小説の読後感を言葉にするのは難しい。明確な主張を持つビジネス書であればその妥当性や有用性にコメントし、科学書やノンフィクションであれば素直な驚きを書けばよい。さて、小説である。自分の中にある反応はどこまでも私的・詩的なものであって、顕現した感想としての言葉にしっくりくることは殆どない。あの作品どうだった?と聞かれたとき、私が持つ表現語彙は「本当に良い作品だった」か「自分のためのものではないかも」のほぼ2つのみである。
先週、筒井康隆の『旅のラゴス』を読んだ。高度な文明が失われた異世界を舞台に主人公・ラゴスが旅をする長編小説である。テレポーテーションや未来予知といったSF要素を盛り込みつつ、淡々とした語り口で旅が進んでいく。牧畜集団にいる魅惑的な少女・デーデ(最後の最後…
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