新卒で入社した会社の研修で”Silence means agreement”と言われて驚いた記憶がある。黙っている=同意したと見なさ、反対意見や疑義があるなら積極的に発言をしなければいけない。日がなぼーっと生きている私には厳しいルールである。最近はもう一歩踏み込んで「発言しないなら参加する意味がない(から会議に出るな)」という主張まであるらしい。なんて厳しい社会なんだ。測りすぎの弊害がこんなところにまで及んでいる。
Yu Kosekiさんの『沈黙の練習』を読んで改めて考えたのだけど、私たちは黙ることの意味を積極的に認めるべきである。デジタル空間が広がれば広がるほど、発言ばかりが目立つ。一緒に物理的な場を共有しているときには意味を持っていた沈黙が、ネットにおいては不在と同義になってしまう。本当は、沈黙を含めて言葉であり、沈黙を含めて表明なのだ。SNSで今フォローすべきは、芸能ニュースや政治問題に沈黙しているアカウントである。キーワード・トレンド検索なんていらない。不言及検索を実装してくれ。
この数週間、李禹煥『両義の表現』をゆっくりと読んでいる。つくるという行為は結局どういうものなのか、それは言葉とどう繋がるか、環境やアーティストはどう関わり合うのか、近代・西洋思想の何を批判し共生や無為のテーマをどの点から捉え直すか、表現の限界が存在するならそれはどこにあるのか、そもそもの話しとして”両義の表現”とはいかなるものか。経営コンサルタントという芸者の端くれとして、容易には読み飛ばせない内容ばかりだった。うすっぺらいアート思考を語る某口氏とは根本から違う創作との接点がここにある。
言葉と真剣に向き合う李禹煥は、当然沈黙についても考えを記している。
沈黙は、ロゴスと対比されることはあっても、言葉と反対概念ではない。沈黙も一つの態度、立場の表明であり、言葉と違う表現の方法である。言葉ばかりが意思表示でないのは言うまでもない。相手の言葉よりも、むしろその眼つきや顔色または行動でより確かな判断を下すこともある。スポーツや踊り、音楽、美術、ジェスチュアなどが言葉でない表現であるばかりか、それらもまた言葉でないもっと雄弁な言葉であることは多言を要しまい。言葉を突き詰めていくと、ついに詰まってくる。言葉には限界があるということだ。言葉に詰まった時は沈黙せざるを得ない。ところで考え抜いた先には大抵言葉がない。そしてまた、究極的決定的瞬間に出会うと沈黙せざるを得ないが、その時、無限の暗示が広がる。
“考え抜いた先には大抵言葉がない。そしてまた、究極的決定的瞬間に出会うと沈黙せざるを得ないが、その時、無限の暗示が広がる”
コンサルファームで尊敬できる先輩は物静かな方だった。みな考え抜き、決定的瞬間と向き合っていた人なんだと今ならわかる。私にとってこの10年は、たくさん言葉を尽くしてスライドと会議室を埋めてきた時間だったのだけれど、向こう10年は、沈黙で雄弁に人間になるための修行期間である。
💼心惹かれたもの
着るタオル:泉州タオル生地で出来たサウナポンチョが心地よさそうなので購入。昨日お風呂上がりに試したのですが最高でした。もう少し手軽に使える『着るタオル』もよさそうで気になっている。 (link)
テニスアパレル・Valldoreix:世界観が大好きな新興ブランド。日本のディストリピューターやりたい、あるいは近いコンセプトのブランドを自らやりたい。先週末に『倉庫を空けるために99%オフセール(!!)やります』通知が来たときはびっくりした。深夜2時に起きて注文しました。8点買って送料の方が高かった。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
議論の勝敗よりも「そこにいること」が重要視される時代:政治の場でずっと重視されてきたディベートというフォーマットは、良い議論を深める場としてはもう機能せず、単に「シェア可能な高エンゲージメントクリップ」を生み出す装置になってしまった。そのため専門家よりもいろんなことに頭を突っ込む自信満々話者が広がっている。ただ話題が出たときに、カメラの前の椅子に座っていることが大事になっている。それでいいのだろうか。 (People vs Algorithms, link)
米国からの頭脳流出:米国は第二次世界大戦後に世界の頭脳をかき集めることでインターネットからGPS、mRNAワクチンまで多くのものを生み出し成長してきた。しかしこの3月の調査で回答者の3/4、1,200人以上の米国人科学者が母国を離れることを考えていると回答。イギリスやフランス、ノルウェーやオーストラリアなど世界中の指導者がトップ科学者の誘致策を発表している。21世紀の頭脳が集まるのは米国ではないのかもしれない。 (No Mercy No Malice, link)
アメリカのイノベーションの覇権は、偶然や生まれつきのものではなく、意図的な投資と世界で最も卓越した頭脳集団の緊密な協力によって獲得されたものである。今、私たちはそのすべてを投げ出すリスクを抱えている。
帆船はサステナブル海運の未来か?:帆船や風力アシスト船が、化石燃料に頼る従来の貨物船に代わるカーボンニュートラルな船として世界中で見直されている。新型帆船・Grain De Sailは積載量50トン・8ノット航行が可能。ヨーロッパ、アメリカ大陸、カリブ海を航行し、大西洋横断に要する日数は18~20日。従来の海上貨物輸送と比べて二酸化炭素排出量を90%削減できる。再来年には新型船が就航、200個のコンテナを積んで13日で大西洋横断か、速いぞ。 (Reasons to be cheerful, link)
短編小説は死んだ:AIの支援もありネットに溢れる短編小説は増えているものの、短編小説を読む人はほとんどいない。多くは退屈な作品である。しかし短編小説を書くことは、絶望を感じる人の救いになる。読まれるためのものの前に、自分のためにこそ書くべきなのだ。そのためのメディアとして、短編小説は素晴らしい。 (the Republic of Letters, link)
文化アイコンとなったレンジローバー:IBMがフロッピーディスクを発表しボーイング747が初の商業飛行に成功した1970年にランドローバー社は高級SUVとしてレンジローバーを発売。1972年に特別装備のレンジローバー2台と英国軍人のチームが中米の密林・湿地帯のダリエン・ギャップを横断。最高性能とデザインを磨き続け、英国王室からスポーツ界まで広く愛されるアイコンとなっている。「芸術は人生を模倣し、人生は芸術を模倣する」かっこいい表現だ。次車を買うときに考えてみよう。 (Sharp Magazine, link)
チンパンジー研究で考える人間言語の起源:マックスプランク進化人類学研究所の研究。チンパンジーは人間の言語と同じように、呼びかけ言葉を組み合わせて新しい意味を作り出すことができる複雑なコミュニケーションシステムを持っていると判明。人間の言語能力は、以前考えられていたほど特殊なものではないかもしれない。 (mpg, link)
あまりに早く幸運が訪れたなら「利確」しよう:投資家ビル・アックマンが語る株の売り時は「自身の投資が間違っていたと認めるとき」「既に高すぎると感じるリターンを得られているとき」「保有の機会費用が高すぎるとき」の3つ。この売る理由は株に限らず、仕事、人間関係、追求、プロジェクト、あるいはアイデンティティについても当てはまるのではないか。過去に縛られず、まっすぐに良いリターンを追求しよう。誤りを認め、幸運を実力と混同せず、執着を捨てること。 (Sahil Bloom, link)
自然訪問は都市生活者の幸福格差の改善につながる:人々が自然との関わりを感じるほど、全体的な幸福度が向上すること、そしてこの関係は、社会経済状況がより悪い都市化地域で特に顕著であることを示唆する研究。ハイキングやキャンプ、公園散歩などの自然との関わりは大きなストレス下にある人々の健康を維持・改善するために重要である。そして、特に幼少期の自然体験が成人後の幸福度の有意な予測因子になっているという。街と自然が交叉する街・神戸、魅力的だぞ。みんな引っ越しておいで。 (神戸大学, link)
Anthropicチームが大切にする「インパクト、自律、センス」:インパクトを残す仕事をするには何かしらのレバレッジをかける必要があり、効果的な”てこ”の活用には主体性とセンスが欠かせない。物事を起こそうとする能動性、確実に成功させるための不屈の精神と臨機応変さのバランス、何がうまくいきそう・いかなさそうかの直感(問題選択and/orアプローチ)これらを得るために何をすべきかのヒントがある。 (Ben Kuhn, link)
📙本
二項動態経営 共通善に向かう集合知創造:どんな領域でも、一流のプロフェッショナルは、一見矛盾しているようにみえる要素を次元をあげることで両立させているようにみえる。会社経営や事業の文脈でそれをしようと思ったときに、野中郁次郎先生の二項動態コンセプトを避けて通れない。もっとレベルの高いプロを目指すぞ。 (Amazon, link)
創造派の物品49:Yu Kosekiさんのショートショート作品。「私達はすべての判断をAIに委ねるようになって、創造に関わる活動を取り締った結果、世界はかつてなく平和で安定したものとなった。しかしその代償として、素晴らしい勢いでしてきたAIが、その進化を止めてしまった」こんな未来が訪れるのだろうか。人はディストピアの夢を見る。 (link)
📻観た/聴いた
さらば青春の光単独公演「八百長」:大阪で観てきました。今年は当たり年、久しぶりに肚の底から笑いました。路上ミュージシャンのネタが大好き。 (link)
🧩感じた/感じている
景気悪化の音が聞こえる。トランプ大統領は早く中国と手打ちをして中東から金を引っ張り、自国再建を何とかしないと中間選挙が大変なことになる。
自分でPC端末や働く部屋の気温、オフィスコーヒーの銘柄などを選べることが自営業の魅力。リモートワークをするにしても、作業部屋をつくっておくのがいい。
いま進めている輸入販売事業、うまくいかなさそうなら自分でブランドをつくろう。創業してから数年、一定自己資本も与信も厚くなってきた。金をかけて、商売をつくろう。
いいことがあったときに、電話をかけようと思える相手がいるというのは素敵なこと。
🍵関心事
メモ帳・アウトライナーとして愛用してきたDynalistからの乗り換えを検討中。Apple notesはどうだろう。自然に手書きや表を埋め込めるのはいいな。
6-7月の日本を離れる間、食生活をいかに健康的にするか。フルーツをしっかり採ろう。
🥑活動報告
生成AI・ディープリサーチのアウトプットサイクルに合わせたポモドーロテクニックを作業単位として試しています。35分ワーク→10分休憩。けっこうよいかも。残り時間はTime Timer タイムタイマーで可視化。時間みたいな概念ものはデジタルより物理で体感するのがよい。
先週は6件のエキスパートインタビュー、2件の業務面談。新事業進出のための補助金申請書のたたき台を書き始め、公庫からお金を借りるための算段をはじめました。週末に契約書レビューをして、OEM先2件に打診の問合せをする。