ばらばらに読んでいる/読んできたものが目の前で一つに繋がっていく経験が楽しい、そんな話です。書籍の引用が通常比300%増し、ご容赦ください。
先々週からゆっくり読んできた『組織―「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー』には、1週前のニュースレターでとりあげた"組織の体内時計"の話しかり、結局なにが集団の強さを決めるのか?を考えるための種が詰まっています。建築家のバックグラウンドを持つ著者・横山さんは、都市計画・マスタープランを立てることの難しさを引き合いに、既に一定出来上がっている組織・構造をより良くするにはアプローチ可能な範囲で小さな計画を組み合わせ実現していくことの有用性を説きます。
都市デザイナーがデザイン可能なサイズの「ミニ・プラン」を既存の都市に埋め込んでみて、うまく取り込んでくれるなら成功であり、都市が取り込めないなら「吐き出す」だろうから、そのときにあらためてデザインしなおす。 あるいは、取り込んだものの、既存の市街地との境界の所で少々問題を起こし始めたという場合は、それを解決する新たな「ミニ・プラン」をつくって埋め込めばよい。
失敗ではなく、都市が吐き出したんだと表現するボキャブラリー。少し前に読んだ『エフェクチュエーション: 市場創造の実効理論』と軌を一にする話でした。
リクルートHDのCEOを務める出木場久征さんはいろんなところで「個々人に失敗をさせないことではなく、組織として"失敗の総量をマネジメント"するのが大事」とお話しされています(DHBR最新号に掲載されていたインタビュー記事もたいへん良かった)同様に、タレブの『反脆弱性』でも、個々の生物に脆さがあるからこそ自然全体が反脆くなっていること、無秩序やランダム性の中でも適応度をどんどん高めることができる構造が語られています。
個々の生物は比較的脆くても、遺伝子プールは衝撃を逆手に取り、適応度を高める。 そう考えると、母なる自然と個々の生物の間には対立関係が存在することがわかる。
組織/集団だけではなく、個々人の生活を考えても、この失敗との向き合い方には理があります。デイル・ドーデンの名著『仕事は楽しいかね』のハイライトの一つ"試してみることに失敗はない”は私の心を何度も救ってくれた名言で、波止場の哲学者として知られる『エリック・ホッファー 自分を愛する100の言葉』には、こんな一節が載っています。
偶然がなかったら、人生はいったいどんなふうになるだろう。
祈りや希望は皆偶然を求めているのである。現実にどこかに向かっているとの感を我々に与えるのも、ほとんどの場合、時機を得た偶然のできごとである。
私の知るかぎり、偶然の十字路であるからこそ人生は素晴らしい。
個として偶然を歓迎し、失敗しても「私のおかげで社会がまた一つ賢くなった」と涙を拭く。組織を率いることになったら、実行可能な範囲から始めて、定期的に間引きし、一定の失敗量を事前に見込みそこから多すぎず少なすぎずのところまでチャレンジする。
一つ一つの著作や記事を読んだときに「うんうんそうだよな」と思っていたことが積み重なり、やっと↑の形でまとまりました。今日・明日のためだけではなく、自らを耕し新しい種をまくような読書をこれからも続けていきます。
💼心惹かれる
金子商店/長野飯山産コシヒカリ 令和5年産:18歳まで過ごしたふるさとの味、EC経由で楽しませていただきます。 (link)
✏️読む
📃記事
脅威となる若者が現れる。大人は懐柔するか、いびる。社会は硬直し、さびれていく:ヒコロヒーがWebで月1回連載している文章を愛しています。この回はカバーストーリーと通じる内容。出る杭を打ち続けた組織や社会にまっているのは縮小均衡・先細った未来でしかなく、たとえ最後は盛大に失敗したとしても、イキった若者を組織・社会に包摂しておくことは反脆さに繋がるので善です。同じエッセイシリーズの最新回『想像を絶するさまざまに腹が立って仕方がない』も、怒りを原動力に駆動している私にとっては心に染みる文章でした。 (Brutus ヒコロヒー「直感的社会論」, link)
仕事中の「退屈」は押さえ込まない方が良い:ノートルダム大の研究。職場ではみなだいたい週10時間ほど退屈時間を過ごしている。そしてその退屈を抑え込もうとするとむしろ退屈が長引き、むしろ退屈な仕事と意味のある仕事を交互に行うことで生産性が向上すると判明。炭鉱で周りの人にお茶を出したり馬鹿話をするだけの仕事をしていたスカブラが実は周りの労働者の生産性をあげていた、みたいな話と同様、生産性は直線思考で捉えない方が良い対象なんですね。同時に、ピュアに生産性を上げたいならロボットやAIを使いたくなるのも道理。 (phys.org, link)
ベイズ的思考法を身につける5つのコツ:ついつい善悪や左右など、0/1でものごとを判定したくなってしまう私たち。どのようにして確率で考え、更にその分布を更新するように思考・行動できるんだろうか。「証拠は、それを可能にするものを支持する」っていい言葉ですね。 (psyche, link)
そこまで希少ではないダイヤモンドが高価な宝石で居続けているのはなぜ?:アフリカの鉱山が見つかったことで供給量が一気に増大し値崩れするかと思いきや、ダイヤモンドの一大メーカー・デビアスが依頼したフィラデルフィアの広告代理店、N.W.エイヤー・アンド・サンが数々のマーケティング施策を繰り出し製品自体のブランド価値を高めたことでいまがある。私は広告代理店とマーケターと名乗る人たちが苦手で、その理由がこの記事で語られることに凝縮されている。 (National Geographic, link)
デートの黄金時代は存在しない(少なくともいまは黄金時代ではない):オンラインアプリの登場によって機会が拡大しハッピー!かと思いきや、スワイプ/スクロール疲れなどが新たに指摘されるようになる。"私たちはいつも探し、望み、失敗し、嘆願し、誤解し、夢中になり、傷つき、病み、そしてやり直すのだ"と。 (The Atlantic, link)
ステータスの罠/地位の追求は真の幸福をもたらさない:FOMOしかり、偽りの帰属の罠しかり、立場や他人との比較は自分の何かとは本質的に無関係だと、なんかいでも自分に言い聞かせようと。誰がIPO or M&A Exitで大儲けしようと、ボーナスで何百万もらおうと、私たちがやるべきことは変わらない。ただやるべきことをやろう。 (dynomight, link)
花粉症は日本ではなく世界中の問題:2021年に発表された研究では、北米の平均花粉シーズンは1990年から2018年の間に20日間増加したことが判明。気候変動により、花粉の影響はより大きくなる見込みだと。花粉症と同じように、様々なアレルギーが世界中を覆っています。 (quartz, link)
AI革命が数千のローカル言語を押しつぶす:Webの90%が英語やロシア語、日本語などわずか10の言語で表現されている。世界で話される7千言語のうちGoogle翻訳がサポートしているのは133のみ。アフリカ言語のAI活用を支援するMasakhane等の活動もあるが、衰退圧力は強い。1千年後も日本語が残っているといいなぁ。 (The Atlantic, link)
Scott Galloway/ゆっくり考えよう:先月亡くなったファスト&スローなどで有名なダニエル・カーネマンへの追悼記事。私たちのファスト思考システムは素晴らしいが、同時に、たまに致命的なミスを犯す。オンラインとの相性も悪い。たまにはゆっくり頭を使おう。 (No Mercy No Malice, link)
📙本
冒頭ストーリーで紹介した本の、心に残った1節を書き残しておきます。
どれも良い本なのでぜひ本屋さんで手に取ってみてください。
組織 ― 「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー (Amazon, link)
Enabler-shipは、私の造語である。そういう表現は聞いたことがないから、当然、それができる人はあまり存在していない。リーダーシップより難しく、より高級な能力であることも、存在していない理由だろう。時代に対する先見性と洞察力、そして哲学とか思想というと大げさだが、普遍性のある強い思いをわかりやすく語ることのできる能力だ。
(Kindle位置:1,819)
反脆弱性 ― 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方 (Amazon, link)
私の考える敗者というのは、失敗を犯しても反省せず、教訓も学ばず、失敗を恥ととらえる人たちだ。新しい情報を活かすのではなく、保身に回り、前進する代わりに失敗の言い訳をする人たちだ。そういう連中はたいがい、自分を大がかりな陰謀、卑劣な上司、悪天候の〝被害者〟だと考えている。
(Kindle位置:1,655)
エリック・ホッファー 自分を愛する100の言葉 「働く哲学者」の人生論 (Amazon, link)
あれかこれがありさえすれば、幸せになれるだろうと信じることで、我々は、不幸の原因が不完全で汚れた自己にあることを悟らずに済む。だから、過度の欲望は、自分が無価値であるという意識を抑えるための一手段なのである。
(Kindle位置:152)
📻観る/聴く
ミュージカル『VIOLET』:ICL手術直後は運動ができないので、眼と体をやすめに梅田芸術劇場で舞台を見てきました。黒人差別が残るベトナム戦争中の米国南部を舞台に、顔に傷を負った女性が似非宗教家にすがるために長距離バスに揺られながら旅をする物語。黒人迫害やベトナム戦争の歴史を知っていると一層重く受けとめざるを得ない作品でした。主演のお二人を中心に登場するみなさんの声が素晴らしかったです。旅に出て、前を向こう。 (link)
Netflix/シックス・ネーションズ: フルコンタクト:欧州の競合6カ国で闘うラグビー対抗戦のドキュメンタリー。昨年のW杯で現地観戦したイングランドとイタリアをとりあげた第2話が印象的でした。次のNetflix探検はTurning Pointシリーズになる予定。 (link)
🧩感じる
忙しさに負けない。
今の今まで"人口に膾炙する"を全然違う意味でイメージしてきたのが恥ずかしい。本来は「広く世間に知れ渡る/人々の話題となる」の意ながら、ずっと感染症的なイメージを持っていました。なますとあぶり肉のことなのか。無教養
結局、規律を守れる人が勝つ。特にそれが高い水準で厳格なものであるほど。
マッキンゼーの行動指針“Obligation to dissent”もいいけど、私はBCGの行動指針のひとつ、『多様性からの連帯』が好きです。
失敗や罪をどう評価するか、私もタレブと同じ姿勢を採用したい。
いちども罪を犯したことのない人間は、いちどだけ罪を犯した人間よりも信頼できない。そして、何度も間違いを犯した人間のほうが、いちども間違いを犯したことのない人間よりはまだ信頼できる。ただし、同じ間違いを2回以上犯していなければの話だが。
🍵今の関心事
5月の自分を楽にするために、GW中はどの仕込みを優先して進めるべきか。メールを全無視できる時間は考えるワークと相性が良い。
地球上で不老不死を厳密に実現しようとするならば、設計上、太陽の爆発にどう対応すべきか
🥑活動報告
先週金曜日にICL手術をしてきました。裸眼生活が新鮮。ほんとうにやってよかった!お気に入りだったメガネはレンズを入れ替えて妻の元に旅立っていきました。
先週くらいから突然早起き生活に移行しました(8時台→5/6時台起床)。
4月もあと数日でおわり。しいたけ占いによると、4月は『まぁ、私の実力にかかればこんなものですよ。』、5月は『シミュレーションと計画性で乗り切ります』、6月は『アバババババ!の集中期間』とのこと。5月からいよいよ、集中期間に向けて未来に向けてがりがりやっていきます。