この社会・人の姿は当たり前か?『WEIRD』を読んだ👀
白揚社は骨太の翻訳書をたくさん届けてくれる大好きな出版社さん。本翻訳書は上下巻・合計800ページ超。読み応えたっぷり。第1章だけでも読む価値あり。
「世界全体で生活水準を向上させ、大規模かつグローバルな課題に対処する方法を見つけることは、今後ますます重要になってくる。人々の多様性が何に由来するのか、それがこうした問題に立ち向かう上でいかに重要であるかを、わたしたちは認識しなければならない。それらの問いの答えを知りたい方は、ぜひ本書を読んでもらいたい」
――ダロン・アセモグル『国家はなぜ衰退するのか』『自由の運命』共著者
(link)
原題は “The WEIRDest People in the World: How the West Became Psychologically Peculiar and Particularly Prosperous”(世界で最もWEIRDな人々:西洋世界がなぜ心理的に特異でとりわけ繁栄しているのか)。WEIRDというのはすてきな言葉遊びで、Western・西洋、Educated・教育、Industrialized・産業、Rich・富裕、Democratic・民主社会の頭文字をとりつつ、極めて個人主義的・分析的で自制を重んじる社会は歴史的・地理的にみると"weird・奇妙"な存在であると指摘する。第1章の入り方からして「あなた、もしかして、西洋文化生まれでそこそこ教育水準も高く、工業化された裕福な民主主義社会でお過ごしですか?だとしたら、あなたは心理的にかなり風変わりですよ?」と。
「個人主義的傾向が強い国ほど、裕福で、イノベーションが生まれやすく、経済的な生産活動も盛んであり政治・行政は有効に機能し、電気水道や教育インフラを整備する能力に長けている」これは統計的事実である。さて、多くの人は直感的に「経済成長によって個人主義が深まった(深まってしまった)」と感じるのだが、著者である人類学者ジョセフ・ヘンリックの考えは逆の因果に向く。個人主義的傾向の強い心理がまず生まれ、それが都市化や商業市場の拡大を促し、継続的なイノベーションと新たな統治形態の誕生に繋がっていった。「社会的規範は文化的進化により少しずつ複雑化すること」「人間の心理と社会制度は相互に影響し合うこと」「農耕を選んだ集団が所有概念や協働を学んだことで非農耕民を圧倒したこと」を前提としながら、ローマ・カトリック教会がイトコ婚や一夫多妻の禁止、自由結婚の奨励などを通じて従来当たり前だった親族中心の制度を弱体化させ、個人主義が特に強い社会が出来上がってきたのが西洋なのだと。おもしろい。そんな見方をしたことなかった。
著者が指摘する「WEIRDな社会の家族の典型的特徴」は、以下の5つを満たすものだ。
双方的出自: 父方・母方の両系の血統をたどる(二系統制)
いとこ婚禁止: 近親者、とりわけいとこ同士で結婚しない
一夫一妻婚: 配偶者は一人だけ(重婚しない)
核家族: 親と未婚の子どもだけで世帯を構成する
独立住居婚: 結婚後は親元を離れ、夫婦だけの新居で暮らす
日本では普通のことではないだろうか?しかし、この5条件すべてを満たす社会は、世界全体ではわずか0.7%しか存在しない。夫婦別姓を求める声がどんどん大きくなっていることや激しくなるばかりの社会保障をめぐる世代間分断・対立をみても、WEIRDさは高まるばかりである。昨年の婚姻数は戦後2番目に少なかったようだ。WEIRDを突き詰めた先にはどんな社会が待っているんだろう。旧世代が想像する家族の形は徹底的に解体されるはずだ。WEIRD論理と相性が悪すぎる。
さて、個別に紹介される研究や事例はどれも面白いものだった。各章の簡易まとめをChatGPT Deep Researchさんがつくってくれた。一読して興味を持ってくださった方は、ぜひ書籍を手に取ってみて欲しい。
商店毎に、全く同じ商品でもだいぶ異なる価格で販売していながら、誰も「一番安い店」を探すこともなく、是正もされない、チリ南部・マプチェ族の村
中国国内の出身地毎の研究で、水稲栽培に充てられている農耕地の割合の高い省出身の漢族学生は、それ以外の省出身の学生に比べて、仲間びいきの傾向が強い
一夫一妻制を含むWEIRD社会制度は男性のテストステロンレベルを下げる。なお、高度な認知能力や分析スキルが必要とされる仕事において、テストステロンレベルが高い男性のパフォーマンスは低い(彼らはゼロサムゲームには強いがその他には弱い)
寡婦が夫の兄弟と再婚する「レビレート婚」、妻が死亡したら妻の未婚の姉妹かイトコ姉妹と再婚する「ソロレート婚」の慣行を持つ社会は初期欧州で相当数存在した(キリスト教会が当然のように禁止した)
駐車違反が自身にも適用されるとわかった後も行動を変えない国連外交官
米国誕生時のスコットランド系移民の居住数と現在の治安の関係を調べる研究
非WEIRD民にはプロスペクト理論が想定する利得関数が適用されない(これが一番興味深かった)し、最後通牒ゲームをプレーするにも見知らぬ人には相当厳しくあたる。内びいきバイアスか、あるいは損失過大評価バイアスか。我々はいずれか/いずれもの奴隷である。
💼心惹かれたもの
イワタニ/カセットガス式暖炉 “MYDANRO”:岩谷産業さんは昨年11月に神戸・ポートアイランドに水素関連の研究施設をオープン。いつか行ってみたいな。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
さて、そもそも電気とは何か?:化学や物理を学ばないまま大人になったものの、IoTの開発からはては電力会社のイノベーション支援まで手がけることになり、理系PhDの常識・当たり前をある程度身につけないとと思い続けて早3年。「多くの金属を始めとする導体の重要な特性は、絶縁体とは対照的に、いかなる静電荷もすぐに等しくなることである」(全文系人間を代表して)へーーーーー。このニュースレター、電流や電圧などの基礎情報を丁寧に解説してくれていて有り難い。日々勉強。 (lcamtuf’s thing, link)
AIは調香師を不要にする?:直接の消費者接点だけではなく、マテリアルインフォマティクスや技術開発の深部でも活用が進む生成AI。動画や画像のような視覚情報アウトプットがわかりやすく驚かれるけど、文脈があるところ全て、つまり嗅覚にも生成AIの波は迫っている。トムフォードビューティーの新作・Bois PacifiqueはAIインサイトを活用して開発されている。これから出てくる新作でもどこかでAIが上市に関わっているはず。 (Vogue Business, link)
日本がセブンイレブンをパーフェクトなものにした。さて北米では?:コンビニ天国・日本から海外に出て現地のファミマなりセブンイレブンに行くと、そのしょぼさに驚かされる。祖業の地・米国でも生鮮食品の取扱などで日本での学びを逆輸入しようとしているものの、簡単にはいかない。7&iもコンビニ専業を極めようとしているものの、カナダの同業・クシュタールからの買収提案を退けるほどの経営ビジョンを示せるだろうか。 (Bloomberg, link)
“中毒”で回る経済:人間の欲望には際限がない。>「世界で最も価値のある資源は、データでも、コンピュータでも、石油でも、レアアースでもない。 中毒は常に資本主義の構成要素であり、需要を製造し、不合理な利幅を支える渇望の力に匹敵するものはない。 砂糖とラム酒は、ドーパミンを供給するシステムであり、三角貿易の通貨だった。」 (No Mercy No Malice, link)
性格を変えたいなら親になれ:子どもを持つことの便益を、子どもを持つ前に判断してもしょうがない。 (The Atlantic, link)
Slack時代の恋愛/オフィスロマンス新時代へようこそ:米国のキャリアサイトによると「リモートワークによって同僚と恋愛関係になりやすくなった」と考える従業員が全体の86%にも上るらしい。Z世代を中心に、スタンプやGIFを送り合うことで関係を深めている。 (digiday, link)
Z世代の45%が同僚と夜を伴にしたことがあり、11%が上司と付き合ったことがあると回答。さらに10人に1人は「職場恋愛が昇進に役立った」と答えている。
職場でのいじめが睡眠に及ぼす影響はパートナー間で伝染する可能性:イースト・アングリア大学の研究。いじめのような苦痛を伴う出来事について繰り返し持続的に考える「怒りの反芻」は本人の睡眠品質(早すぎる目覚め、日常生活への支障、自らの睡眠への満足度)に影響するのはもちろん、同居人の睡眠品質にまで悪い影響を与える可能性が示唆されている。仕事と私生活を切り離す認知トレーニングは本人・家族双方にとって有益なものになる。 (U of East Anglia, link)
ぬいぐるみは人間のなんなんだ?:私見ですが、ぬいぐるみを大事なものと捉える心をもっているからこそ、私たちは人間なのです。 (worksight, link)
📙本
最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作集:筒井康隆の短編集。禁煙運動が極限まで進んでしまった世界を描く標題作、時間の進む速度がどんどん速くなっていく世界のサラリーマン生活を描いた「急流」、本能寺の変が起きた時代と現代を混ぜ合わせたパロディ「ヤマザキ」が好みでした。 (Amazon, link)
自分探しと楽しさについて:森博嗣のエッセイ。「楽しさ」は自ら見つけ出すものであり、その過程やプロセス自体に価値があるんだと。そして「自分探し」として探されているものは自らの中ではなく、他者・社会の中にしかないんだと。不二を感じる本でした。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
Rebuild.fm 402: Literally Senior Software Engineer (N):どんなコンテンツに触れている瞬間でもそれら全てを脇によけて聴きにいってしまうのがNさん登場回。高齢者デジタル詐欺のいま、Apple Invitesの残念さ、トランプ政権が2ヶ月で生み出したリスク、DEI/RTOの矛盾と葛藤、オンラインカジノ周りのごたごた、どれも味わい深かった。 (link)
対話:もし誰もお金を貯めることができなかったら?:ポッドキャスト・Next Economy NOWからもらった面白い問い立て。遊牧生活や貯蓄を手放すこと、シェアリング・ギフトエコノミーの歓迎、あらゆるものの蓄積や個人主義の社会的規範への挑戦などを自ら体現して感じたことを率直に語っています。個人の意見と情熱にこそインスピレーションがある。 (link)
Joseph Patton:元気をもらえる作品が並んでいる。好きなアーティストが増えた。 (link)
ASTRONAUT:題名に"IMG"や"DSC"が入っているものを抽出。当然再生数は少なく、編集もされていない。それでもなんかみちゃう。コンセプトを体現するサイトタイトルもおしゃれで好き。 (link)
今日、あなたは宇宙飛行士だ。 あなたは地球の表面から100マイル上空の宇宙空間にいる。 窓から覗くと、こんなものが見える。 あなたは人間観察をしている。 これは一瞬の出来事だ。
これらの動画はYouTubeから。 これらは先週アップロードされたもので、
DSC 1234やIMG 4321といったタイトルがついている。 これらは過去の閲覧数がほとんどゼロである。 無名で、編集されておらず、(あなた以外の誰にも)見ることができない。
🧩感じた/感じている
「40歳になるときに考えている40のこと」を参考に自身の向こう5年を考えたい。
無意味なスクロールをやめるための162個のコツをいくつか試してみたい。箇条書きジャーナリング、落書き、折り紙、麻雀、オーディオブック&ポッドキャスト、抽斗掃除、お茶の整理、公民館を訪れる、自転車、顔を氷で冷やす、言語を学ぶ、、、
もっともっと旅に出よう。6月からの世界一周がますます楽しみ。 link
新しいものを発見し、新しい経験をし、結果が定かでない冒険に身を投じ、他者と出会うために旅をする。 家では出会わない楽しみや課題に出会うことで、自分自身を見つけるために移動する。 このような旅は一種の学習である
🍵今の関心事
体幹強化、腹圧をかけ続けるためのトレーニング法。
🥑活動報告
3月。今月末で決算を締める企業3つと計5プロジェクトをやっている私は、果たして生きのこれるんだろうか。
Partifulを使ってオフィスイベントを企画しよう。オフィスタコパ、読書会、ポットラック。





