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ガラガラの映画館でぼんやりと映画を観るのが好きなので、メガヒット人気映画よりも単館系地味映画の方が好みです。ゴールデンウィークの最中に観にいったのが『不思議の国の数学者』、脱北した北朝鮮出身数学者が韓国のスーパー進学校で用務員として働くようになり、偶々出会った落ちこぼれ高校生に数学を教えるようになり…そんな彼が北朝鮮にいるときに発表した論文が大きな話題になり…ファンタジー映画です。
切り口がたくさんあるお話しなんですが、「音楽と数学の関わり」というモチーフがそこかしこに出てきます。中盤の、円周率に現れる数列を音楽に変換してピアノで連弾するシーンはとにかく美しい。↓をより豊かにしたイメージです。 (Music made from π, link)
主人公が、バッハの音楽の完全なる美しさを語るシーンも印象的でした。曰く、人類が滅び全ての音楽・音源が失われたとしても、バッハの楽譜のみが残れば、続く生物が音楽の全てを再生できる。バッハがつくりだした音楽には偉大な構造と理論、そして明確な思想があったのだと。『素数の音楽』等で知られる数学者、デュ・ソートイは、サイエンス・エッセイ『レンブラントの身震い』のなかで、音楽は数学の旅の道連れだ、といいます。バッハは対称性/シンメトリーを愛し、アルゴリズムがはっきり見えるように作品をつくっていたと言います。
数学と音楽か、おもろいなぁと感心しながら鑑賞後Googleと戯れていたら、6年ほど前のロマンティック数学ナイトに『バッハと対称性』をテーマにしたセッションがありました。「高校時代に国際数学オリンピックで日本人女性として初めて金メダルを獲得した、ジャズピアニストの中島さち子氏。」ばっちり適役の方。 (link)
対称性とかどんなつながり方になってるかというのはとても大事な要素になります。だから、ものが「なにからできているか」だけじゃなくて、「どんな関係・構造からできているか」ということが、ものごとの性質を見る際には極めて大切なものなんですね。
(中略)
1つのものを、例えば同じドでも、(ピアノを鳴らして)この中のドなのか、この中のドなのかとかがいろいろ違う。数学においても、これは例えば前から見て三角形だったとしても、もしかしたら横から見たらぜんぜん違うかもしれない。上から見るとぜんぜん違うかもしれない。
そんな感じで、数学というのはものの見方をいろんな方向に広げてくれる。論理の力と感性の力がお互いに拮抗するかたちでいろんな新しいものが見えてくる。数学の新しい発見、芸術における新しい創造とか、そういうものというのはすごくリンクしているなと感じています。
映画自体は、レビューサイトでの評価は正直イマイチ(Filmarks:3.9、映画.com:4.0)。映画として面白いかと言われると…なところは確かにある(さすがに展開無理しすぎやろが30回ほど発生する)わけですが、それでも魅力にあふれた、たくさんの刺激をくれる作品でした。黒板に書かれた"円に内接すし、底辺10・高さ6の三角形"の面積を求める場面で出てくる「間違った問いからは間違った答えしか出てこない」は、揮毫して、GIFにして全コンサルタント、全管理職に配布すべき名言でした。(みなさんもぜひ解いてみてください)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
生活変革のためのコンセプト40個:10番目に出てくる『ナルシストの祈り』注意を払わなくてはいけません。ここで出てくるロジックで相手を責め立てる人の多さ。あと、19番目の"Problem Selling"は、私が政治家という仕事を下賎だと考える理由の一つです。32番目の "Idea Laundering"は無意識にあなたを襲います。 (The Prism, link)
That didn’t happen. / そんなことは起きていない。
And if it did, it wasn’t that bad. / 起きていたとしても、それほど悪くはない。
And if it was, that’s not a big deal. / 悪いとしても、おおごとではない。
And if it is, that’s not my fault. / おおごとだとしても、私のせいではない。
And if it was, I didn’t mean it. / 私のせいだとしても、意図的ではなかった。
And if I did, you deserved it. / 意図的だったとしたら、あなたのせいだ。
人類が地下水をくみ上げまくった影響で地軸の傾きが変動:水の所在が変わることで質量のバランスが変化、北極点が80cm程度動いたと。いやはや単位の大きさに混乱するな。> "1993年から2010年の間に地下からくみあげられた水の量は2兆トン以上だと推測" (gigazine, link)
拡大し続ける「人工衛星」事業:2010年代に1千個ほどだった宇宙に漂う人工衛星は現在7千以上に。かつ、うち80%が軍事・科学目的。SpaceXは2019年以降3,500個以上を打ち上げている。私たちの生活を支える衛星の30%以上が既に想定期間を超えて稼働している。イメージしたことがなかった数字だ。SpaceXのStarshipは、1kg分の貨物を宇宙に送るコストを現状2,750ドルから100ドルにまで下げることを表明しています。ルネッサンスの最後一押しはいつでも価格革命だったはず。 (Every, link)
スイスの直接民主制はどう機能しているか:人間が皆、常に最優秀で合理的であれば国民投票は最高の仕組みなんだろうけど、まあそうはならないわけで。メディアに翻弄され体調も認知も揺れ続ける大衆により動く国家、ここでいうとスイス、運営はスーパー大変だろうな。先週の東京出張でメディア関連の事業をされている方とお話しして、ニュースというものの意義と、民意というものの不確かさを痛感しました。 (The Economist, link)
BS Asymmetry Principle/愚案を論破するコスト:ブランドリーニの法則『デタラメに反論するのに必要なエネルギー量は、デタラメを生み出すのに必要なエネルギー量よりも桁違いに大きい』は、SNSでの諸々を考えるのに有用な原理原則です。デタラメは確率的に社会に発生するので、相当の害悪をもたらすものでない限りは、適切な距離を取って関わるのがよい。あるいはユーモアで笑い飛ばそう。 (Sahil Bloom, link)
技術礼賛に潜むナルシズムを批判する:結局これなのです。"社会の消化管"っていい表現ですね。> "技術/テクノロジーは私たちの生活を変えます。しかし私たちが一般に予想するような方法ではなく。未来はターミネーターの世界や未来学者が予想するような極端なものではありません。雑多で、多面的で、社会の消化管を通過する頃には、予想以上に退屈なものになっているのです" (No Mercy No Malice, link)
Googleレンズで皮膚状態を検索する:「身体に出来た症状をどのように言い表すかわからない場合でも使用できる」とても良いユースケース。何かよくわからないからとりあえず医師・看護師に電話、みたいな患者さんも多いし。 (CNET, link)
研究】習慣的な昼寝は脳容積増大につながる:どんどん睡眠推奨の研究が出ます(+私がバイアスきかせています)。みなさんも、周りの目など気にせず、たくさん寝ましょう。 (gigazine, link)
研究】なぜみんな「世も末だ」というのか:ハーバード/コロンビア大主導で『圧倒的多数の人々が時代が進むほどに道徳的荒廃が起きる』と信じる・感じるのはなぜか?というNature掲載研究。過去を美化してしまう人間のバイアスの力が余りに強く、メディアが悲劇を取り上げるのと相まって、起きてもいない退廃をみなが感じ、語るようになるのです。 (Nazology, link)
非凡な仕事をするのに、非凡な毎日を送る必要は全くない。:『生活の大半は、稀にしかない刺激的な出来事ではなく、掃除や食事、睡眠や運動などの「習慣」でつくられる』大変よくわかります。↑40個のコンセプト16番目のように、結局は積み重ね(による複利累積)の勝負なので。毎日淡々と素振りをする打者が結局勝つ世界です。 (Books&Apps, link)
古今東西で追求されてきた「遊びの哲学」:立命館大学がWeb上で公開されている大好きシリーズ。 “Play with Reality”、『ランダムかつ軽やかに展開していく世界の動き』があり自らをそのようなダイナミックな展開の一部であると自覚すること。『楽しいことをするのではなく、することを楽しむ』の精神。RealityとActuality両方を大切に生きていきたいと思っています。 (Ritsumeikan, link)
📙本
このゲームにはゴールがない―ひとの心の哲学:懐疑論を中心に据えて、ウィトゲンシュタインやカヴェルの思想を引きつつ、心について考える本。ここ3ヶ月読んできた本/テキストで考えてきたことやそこで生まれた思念が渦巻く内容で、付箋があふれ出ました。単純に「おすすめです!」とは言い切れないほど沼が深い。つまり、↓みたいなことなんです。同著者の『いつもの言葉を哲学する』と一緒に読んでください。 (Amazon, link)
概念の揺らぎが保たれること、他者が透明性と不透明性の間で揺らぎ続けること、その意味で、他者が半透明であり続けることを、我々は求めているのである。
(p.269)
SFマガジン 23年06月号 特集『藤子・F・不二雄のSF短編』:最初期の作品から全解説されています。全部のSFテーマが扱われているのでは。いろんな作家さんの解説文を見て、自分は柞刈湯葉が好きなんだと再実感します。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
The Original | 21_21 DESIGN SIGHT:会期終わり近くですが賑わっていました。オリジナル=本筋(≠始祖)と考えるとしっくりくる展示・プロダクトが多かった印象。何度も行きたくなる気持ちがわかる。スーパーカブとカトラリー、フランコ・アルビニの椅子が好みでした。
マティス展 | 東京都美術館:20歳から画家を志し、歴史とトレンドどちらにも真剣に向き合いつつ自身の世界観を発見していったヘンリ・マティス。窓というモチーフ、現実離れした色使い、切り絵や彫刻との融合。
ガウディとサグラダ・ファミリア展 | 国立近代美術館:あと数年でサグラダ・ファミリアが完成してしまう前に、改めてガウディの建築・設計思想に触れてきました。↓の言葉に触れてから、先述の "The Original"の意味を噛みしめ直しています。宗教建築物、もれなく人間を圧倒するパワーを持っていますね。念の力というか。
Creation continues incessantly through the media of man. But man does not create, he discover.
人々は絶え間なく創造を続ける。しかしそれは創造ではなく、真には発見である。
小さな小さなテラスハウス@シドニー: "A Tiny Slice Of Japan Inside A Pink Darlinghurst Terrace"日本の建築コンセプトとドイツのプロダクトデザイン原則を元につくられた建築物。 (link)
🧩感じた/感じている
ガウディ、あまりに偉大。思想が良い。
はっさく、あまりに美味。大福にすべき。
面構えと立ち姿に、人として大事なことのほとんどが立ち現れる。東京・日本橋に着物姿ですくっと立って、写真映えする人間になりたい。
嘘をつけない人は正直にもなれない。絶望したことがない人は希望も持てない。
「うるせー馬鹿野郎。文句あるならかかって来いよ」の精神で仕事が出来る現場をつくり、守っていきたい。"誰がなんて言ったって"を枕詞にして守りたいものがないなら仕事をする意味がない。
🍵今の関心事
明後日28日(水)、王座戦挑戦者決定トーナメント準決勝 藤井・羽生戦。
言語ゲームの世界を生きる中で、言い換え/パラフレーズの枠組みを育むために出来ること。 (link)
🥑活動報告
この週末は結婚記念日だったので尾道〜今治としまなみ海道ドライブをしてきました。車があるとよい。カーシェアとは根本的に違う体験だ。
来月たぶん2冊目の単著が出ます。正直不本意な仕上りでして、あまり大きく宣伝声を挙げることなく、時間が風化させてくれるタイミングを待とうと思います。
6月末で終わるプロジェクトがいくつかあるので、7月からはいっそう自分仕事に取り組むぞと決意しています。
今週も、Happy Weekを:-)