Cobe Associe代表の田中志です。このニュースレターはいま393名の方が登録してくださっています、いつもありがとうございます。メリークリスマス。気がついたら、今年最後のニュースレター配信になります。みなさま、今年1年ありがとうございました。
『人のセックスを笑うな』という小説がある。2004年の第41回文藝賞を受賞し、翌年の第132回芥川龍之介賞の候補作にも選ばれた。読んだことはない。松山ケンイチ、永作博美、蒼井優らが出演した映画も観ていない。当時、インパクトあるタイトルに触発されて書かれたブログ記事をいくつか読んだくらいだ。
この作品名は、作者の山崎ナオコーラさんが書店を訪れたとき、同性愛の本が置かれた棚の前でクスクス笑っている人を見たときに感じたことをそのまま言葉にしているらしい。人のセックスを笑うな。英語副題は “Don't laugh at my romance.”、私のロマンスを笑うな、である。お説教くさくも取れる原題よりも、自分事としての切実さと錨が垣間見える英語副題の方が好きだ。
人間失格のモチーフになったとされる太宰治作品『HUMAN LOST』は、精神病棟に入れられた人間が綴った手記の形をとった短編で、青空文庫で読むことができる。そこで唐突に出てくる「笑われて、笑われて、つよくなる。」生きづらさを抱えた太宰治本人が、自らの生き様を見つめる中で出てきた/絞り出された言葉に見える。
世阿弥は『風姿花伝』のなかで、能を習得する上で最初の難関は身体や声に大きな変化が生まれ愛らしさが失われる17-18歳に訪れるとした上で、
たとえ人が笑おうとも、そんなことは気にせず、自分の限界を見つめて、無理をせず、声を出して稽古せよ
と説きます。どうしようもない不条理に直面し、絶望し、周囲からも何かを言われたときに心がポキッと折れてしまう。そんなときにでも、じっと耐えて努力を続けることが次の飛躍に繋がるのだと。
思えば、恥の多い1年を過ごしてきた。もっと上手くはずの仕事会議は数知れず、気合い100%で作り込んだ資料で滑り倒したこともある。テニスの試合では何度もスマッシュを空振りしたし、オンライン将棋で何度も頓死した。どれも真剣にやっているのに、笑われてもおかしくない日々。
いくら「私の○○を笑うな」と叫んだところで、結局陰湿に笑う人間は出てくるわけで、笑われた経験を燃料にして前進していく道が輝いて見える。来年もこのままいこう。
みなさま、良いお年を。最後の1週間楽しくいきましょう。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
All I Want For Christmas is GPUs:AI開発・運用の負荷がどんどん高まるこの時代に。テック企業の忘年会、マライア・キャリーのリズムでこれ熱唱はばかうけ必須ですね。。 (The Information, link)
米国景気を楽観視できる5つの理由:、労働の需給が徐々に一致、実質賃金は継続して上昇、労働生産性は急上昇、シリコンバレー銀行+地銀破綻以降も信用力は安定、ガソリン・原油価格が安定しつつある。投資信託経由で米国景気の影響を受ける私のポートフォリオ、安定を望んでいるよ。。 (Axios, link)
2023年に撤回された研究論文は1万本超:サウジアラビア、パキスタン、ロシア、中国が過去20年間で最も撤回率が高かった国とのこと。政治しかり、アカデミアしかり、仕組みが硬直的なものであればあるほどハックされる。上手く回る前提に良心が組み込まれている制度、衰退期にすぐにぼろが出る。 (nature, link)
ケチャップを救う闘い:暑い世界のためのトマトを開発する:ケチャップ大ファンの私としては応援せざるを得ない。トマト奨学金とか始めたい。 (WSJ, link)
超音波を通じて針なしでワクチン接種する:オクスフォード大の研究。予防接種だと、皮膚上層に物質を送り込むだけでも充分らしい。小児科でぜひ採用して欲しい。 (New Scientist, link)
「眼鏡は魅力を下げるのか?」よく聞く疑問を調べた研究 :メガネをかけていると魅力度は低下したと評価されるが、知的&成功者には見える。そして、縁なしメガネを使えばよい効果を享受しつつ、魅力度は下がらないと。よっしゃ、Zoff/JINSに直行だ! (ナゾロジー, link)
ルールを破ること。あるいは、正しいやり方が自分にとって正しくない場合の対処法:"they just don’t feel good for me"を言えるのがオーナーのよさ。夫婦で寝室が別でもいいし、私生活を優先しすぎなくてもいいし、ブランドを確立しなくてもいい。しっくりくればいい。 (Wild Letter, link)
今年を振り返る7つの質問:31日を迎える前に、この7つの問いと真剣に向き合いましょう。来年をもっとよいものにしたい、来年はもっと良い自分になりたい方のために。 (Sahil Bloom, link)
1. 今年、なんの考えを変えた?
2/3. 何がエネルギーを生み出した?何で消耗した?
4. 足かせになった人は?
5. 恐れてやらなかったことは?
6. 最大のヒットと最悪の失敗は何か?
7. 今年学んだことは?
📙本
旅する漱石と近代交通:たしか日経で書評が書かれていた本書。夏目漱石の旅路(学生時代の房総や富士登山旅行、渡英、満州旅行など)をおいつつ、著者の専門領域である交通史を掛け合わせて紹介。移動への欲求、人間の三大欲求に加えてもいいくらい本質的なものだと感じる。他の3つと時間軸が少し違うだけで。 (Amazon, link)
常識にとらわれない100の講義:本書の中で「同じ作家の小説とエッセイをどちらも好んで読むことが少ない」って話があって、私にも当てはまっていました。森博嗣はエッセイのみ、黒木亮や司馬遼太郎は小説のみです。短話エッセイが集まるこの本、改めて、前進すること・作り続けることへのこだわりを取り戻させてくれます。 (Amazon, link)
だから、最初から諦めないでほしい。とにかく、なんでも良いから、好きなことを選んで、少しずつ進めてみよう。 厭きてきても、嫌になっても、ほんの少しでも良いから簡単なことを選んで進める。そうすることで、いつか素晴らしいものを体験できるはずだ。これは、本当に例外なく得られるものだと僕は思っている。
ふらんす小咄大観:昭和33年出版の本書、次のPodcast課題本です。前半ほとんど下ネタやんけ。ユーモアのある大人になりたいですね。 (Amazon, link)
ダンジョン飯:ついに14巻で完結。描いている世界観の奥行きが果てしない作品ながら、人に勧めても表紙のトーンやタイトルから敬遠されてしまう悲しさよ。。欲求との向き合い方、人間にとっての料理の意義、食べる・食べられるの相互関係、いろんなことに思いを馳せられる最高の作品。今年はマンガのあたりが多かった。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
Hopeful Images from 2023:Atlanticの写真はいつも良い。ベイルートに思いを馳せるこの写真。 (link)
Dimitar Karanikolov/Photographer:二度見したくなるような素敵写真をたくさん撮っている写真家さん。人物写真も風景写真もひきこまれる。
石崎ひゅーい - さよならエレジー:菅田将暉の力強さもよいですが、アコギ一本弾き語りのこちらも最高です。
🧩感じた/感じている
火をおこし、おっきめの寸胴鍋で豚汁をつくり振る舞う炊き出し、大人のたしなみとして楽しい。
トレードオフがない意志決定は存在しない。存在すると感じるならば、あなたはいまバイアスの奴隷である。
成功は運に大きく左右されるが、運を削ぐこれらをすべて避けて生きていく。
集中の欠如/A lack of focus.
言い訳習慣/Making excuses.
夜更かし/Staying up late.
貧相な食生活/Eating poorly.
朝一番にメールチェック/Checking email first thing in the AM.
忙しくあるためだけに予定を詰め込む/Working more to fix being busy.
お財布を上回る支出/Buying things you don't have the money for.
自分自身に目を向けすぎる/Focusing on yourself.
他者に成功のなんたるかを委ねる/Letting other people define success for you.
間違った人間関係/The wrong relationships.
忍耐不足/A lack of patience.
キエラン・イーガンが語った想像力を触発するための道具、コンサルタントとして仕事をするために私が使っているものとほぼ同じだ。
できるかぎり「物語」を重視する。
柔らかい「比喩」をいろいろ使ってみる。
何でも「いきいき」としているんだという見方をする。
とくに「対概念」に慣れてイメージを膨らませる。
「韻」と「リズム」と「パターン」に親しんでいけば、さまざまな言葉になじめる。
「冗談」や「ユーモア」で状況がわかるようにする。
内外の「極端な事例」や「例外」に関心をもつ。
ふだんの「ごっこ遊び」はとことん究める。
自分の「手描き」のイメージで何が描けるかを知る。
「英雄」とのつながりを感じられるようにする。
身の回りにも世界にも、いったいどんな「謎」があるのかという関心をもつ。
どんなことも「人間という源」に起因すると知る。
好きな「コレクション」と「趣味」に遊べるようにする。
事実にもフィクションにも噂にもたえず「驚き」をもって接する。
想像力を育くむ認知的道具の大半は「日々の生活」のなかにある。
🍵今の関心事
今年2023年の総括をどう来年、さらにその先に生かすか。
春先、頭を剃った。快適。
家と車を買った。ローンにまみれている。
「沈黙の艦隊」「異国日記」「ダンジョン飯」など推しマンガをたくさん読んだ。
イランと、ラグビーW杯観戦兼ねた世界一周旅行に行った。移動空間は読書が捗る。
来年8月までの収益目標分は受注完了。自社事業立ち上げは不調、もっとがんばるぞ。
2冊目単著『たたき台のキホン』を出版、4刷。売れて良かった。3冊目の企画がんばる。
全員に好かれることも、全員を好きになることも難しい現世で、どんな客商売をするか。
不条理と暴力。この3ヶ月ほど関心のあるこのテーマをどう消化するか。
🥑活動報告
全1,385ページ、「神戸からのデジタルヘルスレポート」Google Docsを更新しました。みてね。
今週も金曜までしっかり仕事をして、土曜日からゆっくりまったり読書します。分厚い積ん読が貯まっているので、かわいがって上げなきゃ。ただし、今日から土曜までの6日で5つ忘年会があります。負けないぞ。
我が家全体へのクリスマスプレゼントとして、新しい床掃除ロボットくん(Ecovacs)とコーヒーメーカー(デロンギ)を仕入れました。気持ち良い新年に向けて準備万端です。
素敵な記事や音楽を見つけたら知人に乱暴に送りつける習慣を再開しました。「迷惑かな」遠慮は、全く世界を良くしないと思ったからです。
1年、お疲れ様でした!また2024年に会いましょう。
あー、タイポでした、ありがとうございます:-)
著書をきっかけに購読を始め、多くの気づきをいただきました。ありがとうございます。来年も楽しみにしています。
なお、違国日記で異国ではないです。私も読者でした。