声を上げるか立ち去るか:『離脱・発言・忠誠』を読んだ👀
教科書文体の書籍は大人になってから読む方が楽しい。
日々ふわふわと感じていたことが、ある本を読んだことで「あぁこういうことだったのか」と突然輪郭をはっきりさせることがある。日常の小さな違和感だったり業務上の小さな悩みだったりが一気に整理・構造化され、どう見るべきか・何をするべきかがすっきりと頭に降りてくる。A・O・ハーシュマン『離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応』は、あなたにもこの感覚を届けてくれるかもしれない。
本の主張は明確だ。製品に対する消費者、組織における構成員、国家における国民、、彼らは組織やサービスの品質が低下したときに2つの選択肢がある。
離脱/Exit:対象物から離れる、つまり利用や所属をやめる
発言/Voice:問題を解決するために発言する(クレームを入れる、上司に意見する等)
各個人がどちらを選ぶのかはその組織の傾聴風土や需要の弾力性、個人の発言能力、個人の忠誠心(Loyalty)等が影響しているのだが、いずれかのみに頼ることは望ましくない。離脱ばかりに頼る組織は発言による改善機会を失うことにつながり、発言ばかりに頼る組織は(結局離脱が起きていない=実需変化が起きていないために)改善インセンティブが過少になる。離脱という経済学的アプローチのみでも、発言という政治学的アプローチのみでも、社会は良くならない。個々人の忠誠心を適切に育み、2つの選択肢が両立した環境のみがレジリエントな組織である。
あなたの組織で起きているのは離脱と発言どちらだろうか?離脱と発言どちらに対して組織が過敏に反応・対応するか。組織に忠誠心が高い人は品質の低下時に離脱、発言いずれを選ぶ傾向があるか。第9章『離脱と発言の最適な組合せは可能か』には、組織改革をリードする人がとるべきアプローチのヒントが溢れている。営業やマーケティング、人事やDX担当者はもちろん、成果・結果に拘るコンサルタントもぜひ読んで欲しい。
内容そのものではないのだけれど、本書後半、訳者補説に著者・ハーシュマンの半生紹介がある。ユダヤ系ドイツ人として生まれ、生涯6カ国に暮らし、3つの戦争に(別の国を背負って)兵士として参戦した経験を持つ。ナチスによる圧政、スターリニズムの矛盾など政治的アプローチの限界と、ケインジアン蔓延る米国経済学会に対する不満を心底から感じたからこそ、時に対立するアプローチを組み合わせた先に理想をみたのだろう。
主張・信念の向こうには強い経験がある。ハーシュマンとは立場を異にした経済学者、頑ななまでに市場メカニズム信奉者のミルトン・フリードマンが若き日、日本のマルクス経済学者と議論した後に漏らした感想にも強い経験がみえる。大事なのは矜持であり、世界観である。
日本に来て本当に良かった。日本のマルクス経済学者も、人間の自由が最も大切であるという共通の地盤の上に立っていた。実は私はユダヤ人である。ユダヤ人がスターリン治下のソビエトにおいてどういう待遇を受けたか。またヒトラー治下においてユダヤ人がどのような残酷な死を招いたかというようなことはいまさら申し上げるまでもないでしょう。私が自由な市場に委ねるのが一番いいと言うことを主張するところには、国家も制度も民族も一切力を持たない。一つのメカニズムが人間社会を結ぶということが最も幸福であるという、ヒトラー治下の、スターリン治下のユダヤ人の血の叫びがある。 (本書pp.175-176)
映画『教皇選挙』でも感じたのだけれど、信念と体験に結びついた思想は強く、人を惹きつける。そして埋め込まれた信念と体験は、思想と不可分なのである。私がこの「離脱・発言・忠誠」に惹かれた背後には、離脱も発言を許さない長野奥地のムラ社会、離脱は容易だが発言が意味を成さない外資コンサルでのスタッフ経験があるのだと思う。良い本だった。
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💼心惹かれたもの
トレーニングバンド:デスクワーク中に両膝に通して軽く外側にテンションをかけておくと姿勢が良くなる。姿勢矯正や腰痛改善系の製品いろいろ試した結果、本来の使い方ではないが、これが一番効果的だった。一時期棚の奥に眠らせていたのだけど復活。 (link)
東京・築地 吉岡屋:かまいたちのYoutubeで紹介されていた漬物屋さん。全部おいしそう。 (link)
focus@will:脳波と音楽の相互作用を利用して生産性を最大400%向上させることを目指すBGMサービス。似たようなことを謳うYoutube/Spotifyコンテンツはたくさんあるのだけど、ここは臨床研究までしているのが特徴的。これの日本語展開したい。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
いま、ガザで母性を発揮すること:"ワーキングマザー"が許されがたいガザの地にあって、日々戦う女性の叫びである。「はっきりした文章が書けるようになったのは、迷う余裕がなくなったから」と語る筆者の主張は重い。 (Medium, link)
いまガザで母親として生きることが実際に必要とするのは、それは単に決められた手順を実行することではなく、まったく新しい倫理の枠組みを作り上げることなのだ。 伝統的な知恵を応用するだけでなく、私たち独自の現実に適した哲学を打ち立てること。 ルールを守るだけでなく、わが子の身体的・精神的な幸福を守るために必要であれば、注意深く意識的にルールを破ること。 不安定な状況下での母親業は、それまで私が取り組んできたことよりももっと激しい知的関与を要求されるのだ。
夜明けの祈りと朝食の準備の間、停電と次の停電の間、停戦のアナウンスとその必然的な崩壊の間など、このような断片的な空間で起こる思考は、衰えた思考ではなく、まったく別の種類の思考である。 それは四面楚歌の中での思考であり、中断の中での思考であり、政治的、文化的な抵抗に対する思考である。これは多くの意味で、伝統的な知的空間の人工的な隔離よりも、人間の経験の現実に近い思考である。
“重いもの”をつくろう:生成AIに数十文字の依頼をして作り上げた文章や画像。SNSに書き込む感情的反応や写真。私たちは軽いものばかりつくり、たとえ望むものが得られなかったとしても、重いものをつくるだけの胆力も気力も失われている。私たちは本能的に重さを価値に結びつけるのだ。目先のコスパだタイパだを無視して、私たちは重いものをつくるべきなのだ。仕事にしろマニフェストにしろ、魂を込めよう。 (Working Theorys, link)
業者仕事におけるディープリサーチの台頭:私の部下として大活躍してくれている生成AI。コンサル仕事をしている周囲に聞いても、ディープリサーチはすっかり仕事に不可欠の存在になっている。記事内で薦められているWaldoつかってみよう。有料ソースを統合できるのは素晴らしい。 (Digiday, link)
Uber Lost&Found Index/タクシーの落とし物ってどんなもの?:ユニークな落とし物のリストが面白い。チェーンソー、マットレス2枚、赤いバラ100本の花束、生きたロブスター10匹、バイキングの角笛、、、、私もだいぶ落とし物過多なので注意します。 (Uber, link)
ロレックス・モンテカルロ・マスターズは4月の名物に:ATP1000・モンテカルロはオレンジ色のセンターコートの向こうに地中海が広がる天国のような大会。バースペースには€580のキャビアが常備され、F1界の大スターやハリウッド俳優も集う。今年はムゼッティの決勝進出で大盛り上がり。いつか観戦したい大会の一つ。 (tatler, link)
中国の化粧品にはスキンケア要素が必須:91%の消費者がベースメイクの成分表示を確認し、76%がスキンケア成分配合の意義を信じている。現地ブランドは"メイクアップケア"製品の拡大を図っている。健康重視のトレンドには波があるので、どこかで揺り戻しが来るだろう。 (Jing Daily, link)
濃い色は商品をより効果的に見せる:中国・中山大学などがヘルスケア製品とパーソナルケア製品を用いて研究。とある製品が特定の問題を解決するためのものでかつその効果・程度が主な価値提供である場合(例:頭痛を和らげる)、パッケージに濃い色を用いることで人々はその製品をより好意的に判断し購入すると答える可能性が高くなる。濃い色を"濃縮度"と結びつける認知バイアスを活用しているのでは仮説。 (Science Says, link)
良い人生を送るためのシンプルな方程式『自律+目的』:同じ成果・結果になったとしても、それを能動的に、自律・自立の結果手にしたのだとしたら、そこから得られるものは桁違いである。お金の面、経済的自立だけでなく、道徳的、文化的、知的な自立まで実現できるなら、それ以上望むものはない。"自分がどうありたいのか、どんな人生を送りたいのかを常に考え、誰かの夢を追うのではなく、自分が自立した道を歩んでいるのかどうかを問うことが肝要である"その通りである。自らの決断に責任を持つ人になろう。 (Collab fund, link)
令和7年度東京大学大学院入学式 研究科長式辞:この4月、街の酒場で「こんなはずじゃなかった」と愚痴る新卒社会人をさっそく見かる。想定通りにいかないこと、行き詰まること、そこに飛躍のきっかけが眠っているんだから、その場を楽しもう。楽しみながらその場に居続けると、飛躍の瞬間が訪れる(ことがある)。それを期待して。 (U of Tokyo, link)
数学に限らず、ほぼすべての分野の研究者に共通することですが、「行きづまり」が大きな試煉であると同時に、おもしろさや楽しみの源であることにも触れておきたいと思います。研究の目標を設定し、それに向かって取り組むと、やがて完全に行き詰まる瞬間が訪れます。もし、行き詰まりがまったくないとすれば、それは十分に難しい問題に挑戦していないからでしょう。
みなさんも、心から興味が持てる、十分に難しい問題に取り組み、絶望的な行き詰まりを経験してください。そして、決して諦めずに考え続けてください。それこそが、研究の喜びにつながる長く曲がりくねった道なのです。
📙本
生き方:稲盛和夫の思想をAudibleで楽しむ。『宇宙のどこかに”知恵の蔵"があり、努力し続けた人に神はそこから一筋のものを渡してくれる』思想は(科学的正確さは脇に置いたとしても)素敵な世界の理解の仕方。原理原則に基づき判断すること。手の切れるような製品をつくること。因果応報を信じること。魂を少しでも磨くこと。直近のDHBRで特集されていた『アッパー・エシュロン理論』や、楠木健さんの『好き嫌いと経営』に通じるお話しだった。 (Amazon, link)
マルクス・アウレリウス『自省録』: 精神の城塞:ストア派思想に触れるたび背筋が伸びる。マルクスの師匠であるエピクテトスの言葉がぐっと重い。知恵と理性へと向かう姿勢を崩さない人間でありたい。 (Amazon, link)
君は演劇の俳優である。乞食を演じさせられるなら、それに似つかわしく演じるようにしたまえ。演ずる役が足が悪いものでも役人でも私人でも同じことだ。君の仕事は与えられた役を立派に演じることであって、それを選ぶことは他人の仕事だから。 (本書p49, 『提要』17)
読んでいない本について堂々と語る方法:次のポッドキャスト課題本。15年ぶりに読んだのだけれど変わらず良本。映画や舞台作品、人物評などあらゆることを語る心構えが固まった。自身の内なる図書館を見つめ、堂々と気兼ねなく立ち振る舞うべきだ。社会と顧客に恥ずかしくない図書館を築こう。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
映画『エミリア・ペレス』:トランスジェンダーを公表している俳優、カルラ・ソフィア・ガスコンが主演女優賞にノミネートされた本作は、性別適合手術を受けるメキシコの麻薬カルテルのリーダーが主人公。カルラは過去イスラム嫌悪や人種差別発言を繰り返していたこと、CNNインタビューでキャンセルカルチャーを引き合いに自己弁護したことで批判を浴び、結局アカデミー賞を逃したのだけれど、印象的な演出が各所にあった。多様性っちゅーものも一様には語れない。人には人の多様性がある、という相対主義に逃げてしまうことは簡単なのだけれど。メタ文脈含めていい作品。 (link)
Pentatonix - Daft Punk (Live):MVで何度も観たはずだが、ライブでみるといっそう良い。ボヘミアン・ラプソディのライブ版もいい。
Rebuild 404/405:hakさん/naoyaさんの回を楽しみました。関税問題、Switch2に見える京都の歴史、AIを使った開発の現在と未来、K-pop…naoyaさんおすすめのUCHU Brewingをちょうど先日の山梨一人合宿時に楽しんだので共鳴を感じる。 (link)
🧩感じた/感じている
至誠/六然それぞれを大切に。
目先の「役に立つ/役に立たない」尺度でものごとを測ることの貧しさ。
🍵関心事
台湾有事シナリオ。日本とインドの未来。2026−27年の中国政治。中東〜東欧の紛争。
今週末初めてのゴルフコースデビュー。準備は出来ているか。
🥑活動報告
先週は主業・コンサル業と新事業のそれぞれで前進をつくった1週間。試してみることに失敗はない。
<お便りをお待ちしています>



