年末からずいぶんと自炊をするようになりました。2024年になったら体にもっと気を遣おう、と考えていて、いや待て別に年明けを待つ必要ないなとなった。以来、圧力鍋で玄米を炊き、お昼の時間が近づいてきたらヨーグルトに漬けておいた鶏肉を焼く生活が続いています。
無精なのであらゆるものが目分量、特段レシピも見ません。味がうっすいおみそ汁や、食感がばらばらの炒め物も出来上がっています。「自分が作ったものには愛着が湧き相場よりも高い価値をつけてしまう」IKEA効果さながらに、自分でつくれば何でも美味しい。私は文脈と情報を食べています。
最近読んだ『土を喰う日々:わが精進十二ヵ月』や2016年に読んだ『アメリカは食べる。:アメリカ食文化の謎をめぐる旅』のように、料理や食事に関わる印象深い本がたくさんあります。その中でも特に印象深いのが、まずい食事と真実という短いエッセイです。ハーバード・ビジネススクールの教授が学生に向けて語った訓話をまとめた本に収録されていて、「偉くなるってたいへんだぞ」の話です。
社員から役員になるというのは,単なる身分の変化ではない.周りから受ける待遇も、日々の生活の根本も大きく変わるのだ。平社員のときは上下関係の中で仕事をし、飛行機に乗ればまずい機内食に甘んじ、四六時中上司のご機嫌を伺うのがいわば当たり前になっている。ところが上級管理職、なかんずく事業部や企業のトップになったとたん、世界は一変する。会社ではあなたを中心に組織ができあがり、事務スタッフや社用車、そして飛行機のファーストクラスといった豪華な特権が与えられる。コンピュータの不具合を自分で直すといった面倒な作業をする必要は一切ない。あなたの周りには、日常業務がスムーズに運ぶように手を尽くしてくれる人たちがずらりと控えているのだ。
変化は物質的なことにとどまらない。周囲の人々のあなたに対する認識も扱い方も、以前とは様変わりする。社員はあなたの質問を命令と解釈し、あなたが何か意見を言えば反発や質問などせず、必ずといっていいほど「ああ、それはいい考えですね」と相づちを打つ。部下はあなたの示す反応やコメントに怯え、全力をあげて悪い知らせをあなたの耳に入れないようにする。私がのちにCEOになったとき、友人はこうみごとに言ってのけたものだ。「スティーヴ,もう二度と手に入れられないものが二つあるよ − まずい食事と真実だ」
(デイジー・ウェイドマン著 幾島幸子訳『ハーバードからの贈り物』)
あいにく私はここで書かれているような物質的・認識的変化を享受しているわけではないのですが、それでも快適さを放り投げてでも,自分から不愉快なこと、不都合なことを迎えに行かなくてはいけないのかもしれないなと感じています。『夜と霧』で有名なV・E・フランクルの著作やストア派哲学に触れると、不条理な場でこそ人間が試され,鍛えられるものだと感じます。
今日もまた、まずい食事と真実を、その先にある充実した人間を求めて日々やっていこうと思います。このニュースレターは、日々の反省記録でもあります。ぜひ真実を探す旅をご一緒しましょう。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
2023年、世界は良くなった。:まだまだファクトフルネスを、177の観点から。インド・バンガロールの湖が復活したり、1万人以上のカナダ医師が『自然の中で時間を過ごそう』処方箋を患者に処方したり。 (Reasons to be Cheerful, link)
年初におなじみ、Scott Gallowayの2024年予測:本編が面白いのでぜひ記事読んでみて頂きたい。気になったやつをとりあえず列挙すると、"利下げにより米国に住宅販売ブーム/値上がり期待株はワーナーブラザーズとディズニー/AIへの期待はいったん萎む/Big Techの中ではAlphabetに注目/米中関係の雪解け/イーロンがXを売る/支配権失う/バイデンが勝つ" ディズニー株、爆買いしておくか。 (No Mercy/No Malice, link)
2024年のクリエイティブトレンド:ユーモアが時代をリードする。困難なときにこそ、ユーモアを愛する人間でありたいですね。 (Ad Week, link)
「技術力が高い」という幻覚:論理的思考力やコミュニケーション力、にも同じような幻覚/幻想があるように思う。単一ベクトルでは表現されないし、かつ時空間ごとに数値も基準も変わるんやぞ。 (sizu.me, link)
人生でよかった時間 3選:こういうものを読みたいからインターネットにいます。私も同じように思いを馳せてみたんですが、去年訪れたイランで、3時間砂漠を走ったあとに立ち寄ったガソリンスタンドでの15分が頭に立ち上ってきました。何をするでもない、しかし「私たちは人間だ」を感じさせてくれた場所・時間でした。また行きたいな、イラン。 (hatena, link)
Z/ミレニアル世代は図書館を再発見している:私も改めて通いはじめました。『宇宙の果ての本屋』を読んでまた、知識への尊敬がふつふつと、知の空間への欲求が高まっています。 (The Atlantic, link)
50年にわたる睡眠研究の集大成:0年にわたる154研究、5,715名のデータを分析。どんな短いand/or単発の睡眠不足でもポジティブ感情の減退と、心拍数の上昇や心配事の増加といった不安症状の増大に繋がると確認。みんな、どんなに忙しくても、家族イシューがあっても、何があっても寝よう。明日以降に響く。 (University of Huston, link)
女性の涙を嗅ぐと男性の攻撃性が削がれる:イスラエル・ワイツマン科学研究所の研究。げっ歯類だと一般的にみられるこの傾向が人間にも当てはまるか実験。男性が女性の感情的な涙を嗅いだ後、ゲーム中の復讐を求める攻撃的行動は40%以上減少したとのこと。よし、戦場に女性の涙をまこう (Science Daily, link)
渡辺明という時代:昨年6月、渡辺先生が藤井名人にタイトルを奪われたあとに書かれた銘文。私のアマ3段の免状に「名人 渡辺明」の文字があるのは一つの誇りです。大事にしよう。(hatena, link)
何が好きかと問われれば、その将棋の質、それに人柄と振る舞いだ。理路整然とした勝ちへの道筋。細い攻めをつなげ、厚い攻めをさらに分厚くしていく技術。「将棋は仕事」とドライに割り切りながらも、その仕事できっちりと結果を出す仕事人ぶり。本質を包み隠すことのないきっぱりとした物言い。画面の向こうにいる将棋ファンのために行われる明朗快活な感想戦やツイート。そこにある第一人者としての責任感。弱さも含めて自分をさらけ出す強さ。それらの全てだ。
将来、将棋の歴史がどう定義付けられようと構わない。渡辺明は、私にとっての「時代」だ。過去形にはしない。今はただ、渡辺の次の一手が見たい。
生産的な1年をおくるためのコツ24個:呼吸の4-7-8法(4秒吸って7秒止めて8秒で吐く)、朝の5-5-30習慣(腕立てスクワット5回ずつ、プランク30秒)、スーパーでの買い物は外周で終わらせる(カップ麺やお菓子を買わない)、高頻度の散歩、依頼へのデフォルト対応をNoに。スマホはグレースケール。私の実践集です。 (Sahil Bloom, link)
迷惑はかけてもいい:まぁまぁ、そう目くじら立てずに、お互い様でやっていきましょうや。 (U of Tokyo, link)
📙本
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?:次のポッドキャスト課題本。SFの名作は外れがない。ディックが言うように、人間かどうかを分けるのが親切心だとしたら、自分はどれくらいアンドロイドなんだろうか。終盤に出てくる発言「おのれの本質にもとる行為をいやいやさせられるのが、人生の基本条件じゃ」は蓋し真実ですね。翻弄されてから、人生が始まる。 (Amazon, link)
その島のひとたちは、ひとの話をきかない − 精神科医、「自殺希少地域」を行く:優しさに溢れる地域、のような幻想ではない。悪口や陰口があったとしても、自律・自立している人が多ければ自殺は少なくなる。車椅子にやさしい街が多いとされる北欧も道路はガタガタ、というのを読んで、生きづらさを口にする人との関わり方を考えな押さないといけないなと思っています。 (Amazon, link)
万物の黎明 人類史を根本からくつがえす:600ページ越えで2段組、しかも内容も超骨太。向こう半年くらいずっと読み続けていそうです。いまはまだ最序盤、欧州においていつから「平等/不平等」が論点になり始めたのか、を考えています。デヴィット・グレーバー、口が悪いのが最高ですね。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
市子:知人に強くおすすめされていた作品、朝から映画館でみて全身にくらってしまいました。久しぶりに、感想・感じたことを言葉に変換することに難儀する、多くがこぼれ落ちてしまう作品になりました。どこにも救いがなくて、しかし生きているし、いろんなことを決めなくてはいけないし伝えなくてはいけない。なんなんでしょうね。ありがとうという拒否の言葉をこの作品で知りました。あと、観た翌日にSpotifyから流れてきた菅田将暉『さよならエレジー』を登場人物の森くんの心情と重ねて聞いていたらとんでもない感情になりました。
Any Day Now/チョコレートドーナツ:↑をみた同じ日に、ダメージをくらうなら底まで骨までと、10年ぶりに観なおしました。マルコの"Thank you"と"Promise"のシーンは絶対なく。アラン・カミングの圧倒的な演技力。最後歌われる"I shall be released"のときにはもう眼があかない。5点満点で200点の映画。いつか映画館を借り切って、大画面・大音量、1人で号泣しながら鑑賞したいです。
舟歌/八代亜紀:ご冥福をお祈りいたします。名曲。 (link)
🧩感じた/感じている
京都で見かけた素敵なフォント(のお店)。ここで語り合いたい。
今年は映画と舞台をたくさん観たい。何度も繰り返し伝えたいのですが、映画『市子』は素晴らしい作品でした。パンフレットはMust-buyです。
不完全で、ダメで、オモロイやつで居続けよう。そのために、余白をつくること、余白を楽しむ人でいなくちゃ。
Imperfection is beauty, madness is genius and it's better to be absolutely ridiculous than absolutely boring.
🍵今の関心事
声と振る舞いのトレーニング、どこで誰に師事するか。
ある日自分であることを剥ぎ取られる、あるいは脱ぎ去らなくてはいけなくなったとして、それでも自分に残るものは何か。
🥑活動報告
仕事の師匠捜しを本格的にはじめました。東京中心に、いろんな方にご挨拶に上がります。3月の東京出張でさっそくお一人尊敬する方に会えることに。大感謝です。
先週10日に西宮戎で商売繁盛を願ってきました。今年もやるぞ。みなさんにも、熊手と大福笹のお裾分けです。
昨年10月から借りていた東京・戸越の拠点なんですが、同じ建物に入居されている方の治安がだいぶアレで運営もアレでして、4月に退去することを決めました。また新たな拠点を探します。
作業用BGMを焚き火の音に統一したところ心地よさが爆上がりしています。
真剣に事業育成をしようと思い、先週から久しぶりに「気合いを入れた提案書作り」を始めています。熱意を込めて何かするのって、楽しいですね。
先週、インターンを希望する学生さんと面接しました。若い方のエネルギーは素晴らしい。