2週間ほど前に届いたニュースレター『救急車を見守らない』がとても良かった。ニュースレターを好む人と相性の良いエッセイなのではと思う。救急車がきたら、静かに道を空けて、遠ざかるサイレンを聞きながらただ日常に返ればよいと思う。
三が日のあと、近くのスーパーまで買物に行こうとしたところで、救急車がサイレンを鳴らしながら走ってきて、交差点にいた車も、私を含めた歩行者も立ち止まり、救急車が去っていくのを見守った。その時ふと、変な例えだが、これがインターネットなら、誰も静かに見守らないだろうなと思ったのだった。救急車と一緒に写真を撮ろうとする人達。救急車は本当に他の車両より優先すべきなのかという人達。救急車に道を譲らない車。
私達の時間と注意力は有限で、ぶっちゃけかなり限られている以上、必要な情報に必要な注目が集まるためには、不要な情報は抑制されなれければいけない。でも救急車の通る交差点ではみんな抑制できても、インターネットでは誰もそうはしない。そして道路の持ち主であるプラットフォームはむしろ、みんながもっとバズって、ユーザのエンゲージメントが増えて、広告露出機会が増えることを望んでいる。
名前を売らないと商売にならない人が、続々と北陸に向かっている。地元・長野県選出の参議院議員もわざわざに能登まで迷惑をかけに行っているようだ。飛行機の安全運行の取組みはどうなったのかなと思ったら、巷では飛行機へのペット持ち込み是非が話題らしい。映画『ドント・ルック・アップ』でも、彗星が地球に衝突することがわかった直後に「マナティのことも忘れないで」って配信していたセレブ歌手がいたな。コメディを突き詰めると笑えない悲劇になることを教えてくれた名作だった。
Netflixシリーズ『ハサン・ミンハジ 愛国者として物申す』のどのエピソードだったか、社会問題すべてに関心を向けることは「ブラウザのタブを開きすぎるようなものだ」と語られていた。人間の注意力には限界があって、世界中の災害や紛争、人種やジェンダー問題、なんならご近所の騒音問題まで、そのすべてに注意力を向けることは難しい。注意力の上限値は人によって異なるし、なによりもまず人にはそれぞれの生活がある。
↑どのエピソードだったっけとハサン・ミンハジについて調べていたら、どうやら昨年New Yorker誌でコメディのネタを捏造していたことを指摘されてプチ炎上していたらしい。高校時代に人種を理由にフラれたこと、自宅に脅迫の意味で炭疽菌がおくられてきたことなどを、作り話でジョークだったと認めた。それらを彼は『Emotional Truth/感情的事実』と表現したらしい。なるほど、SNSで日々3万個くらい生み出されているやつだ。
関心はお金と権力を生む。スポーツや芸術、コメディなんかはすべて、この力を良い方向に活用した"産業"だと思う。同時に、政治や広告も同じように関心駆動型の産業であることを忘れてはいけない。「ネット時代のアテンションエコノミー」みたいなことを言いたいわけではない。人間社会が生まれてから経済も産業もすべて関心を燃料として前進してきた。
それでも、人間は無関心を選ぶことが出来る。優しさを表現したいと願うなら、寄付をすることはもちろん、無関心であることも一つの優しさの形なんだと思う。せっかくの優しさを、役に立たない政治家とメディアに捧げる必要はない。今月亡くなった経済評論家の山崎元さんが『資産運用するならオルカン一択』と言い続けていたのも、つまりそういうことだと思う。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
娘が大学に合格した。:センター試験も一段落、いろんなご家庭に変化が訪れる時期だと思うので。とっても素敵な文章でした。 (hatena, link)
今日、30歳になった:何年経っても、1月17日は神戸にとって大事な日であり続けるんだろうなと感じます。最後の一文は、災害を含めた「広域不条理」がある場所・時間すべてに言えることだと思うんです。 (hatena, link)
私は今日、30歳になった。平成初期に生まれた私たちは、阪神淡路大震災の記憶とともに生きる「最後の世代」だと言われている。確かに、地震は私にとってすごく身近な問題であり続けてきた。だけどこれまでの人生、別に24時間365日「亡くなった方々のぶんも、毎日を大切に生きていこう」と思いながら過ごしてきたわけじゃない。忙しい日常を生きていると、震災のことを全然考えない日がほとんどだし、まだ2歳になりたてだったから当日の記憶もまばらだ。でも、成人式の時にふと過ったあの感情を、誕生日のたびに思い出すのだ。阪神淡路大震災がなければ、私たち、本当はもっといたかもしれない。地元の同級生は、実はもっと多かったのかもしれない。自分の人生のどこかのフェイズで、あの時いなくなった誰かが私の大切な人になっていたかもしれない。
セレブたちが養蜂をいけてる趣味にした:ビヨンセやスカーレット・ヨハンソンも言及するトレンドになっているらしい。映画の影響ってすごいな。 (Good News Network, link)
漁船の最大75%が位置を公開せず追跡を回避して「闇漁業」を行っている可能性:私が当該地域の漁師だったら絶対非公開でやっちゃうと思う。 (gigazine, link)
ナスダック上場のナイジェリアの農業ベンチャーに詐欺疑惑:昨年末に知人に紹介されて知った事件の丁寧なレポート。「売上1億ドル超!を歌うECサイトは数ヶ月メンテナンス中の表示」「会計上は通信事業1億ドル超だが通信事業者としての登録なし」「農業輸出事業の申告売上が国全体の農業輸出額を超過」など嘘満載。。まじめに事業をやるのがばからしくなるけど、ここまでしてでも何とかして稼ぐぞ!って気概を日本人として取り戻さなくてはいけないのかもしれない。 (note, link)
中国はミャンマーの内戦を止められない:台湾の総統選挙も中国との対立を打ち出す候補が当選。東アジアの覇権国家になれるかどうか、中国にとっての分岐点が近づいている(或いはもう過ぎ去っている)のかもしれません。 (Vox, link)
もしお金に「期限」があったなら:約100年前のドイツの起業家、シルビオ・ゲゼルが提唱したのは、毎週切手を貼っていかないと価値が喪失してしまう "Freigeld"というお金の形。利子が付くどころかどんどん価値が減っていく通貨。面白い思考実験ですね。 (noema, link)
目標を「何をしないか」→「何をするか」に置き換えるだけで達成しやすくなる:2020年発表のストックホルム大学等の研究。Never/Don't等を使わずに目標を表現しようと。年末年始に読んだ『ゴルフレッスンの神様 ハーヴィー・ペニックのレッド・ブック』にも同じ記載がありました。人に教えるプロフェッショナルの知恵だ。 (ナゾロジー, link)
いいなと思うもの:たくさん思い当たる人生を生きよう。私が特にグッときたやつ↓ (hatena, link)
いいパン屋でいい惣菜パンを買って、包み紙に油が染みているのを見たとき
12月の雨の日、降っているものにあられが混じっていることに気がつく瞬間
でかい交差点で、ピヨピヨいう音と一緒にみんなで歩き出す瞬間
バター醤油というもの(うまい)
明らかに古い形式で作られている個人サイトの「最近の更新」欄を見たら、2023年とかの投稿があったとき
📙本
『夜と霧』ビクトール・フランクルの言葉:素敵な言葉遣いをされる方に『夜と霧』を人生の1冊に選ぶ方が多いと感じます。V・E・フランクルの複数書籍から孤独や愛、苦しみや意味についての言葉をまとめているこの本も、いろんな方の胸に刺さる一冊になるはず。わたしは『嫌われる勇気』に代表されるアドラー心理学よりも、意味の探求に重点を置いたフランクル心理学の方が好みです (Amazon, link)
もし今それをなさないのであれば、いつそれをなすのだろう。
もし私がそれをなさないのであれば、誰がそれをなすというのだろう。
そして、もし、私がそれをたった今なさないのであれば、私はいつそれをなすべきであろうか。「もし私がそれをなさないのであれば」――この言葉は私自身の独自性を示しているように思われる。
「もし私がそれをたった今なさないのであれば」――この言葉は私に、ある意味を実現するための機会を与えてくれる、過ぎ去りつつある時間の一回性を示しているように思われる。
実験の民主主義 トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ:大統領選挙予備選でトランプ候補が圧勝した裏で読んだ、後半にいくに従って迫力を増していく新書でした。GXとは選挙のデジタル化を指すばかりではなく、むしろ行政府・行政の改革なんだと。民主主義というと選挙を想起する人が多い中で、「機械」であることを求められてきた行政・官僚を人間に戻すことが必要なんだと。黒鳥社・若林さんの聴き手力のおかげか、読みやすく素敵な新書。↓の引用は、ほんまにその通りですわ。 (Amazon, link)
政治家は選挙のときだけ「主権者は皆さんです。あ なたの一票が国の将来を決めます」と言っておきなが ら、選挙が終わればすぐ忘れてしまう。有権者のほうも選挙に行くだけでも面倒くさいので、終わった途端 に「あとはよろしく」となってしまう。悪い言い方をすると、有権者のことをなめている政治家と、サボりたい有権者が手を組んだのが、いまの民主主義だとも言えてしまいます。(pp.129-130)
万物の黎明~人類史を根本からくつがえす:↑書籍の研究対象になっているトクヴィルは「平等性」をテーマにあげているんですが、本書では「そもそも平等が論点に上ったのはなぜか」から遡って論じています。驚いたのは、現代にある世界中の民族間の差異は『拭けば落とせる化粧のようなもの』で、数十年前の世界は「ホビットや巨人、エルフが住んでいる」ようにさえ見える世界だったと考えられること。現代の人々は差異を強調しようとしすぎているとも。(思い当たる節:国民性・県民性、血液型等に基づく性格診断、骨格やカラー診断、、、、) (Amazon, link)
📻観た/聴いた
ブレイクポイント/ラケットの向こうに シーズン2:テニスの男女トッププロが登場するNetflixドキュメンタリーシリーズ。ティアフォーとサッカリのことが大好きになりました。取り上げられた選手を全豪で応援する日々。テニスはいいぞ。 (link)
【ゲスト:渡辺明九段】将棋AI対談企画「水匠実験室」:渡辺先生のファンなのであっという間の2時間半でした。「藤井・永瀬・伊藤匠各先生のAI研究最先端3名、一方豊島先生や山崎先生はAI研究から下りた2023年」「羽生先生は序盤がルーズ」「相手の平均損失が高くなる局面に持っていくための研究」など面白いお話しがめちゃたくさんありました。この文章『渡辺明という時代』を読んでからこの配信を観ると、味わい深さが8倍になります。 (link)
🧩感じた/感じている
SpotifyでつくっているCobe Associe Playlistがいい感じに育ってきた。Rest of Worldで紹介記事を見てから聴き始めたAfrobeatsもたいへん良い。
「お腹空いたなUberEatsしようか」と感じたとき、即玄米をレンチンして卵とお醤油、削り節をかけて食べる。これを3千回繰り返せば私は偉人になれるはず。さて、能登を支援するためにも、おいしい味噌とおいしいお米を買おう。(参考:饗のこめ)
A/B/C…と複数の評価軸があるときに、各軸ごとの平等を達成することに何の意味があるだろう(e.g. 年収、ジェンダー、学歴、性的嗜好、、、)。そして評価軸が無限に想定しうるならば、とある評価軸における不平等の是正は別の不平等への移行に過ぎず、全体平等・公正の追求は不可能ではないか。これはある種当たり前の結論として、その上で、平等・公正を絶対の価値観として他者に押しつける人が苦手。
🍵今の関心事
背中と体幹のトレーニング方法。肩周りの連動性に課題を感じています。
次いつイランにいけるのか。中東情勢観ていると相当難しそう。。
いつアイスランドに行くか。火山噴火の被害が続いているようです。
🥑活動報告
今週前半は静岡・浜松に滞在しています。来週は2ヶ月ぶりの東京出張です。
やっとお正月が明けたようで、お仕事関連の問合せが増えてきました。3月末までのプロジェクトをたくさん提案しています。さて、今年もがんばります。
今週も、Happy Weekを:-)