愚直にかつ真剣に:『小澤隆生 凡人の事業論』を読んだ👀
王道の内容を、誰よりも強い情熱と根気でやり抜くべきだ。
2度にわたる創業と事業売却/Exit、楽天イーグルスの立上げやYJキャピタルや現職での活躍を経歴として目にした人はもちろん、カンファレンスなどでお話しをされている小澤さんの姿を少しでも見たことがある人ならば、彼のことを凡人だと思う人はいないはずだ。余計な言葉を極力省き、シンプルな原理・原則をはっきりした言葉で話す。面構えも立ち姿も立派だ。この本の中でたっぷり語られるその経営・事業思想を"凡人の事業論"と言わしめるとは、三木谷さんはどれほどの天才(あるいは狂人)なのだろう。楽天の株を買わなきゃ。
私も曲がりなりにコンサルタント業をやっているので、仕事としてビジネス本を一定数読むようにしている。面白い、興味深いと感じるものはほとんどない(拙著を含む)。書店に並ぶ99%は適当なカタカナコンセプトの羅列and/or著者自身やその所属組織の宣伝プロパガンダであり、栄養素のない流動食である。しかし小澤さんのこの本は違う。脇目を振らず(○○キャンバスだPMFだ定義・判定不能の事象に拘うことなく)、ただまっすぐにやるべきことをやれ、と繰り返し伝えている。
これまでの経験を通じて、僕は事業立ち上げのステップを大まかに次のような順番で整理しています。
1 最低限達成すべきゴールを決めて、事業の「センターピン」を見極める
2 仮説を立て、テストを繰り返して、ゴールに最短で到達する「正解」を見つける
3 見つかった正解を、徹底的に「実行」する
簡単に言えば、 事業を成功させるには目指すべき正しいゴールを定めて、正しい優先順位をつけて、そこに向けて実行していく ということです。 (Kindle, 369)
実際、小澤さんの考え方は明快である。…
「大事なのは、興味を持って仕事に取り組む好奇心。やり方さえ知っていれば、どんなところにいてもおもしろい事業はつくれる」
「自分で仮説を立てて、パズルのピースを一つひとつはめていく喜びを一度でも知れば、どんな事業も夢中になってできる」 (Kindle, 76)
稲盛和夫『生き方』の中に、ホンダの経営学ぼうと一泊二日の合同セミナーに参加した経営者たちに対し、作業着を着たままの本田宗一郎が「こんなところで油を売っている暇などあるか。だから君たちはダメなんだ。すぐに会社に帰って現場に出なさい」と窘めた話が出てくる。ずいぶんな話だと思うけど、一抹の真実を捉えている。事業論に唯一解はない。シンプルな原理原則論だけ胸に刻んで、あとは現場であくせく戦うべきである。『○○が9割』『○○大全』なんて本を読むくらいなら、顧客や現場スタッフに頭を下げて教えを請うた方がよい。考える素材は事業現場にいくらでも落ちている。
三木谷さんは昔からリサーチの大切さを説いていました。僕らが思いつくようなビジネスなんて、とっくにほかの誰かが思いついていると。それがうまくいっているなら、なぜうまくいっているのかと徹底的に調べるべきだし、そうでないなら、うまくいかない理由を徹底的に追求すべきだと繰り返していたんです。 (Kindle, 550)
小澤さんより更に凡人である私たちは、さらによく調べ、よりたくさん考えなくてはいけない。脇道にそれている時間はないのだ。銀の弾丸に頼るな。頼ろうという弱い心を諫めよ。真剣に、楽しく、商売をしよう。

<お便りをお待ちしています>
💼心惹かれたもの
UA Tarpaulin Backpack 40L:海外旅に使うバックパックとして買おうか検討中。機内持ち込みが出来て耐久性もありそう。link
nordicdots:おしゃれな欧州テニスブランド。明日29日にサンプル品が届く予定で楽しみ。link
Yomel:音声文字起こし・要約AI。試用中ながら、従来使っていたものより精度が圧倒的に高く乗り換え決定。オンライン会議が多いフリーランサーや会社の方はぜひ。 link
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
春、いろんな生活実験をしよう:寒々しい年始より、木々花々が芽吹く4月/5月のほうが新しい習慣をはじめるのに適した時期。いくつか試してみて、一つでも生活に馴染むものがあるといい。同じ意味でこの『この春、人生を断捨離する方法』もおすすめ。 (Ness Labs, link)
生活実験:毎週日曜別の公園に行く、3ヶ月毎日新しい写真を撮る、20日間20分間屋外で読書する、毎朝脚をマッサージする、毎週誰かに手紙を書く、毎週新しいお茶を試す
断捨離:触れるニュース/メディアを絞る、家のガラクタをみつける、悪癖を見直す、SNSのアクセス制限を増やす、過去の償いをする
贅沢品を代表するのはやっぱりエルメス?:「オンライン上の議論が長くなるにつれて、ナチスやヒトラーを含む比較が行われる確率は1に近づく」というゴドウィンの法則をもじって「贅沢についての議論が長くなると、エルメスのバーキン・バッグに焦点が当たる確率は1に近づく」と語るジェーンの法則なるものがあるらしい。ヴィトンとかじゃないのね。 (Neme is Global, link)
eFishery 偽装と崩壊の顛末:ソフトバンクなども出資、評価額14億ドル・スタッフ2千人を擁して養殖魚自動給餌システムや金融サービスを展開していたインドネシアのスタートアップで大規模な不正が発覚。Bloombergが元CFOはじめ20名以上に取材をするも、投資したVCが軒並みコメントを拒否。東南アジア全体で、スタートアップの資金調達に影響が出るだろう。 (Bloomberg, link)
ロボットが酪農家の仕事をどう変えるか:オランダの農機メーカー・Lely社は現在、酪農場向けロボットに全力を注いでおり、世界中で約14万台弱が稼働。搾乳、給餌、耳掻きなどをロボットが行うことで、酪農家はもちろん牛自身も幸せになるはずとの信念で突き進んでいる。課題は価格、初期費用も運用費用もまだだいぶお高い。日本での導入にはまだまだ反発がありそう。 (Spectrum/IEEE, link)
ChatGPTは感謝・礼儀正しい言葉への対応で数十億円分の電力を消費:Twitter/X上でとあるユーザーが「人々がAIモデルに『お願いします』や『ありがとう』と言うことで、OpenAIはどれだけの電気代を失っているのだろうか」と投稿するとサム・アルトマンCEOが「たぶん数千万ドルだね、よくわからんけど」と返信。米大の調査では、1年間、週に1通の100語のメールをAIに生成させると、7.5kWhの電力(ワシントンD.C.の9世帯の1時間あたり消費電力に相当)を使う事になる。礼儀をとるか、省エネをとるか。 (Gigazine, link)
サム・アルトマンが語る『生産性』:2018年の記事。食事習慣や耳栓の活用などこまかい技もいいのだけれど、一番心に刻むべきはこれすね。 > “productivity in the wrong direction isn’t worth anything at all” 間違った方向への生産性はまったく価値がない。 (Sam Altman, link)
ただの無料キャンペーンよりひとひねり加えることで印象に残る:献血者に無料利用を確約したHBO、Uberアプリを削除したら無料乗車!のLyft、スマホ無しで1年過ごしたら$10万贈呈したビタミンウォーター…IKEA効果なのではと。 (Marketing Ideas, link)
幼児には議論で勝てない:ここでいう幼児には、保身に走る官僚、いじめっ子、特定の信条/アジェンダに盲目傾倒する人々、ラジオのトークショーの司会者などが含まれる。幼児は議論をしているように見せているが、癇癪を起こしている。議論は無駄だ。彼らは別の次元に生きている。 (Seth Blog, link)
実践的想像力:著者が用いる想像力の定義「不確実性の中で意味を編み出し、未来へと可能性を投射する、人間に固有の社会的かつ倫理的機能」は意味ある広がりを持っている。戦略思考など使い古された概念以外にも、先住民の宇宙観やブラック・スペキュラティブの伝統、フェミニスト的時間感覚など、私たちが大切にすべき想像・創造の種はたくさんある。公共インフラとしての場の想像力を高め続けよう。私もその一助となりたい。 (Whispers&Giants, link)
岩尾俊×糸井重里『じつは「経営」って』:本当に何でも、ため込むと悪くなります。いい経営をしよう。 (1101.com, link)
📙本
山のパンセ:昨年末に松本本箱の図書館で買ってからゆっくり読んでいる。山での体験は人生と時間をシンプルにしてくれる。人間関係を忖度なく明らかなものにしてくれる。登山は禅。 (Amazon, link)
世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ:今の米国がどんな思考で経済政策や外交政策を運営しているか、背景がクリアに見えるようになった。時間と地理軸を柔軟に動かしてモノゴトを考えられる人間になりたい。 (Amazon, link)
歴史とは何か:E・H・カーの講演録が次のポッドキャスト課題本。年齢がいけばいくほど歴史を学ぶのが面白くなるのと同じで、私たちの社会が前に進むほど、新たに紡ぐべき歴史は形を変えていく。いま考えるべき歴史のポイントはどこだろう。忘れてはいけない歴史の教訓は何だろう。いい読書体験でした。理性の限界と困難(曰く、「理性の奸計」)について語る最後の講演はぐっとくるものがあります。 (Amazon, link)
救済策は、非合理主義を礼讃したり、現代社会における理性の役割の拡大を拒否したりするところにあるのではなく、理性が果し得る役割を徹底的に意識するところにあるのです。…この前進にも、支払わねばならぬ犠牲や損失があり、避けることの出来ぬ危険があります。しかし、懐疑派や犬儒派が何と言おうと、破滅の予言者たち、特に、今までの特権的地位が掘り崩されている国々のインテリの間の予言者たちが何を言おうと、私は、堂々と、これを歴史における進歩の素晴らしい事例と見たいと思います。 (kindle, 2,835)
📻観た/聴いた
アドレセンス@Netflix:ちょうど先週『見た目がいい人ほどゲームをしない』なぜなら彼らは友人が多くゲームをすることの機会費用が高いから、って研究論文を読んだところで、作中に出てくるインセルや学校内格差のことをじっくり考えるきっかけになりました。まだ観ていない方は、奇奇怪怪の振り返りエピソード・『アドレセンス』とリスペクトされるとは何か問題がネタバレ最小化しつつ紹介をしてくれていておすすめです。
ブラック・ミラー@Netflix:シーズン7が始まったのに合わせて見始めた。60分一話で1本の映画になるくらい骨太ストーリー、ディストピア感たっぷりで胸くそ悪くなる感じも好きなんだけど、痛そうなシーンが出てくる度に苦しくなり離脱。 (link)
🧩感じた/感じている
先週から、会議を除く仕事時間はずっと耳栓を付けることにしました。細かい雑音がカットされて、没入度が30%ほど高まったように感じます。LoopのEngageシリーズがおすすめ。
自ら責任を負いたくないがために、クラウドはAWSを使い、イベント運営は電通に丸投げする。コンサルやリサーチチーム選定でも同じロジックでアクセンチュアやデロイト等が選ばれるシーンがある。もっとがんばらなあかん。
勇気の程度によって、人生は伸び縮みする。そしてGood things happen slow. 良いことはゆっくりと起きる。
人から直接薦められた本は、どんなに時間がかかったとしても読むべき。
ゼロから良いものをつくるより、今あるもののあらを探して改善していく方が簡単である。なによりもまずはじめるべきだ。
🍵関心事
ローマ教皇フランシスコが亡くなったことで現実にコンクラーベが始まる。ちょうど映画『教皇選挙』をみたばかりなので変に高ぶるものがある。フランシスコ自身、同性婚容認などリベラル改革を進めようとしながらも保守派の抵抗に遭い、かつ「教皇庁には腐敗した一派もいる。本当に存在する」と語っていたとのこと。映画そのままだ。 link
人生で初めてゴルフコースデビューをしてきました。楽しい。次、いついくか。それまでに何をするか。
大阪万博のジャマイカ展示にボブスレーがあるらしい。いついくか。
🥑活動報告
3月末に出した請求書の入金確認が今週の大仕事。
拙著「たたき台のキホン」が中国で出版されることになり見本が届いたのですが、表紙のBCG全面プッシュっぷりに驚いています(著者にデザインのコントロール権限がないことを知る)。誰かに怒られたら全力謝罪します。
<お便りをお待ちしています>



