vol128. コンサル会社の行動指針、迷いと戸惑い
神戸からおはようございます。このニュースレターはいま364名の方が登録してくださっています。いつもありがとうございます。
先月、当社Cobe Associeのインターンに応募してくれた学生に、「田中さんが大事にしている仕事の流儀はありますか?」と聞かれ、経営競争基盤/IGPIの行動指針は素敵だよね、と話しました。
心は自由であるか?
逃げていないか?
当事者・最高責任者の頭と心で考え、行動しているか?
現実の成果に固執しているか?
本質的な使命は何か?使命に忠実か?
家族、友人、社会に対して誇れるか?
仲間、顧客、ステークホルダーに対してフェアか?
多様性と異質性に対して寛容か?
この8つが行動指針として機能しているというのは、経営コンサルティングをしていると、このいずれかand/orすべてが自然かつ無意識的に毀損されていくからです。クライアント組織の論理に縛られ、会議現場で経営陣から向けられる本質的な問いから目を背け、おかしな請求書を顧客に出し(BCGやマッキンゼーでさえ不思議なビジネスをしていると最近人づてに聞いた)、公平さや多様性よりも効率性を重視したくなる。
確かに、いろんなものごとを市場("しじょう")や競争のせいにして、大きなモノゴトの中に組み込まれて生きることは、人生や企業の存続を簡単にします。お金も稼げるし、外からは魅力的に映るし、狭義/広義の衣食住に難儀する確率はぐっと減るでしょう。果たして、それでええのんか?と。私は、↑で書いたような行動指針をみたときに隆起する『こうやって日々仕事をしたいなぁ』という感情と、それでも普通に生活はしたいしなぁという感情と、折り合いが上手く付けられずにいます。だからこそ、小さな会社でひっそりと、揺れ動く船中であたふたしながら仕事を続けることを選んでいます。
松嶋健さんの著書で『プシコ ナウティカ―イタリア精神医療の人類学』(2014年、世界思想社)という分厚い本があって、そこで「人間」概念について議論する箇所があります。
人間は、生物学的に人間であるからといって、社会的にも当り前に人間だというわけにはいかないのである。人間は、「人間(human beings)」であるというより、「人間になる(human becoming)」のであり、もっといえば「人間する(human doing)」のである。 (p.349)
私は、市場や環境がもたらす圧力(強い言葉をあえて使うならある種の暴力)と、IGPI行動指針のような"きれいごと"の狭間で揺れることがここでいう「humandoing/人間する」ことだと思っています。NHKドラマ『鎌倉殿の13人』で運慶がいった「迷いこそが救い」も、マンガ『ワンピース』でレイリーが呟く「とまどいこそが人生だよ」も、同じ地平にあるはずで。そういう意味で、私のプロフェッショナリズムは、しっかりと迷い、戸惑うことに根ざしているのです。
…という内容をばらばらと話したところ、相手のインターンの子には???だったようで、「ありがとうございました、また」とチャットが来て以来連絡がありません。いろんなものごとをシンプルにわかりやすく認識/解釈して、ぱっと伝えられる人として振る舞えると良いのですが。それが望ましい姿かどうかは別にして。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
中国経済のアキレス腱・不動産市場:GDPに占める不動産関連活動の比率が米国や欧州諸国比で飛び抜けている中国。2000年代中盤には35%以上を占めた輸出/GDP比も現状20%程度まで落ち込み。中国は2008年以降、輸出主導の経済から国内投資主導の経済へとシフトしていったんだと。既に都市部の空室率は米国や日本よりも高く、需要は減退しています。 (Noahpinion, link)
誰が高級シャンプーを買っているのか:先週みた最も面白いグラフの一つです。高所得者が高級シャンプーを買い、低〜中所得層が廉価ブランドを買うのではなく、どのカテゴリーにも多様な所得階層がいるんだと。BBHのレポートにもあったのですが、世代や所得ではなく、より具体の活動でセグメント・グループを定義した方が良いのかもしれません。 (Euro Panel, link)
フル電動&5面モニターでゲームの中にダイブできるコックピット:これ配備したホテルをマンスリーで貸し出したい。重さ220kg、価格は158万円。 (Gizmodo, link)
大きい海洋生物ほど、小さいプランクトンを食べる理由:冷静になると確かに不思議で、更に冷静になるといろんな理由が思いつく。海水をのんで漉し取ることで効率的に摂取が可能で、魚を追うために俊敏に動く必要もないため消費カロリーも節約できるのがこのプランクトン食だと。なるほど。実は陸上でもおなじように大型生物ほど「個体数が多く動かないもの」を主食にしているようで、自然の世界には隠れた論理がたくさんあります。 (nazology, link)
私たちは予測など出来ない:The age of Averageが素晴らしかったAlex Murrellの過去記事、"The Forecasting Fallacy"を読んでいます。マッキンゼー、BCG、デロイト3社が25-50年に向けて発表している予測記事は1.5万件。しかし、過去の研究によると人類は不況、GDP、金利、為替あらゆるものごとを適切に予測する能力を持ち合わせてはおらず、予測とはただの空想であり、科学に見せかけた偽薬であり、事実に見せかけたフィクションであると喝破します。未来は創造し、発明するためのものです。 (Alex Murrell, link)
万能相づち「そうなんですね」:肯定でも否定でも関心でもなく、とにかく聞いているという事実のみを伝え、受け取る。苦手な相手、嫌な相手であっても、この相づちなら使えるのです。わたしも「なるほど」を連発してしまうマンなんですが、バリエーションが一つ増えました。 (Books&Apps, link)
オープンソースビジネスの挑戦と現実:リンカを開発しているruiさんの記事。生のもの、という感じがして好きです。 (note, link)
📙本
いつもの言葉を哲学する:この6月に読んだ本として最高の1冊。しあわせや批判という日常の言葉、ガチャという概念、いろんな物事に真摯な目を向けていく。本書を読んで著者・古田徹也さんの他作品と、幸田文さんの本をたくさん買いました。言葉との向き合い、闘うことが、コンサルタントとして一番の基礎訓練だと信じています。 (Amazon, link)
葬いとカメラ:先週末に次のポッドキャスト音声を本書テーマに収録。「画一的な日本人」という神話、自らの死後にまで自身の意志を持ち込むかどうか、朝鮮半島の慣習・恨の奥深さ、人間はいない→大地ではなく空間である、「論理を固めながら、いくところまで言って、最後はとぶんだ」と言ったマルクス。味わいがある。 (Amazon, link)
中動態の世界 意志と責任の考古学:↑2冊と、↓光速0の世界を味わいながら本書をじっくり読んでいます。私が暗黙のうちに前提に置いてきた個人像・社会像がバラバラと崩れる感覚があり、心地よい。曰く、「能動と受動に支配された言語は行為の帰属を問う言語」であり、「意志と選択は明確に区別されなくてはいけない」のであり、「必然性に基づいた行動が自由」だと。この本が医学書院から出ておりかつ「ケアをひらく」シリーズの1冊である、ってのが最高のメッセージですね。 (Amazon, link)
AIとSF:柞刈湯葉先生推しなので。知らなかったんですが、同世代のようです。ChatGPTのプロンプト集眺めるより本作読んだ方が理解が深まりそう。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2023 ダイジェスト:タイピング日本最速を決める闘い。すんげぇ。
「光速0」の世界 -視覚障碍者の科学:伊藤亜紗さんのファンとして見逃せないセッション。初回で提示された問い「視覚をなくすことで世界は広がるか?」は噛みしめがいがある。三角形の内角の和が540度になる世界。光の速度が半分になった世界。第4回/第5回のセッションが刺激的でした。 (link)
視覚のない世界とはつまり光の速さがゼロの世界であるーーそんな不思議な物理学の世界にいざなってくれるのは、物質・材料研究機構の石井真史さんです。スケールが変われば成立する法則が変わるように、私たちがふだん慣れ親しんでいる物理法則とは違う法則が支配する世界を考えてみることができるかもしれない。もし、音と同じように、光の速さが変わる世界があるとしたら?そしてついにその速さがゼロになる世界があるとしたら??
🧩感じた/感じている
金利で住宅ローンを選んではいけないが、全てを考慮すれば必然たる解が浮かび上がるという幻想に囚われてもいけない。
謝罪とは儀式ではなく、対話の実践であり、行動の端緒である。
「変化が加速する時代!」を真実のように扱ってはいけない。1900年にも、1940年にも、1980年にも、2000年にも同じ事が言われていた。本当にスピードが上がり続けているのか?そんなことはないわけで。よく根拠として利用されるBCGの調査は指標を操作しており、Apple to Appleになっていないわけで。 (magpie marketing, link)
真実である。フラジャイル最新刊でも同じ事が語られていた。
> "世の中には巨悪があると思っていたが、実際にはもっとしょうもない打算とか、不手際とか、社内評価システムがあるだけだった……というパターンは、私が気に入ってるだけかもしれないが、現実でも良く見かける気がする。もちろん本当の巨悪もどこかにはあるのだろうが、巨悪との戦いというのは物語として素敵なので盛り上がる一方で、世の中のしょうもなさとの戦いというのは物語にならないので、誰も語ろうとしない" (link)村上春樹のように、向こう40年ずっと『もっと良い文章を書きたい』と思い続けていたい。 (link)
🍵今の関心事
この夏の気候。来週の天気@東京。
「批判」「制約」に紐付いたネガティブイメージをいかに払拭し、「未来」「創造」に紐付いた過度な期待をいかに落ち着けるか。
これから8月まで続く各種事務手続きの波(住宅購入、ローン契約、引っ越しなど手配、ビザ取得、海外宿確保、各種発券)をどう乗り切るか。
🥑活動報告
7月の東京出張も予約しました。24-27日で滞在予定。
今週も、Happy Weekを:-)