロと出会い続けたい。 (Books&Apps, link)
田舎に2年間住んで感じた現実:Shoho Kozawaさんが逗子にお引っ越しされて2年。素晴らしい環境を守りつつも、人口減少が続く地方都市の一つ。神戸も同じく、人口減少が続く街の一つ。文末の言葉は、地方のおっさん・おばさんはすべて心に刻まなくてはいけないと思うのです。口先だけのUJIターン歓迎など無力。 (Shoho Kozawa, link)
厳しい言い方をすれば、町は存続させたいけど混むから都会から人が来なくていいとか、人口は増やしたいけど移住してくるならちゃんとこの町のやり方を学んで欲しいとか未だに言っている人に言いたい。
「おまえは一体何を言っているんだ」と。
📙本
街とその不確かな壁:読み終え。村上春樹度がすごいな。。 (Amazon, link)
「肉体は魂の住む神殿だと言うものもいる」と門衛は言った。「あるいはそうかもしれん。しかし俺のようにこうして毎日、哀れな獣の死骸ばかり扱っていると、肉体なんぞ神殿どころか、ただの汚らしいあばら屋としか思えなくなる。そしてそんな貧相な容れ物に詰め込まれた魂そのものが、だんだん信用できなくなってくる。そんなもの、死体と一緒になたね油をかけて、ぱっと燃やしちまえばいいんじゃないかと思うときもある。どうせ生きて苦しむ以外に能のない代物なんだ。なあ、俺のそんな考え方は間違っているだろうか。 (Kindle, no.1,349)
「お金」で読む日本史:本郷和人先生監修。源頼朝や武田信玄、勝海舟や赤穂浪士の取組をお金の側面から探っていく本書。感想①密貿易ってめちゃくちゃ儲かるんやな(手を出した藩は速攻で数千億円規模の借金を返済している)感想②「金に糸目を付けない」「太鼓判をおす」って言葉が武田信玄・甲斐国由来の言葉だとはしらなんだ…感想③長岡藩の河井継之助、ヒーローです。最高にかっこいい。 (Amazon, link)
生きがいについて:次のポッドキャスト課題本です。神谷美恵子の名著。ハンセン病患者さんがたくさんいる施設で働いた経験がここに詰まっている。噛みしめがいがある言葉がたくさん。 (Amazon, link)
マンガ】アンナ・コムネナ:11-12世紀を生きた、西洋中世唯一の女性歴史家・ビザンツ皇女アンナ・コムネナの少女時代を描いた作品。3巻まで出ています。当時のアナトリアってこんな感じだったのか。そうだよな、十字軍もめちゃくちゃするよな。世界史ファンとしては、いろんな歴史文脈に思いを馳せつつ、アンナのかわいさを全力堪能できます。一心不乱にがんばる人はみなかわいい。 (Amazon, link)
マンガ】テンペスト:磁気嵐群の影響でY性染色体が消滅し男性のみが絶滅、そこから2千年が経った社会が舞台。少し前のSFマガジンで、おなじように男性がいない社会を舞台にした作品があったので、興味があって全巻買い。「男女という切り口が社会を分析する中で有効だ」って仮説・主張をますます受け入れづらくなりそうだ。わかりやすい分析軸に引っ張られているだけだな、うんうん。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
「無限」って何? 数学者が5段階のレベルで説明 | 5 Levels | WIRED Japan:素晴らしいシリーズ。自分がいかにものごとを理解していないか、考えていないかを突きつけられます。ブラックホール版も面白い。日本語版のWiredでも佐々田先生が「音楽と数学の関係性」等についてお話ししている動画があります。こちらもおすすめ。 (link)
🧩感じた/感じている
本郷和人先生の日本史書籍がいずれも素晴らしく、いろんな思考転換が起きた/起きている。
未来の一流プロフェッショナルになる若手と出会い続けたい。たいていそういう人は、怒りを湛えながら、日々努力を続けている。私も怒りを忘れないようにしたい。
その道で一流になるためには、努力をそのものを楽しめる領域を選ぶことが大切。難しいのは、努力の過程で楽しめる領域が増減したり移ったりすることで、それを適切に評価するのも合わせて大事。あたふたしてはあかん。
美文を書く前に正文を書くべき。「てにをは」や主語・述語・修飾語の関係性を正確に表現する文章を書けてからが勝負。
本当にそうだ。私の中には継続的な怒りと狂気がある。>"一種の狂気とも言えるような継続的な習慣が、自分自身の仕事に圧倒的な裏付けと自信を与える" (link)
🍵今の関心事
コーヒーなしで自身の集中力をブーストする方法。
来週15-18日の北海道・札幌遠征中、どこで働くか。
GPT-4 APIを組み込んで3~5冊目単著の執筆を効率化する方法。
どこでどの家を買うか。いまのところ、神戸東側〜西宮の間が有力です。神仏よ、我に好条件の住宅ローンのお恵みを。
🥑活動報告
読んだ記事紹介、1本あたりの文章量を増やして、本数を減らすようにしています。海外記事URLをクリックしている読者がだいぶ少なく、もっと魅力的なリードを書かなくては。
この夏に出版予定の2冊目単著の仕上げをしています。いろんな事情があって、満足した出来にならなそうで、あまり販促には関わらないようにしようと思います。出版業における不思議な商慣行を体験できたことは良かったです。
先週は会議数が合計5つのみ、じっくりものづくり+考える系のお仕事が出来ました。発酵感がある仕事はもれなく楽しいです。
いくつかマンションに資料請求をして、内見をはじめています。住宅ローンの団信が最高の保険だと思っている族として、よっしゃ、買うぞと腹を決めています。住宅購入のアドバイス、コメント欄にお願いします。
今週も、Happy Weekを:-)