年初から3月末まで、それはもう人生で一二を争うほどの忙しさだった。リサーチ案件が同時並行で複数進み、頭は常にフル回転。このままでは身が持たぬと、4月以降の新規案件は見積もりをずいぶんと強気にお出しした(独立してからの共有:仕事は断るのではなく断ってもらった方がいい)。結果、いくつかのプロジェクトが自然と整理されていき、おかげで4月は驚くほどシンプルで、穏やかな毎日を送ることができた。悪くない、実に快適だった。
しかし、ゴールデンウィークという余白を経て5月に入ると、途端に内なる何かが騒ぎ出す。あれもやりたい、これも面白そうだとどんどん予定を埋めていき、気がついたら銀行に新規融資を申し込み、補助金申請書類をつくりつつ海外メーカーに英語の打診メールを出している。先週も輸入業やDTCに取り組むエキスパートにヒアリングをして、英文契約書と格闘していた。本業であるコンサルティングの仕事も、気づけば当初のスコープを大きく逸脱し、クライアントのさらに奥深い課題にまで首を突っ込んでいる始末。何をしているんだろうか。
パスカルは名著『パンセ』で、人間は自身の死や存在の不安から目をそらすために、狩猟や賭け事、戦争、仕事などに活動に没頭するのだと指摘した。キルケゴールやセネカなどの哲学者も、多忙な生活が人間から真の閑暇や自己省察の時間を奪う悪しき存在だと語る。仕事の合間に”気晴らし/diversion”があるのではない。仕事こそが気晴らしになっているのが現代である。
さて私のいまは、傍から見れば一貫性のない、手当たり次第のお仕事・経営方法にみえることだろう。実際、世の賢人はみな口を揃えて「充実した人生のためにシンプルさを徹底すべき(そして本質に向き合え)」という。選択と集中、断捨離、ミニマリズム。それらがもたらす明快さや効率性は実に魅力的である。しかし、複雑さには不思議な魅力がある。そもそも世界はこんがらがっためちゃくちゃなものなんだから、日々の営みが多岐にわたり、時に混沌とするのは、むしろ自然なことではないだろうかと言い訳をしている。思考を巡らせ、多方面にアンテナを張ることでしか見えてこない景色がある(と信じたい)。
年初からの繁忙期で「もう無理だ」と感じた瞬間も、今のこの「あれもこれも」状態も、結局のところ、自分のキャパシティの限界を押し広げようとする悪あがきなのかもしれない。そして、その悪あがきこそが楽しみの源泉である。いつかのニュースレターで、「勇気の程度によって、人生は伸び縮みする。そしてGood things happen slow. 良いことはゆっくりと起きる」と書いた。2025年前半はずいぶんと生活を伸ばしたり縮めたりしている。今年後半、良いことが少しずつでも起きてくると良いのだけれど。
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💼心惹かれたもの
KEEPTIME モバイルモニター 15.6インチ:来週以降のリモートワークはこの子を頼りに生産性落とさず働きます。縦置きがおすすめ。 (link)
築地吉岡屋の漬物「新芽生姜」:おいしすぎてリピート引力に飲み込まれている。夏はさっぱりした漬物が恋しくなりますね。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
大阪は旅先として最高の街:海外の方がsubstackでかく旅行記を読みあさっています。最高のうどん、大阪で一緒に探そう。 (Blackbird Spyplane, link)
Appleが犯した罪と転落:頭でわかっていても体が動かない事例>"金を稼ごうとしてはいけない。 素晴らしいものを作ろうとすれば、お金は必ず後からついてくる。 説明するのは簡単だが、どの企業にとってもほとんど不可能な戦略だ" (Hypercritical, link)
Z世代の男性は宗教的になってきている(一方、女性はそうでもない):若いクリスチャン女性は、若いクリスチャン男性よりもはるかにリベラルであり、民主党支持者が多い。 専門家は『政治的見解の違いを生み出しているのは宗教そのものより、若いクリスチャン女性が多様なコミュニティとのつながりや接触が多く、幅広いメディアに触れているから』と指摘。 (Vox, link)
テイクアウトの食事はもはや現代生活の基盤:米国データだとレストランが取り扱う注文全体の75%がテイクアウト。調査では、Z世代とミレニアル世代の半数が『テイクアウトとドライブスルーでの食事が欠かせない』と回答、60%が昨年よりも頻繁にテイクアウトを注文。AIによる注文支援の取り組みも広がっている。 (Food&Wine, link)
中国のZ世代はデザートのような服を着る:RedNoteやTiktokで芸術的デザートのショート動画が爆発的に広がり、このトレンドはファッションにまで影響を広げている。ミュウミュウはこのトレンドに全乗っかりしており、カヌレは着るものになった。コンテンツ・ストラテジスト曰く「Z世代は自己表現として色彩を好み、懐かしさや安らぎ、遊び心を感じる色合いに傾倒することが多い。 食べ物の色は、馴染みがありながらも感覚的に豊かである」 (Jing Daily, link)
ベル研究所はなぜ機能したのか?:トランジスタやUNIX、C言語、更には光ファイバー通信からレーザーに至るまで、多くのイノベーションを生み出したベル研究所。ここはアメリカの世紀を鍛えた炉だった。そしてその炉を壊したのがMBA文化である。彼らのやり方を改めて学び直さなくてはいけない。 (1517 Fund, link)
優秀で野心的な人材を見つける、他の野心的で素晴らしい人たちとグループにする、頭脳明晰で技術的なメーカーを雇う、必要に応じグループ間で相互受粉させる、毎日お互いに話すようにする、互いに教え合う学校にする、勉強・向上を奨励する…
関税による制作費高騰に怯える米国アーティストたち:ガラスからスチール、合板まで、彫刻やインスタレーションに人気の素材はいずれも輸入品が中心。前回と比べて見積価格が3倍になった素材まである。鋼板やプラスチック製品だけでなく、砥粒と顔料も値上げが近い。これまでむしろ高級素材を中心に制作していたアーティストは相対的に割安となり、むしろ案件が殺到しているという。安価な代替素材探索は、新たな創造を生むだろうか。 (Hyperallergic, link)
神経学者「クラブ遊びは健康に良いぞ!」:認知心理学者・神経科学者のダニエル・レヴィンによれば、クラブで流れるダンス音楽は日常生活では到達困難なフロー状態に脳を誘うのに役立つ。Embodied Brain LabのDirector、ジュリア・C・バッソはフロアの一体感が脳内の社会的ネットワーク発火・同調に一役買っているという。お酒はほどほどにね。 (huck, link)
アナログ・インテリジェンスを高める:この数年でAIが手助けしてくれるデジタル世界はずいぶんと広がったが、さて物理世界での活動をロボットが助けてくれる日まではまだ遠い。この世界では身体は一つでシングルタスクが大前提。集中力やフローを生み出すためにペンとノートを使い(OpenAIのサム・アルトマンも月に2-3冊のノートを消費している)、ホワイトボードやポストイットを使って会議をする。デジタル世界は彼らに任せて、私たちはこの世界で戦おう。 (Total Annarchy, link)
A Few Questions by Morgan Housel:日常に落ちている問いに答えるのも大事ながら、週に一度くらいは冷静に生き方を見直そう。 (Collab Fund, link)
自身が持つ"原則"のうち、どれがただの文化的流行なのだろう?
もし他人と自分を比べることができないとしたら、良い人生をどのように定義するだろう?
私は今、どのような未来の記憶を創造しているだろう?
テニス、ピックルボールときて次はパデル:米国でパデルコートが爆増中。ピックルボーラーの”ウザさ”を揶揄するSNS投稿がどんどん増えているのをみると反動感がある。私がやろうとしている新事業、テニス、ピックルボール、パデル全部と関係がある。この波に乗るぞ。 (Airmail, link)
📙本
余白の芸術:先週とりあげた『両義の表現』に続けて、李禹煥・リーウーファンの著作を読んでいます。こちらのエッセイも魂がこもっていて、読み終えるまでに3ヶ月くらいかかりそう。 (Amazon, link)
ワークサイト27号『消費者とは Are We Consumers ?』:冒頭、コクヨ・山下さんとインテージ・野田さんが行っている『消費者って?』対談は、ほとんどの企業製品・サービスがおもんないものになっていっているのはなぜか?マーケティング手法がこざかしくなっているのはなぜか?を考えるいいヒントがありました。また1920年代からの調査史を振りかえる北田さんの論考も良かった。リサーチをやっている人、偉そうな顔して適当に事実と向き合いすぎやねんな。 (Amazon, link)
現在の我々は「調査のプロとして客観的に」「第三者のスタンスで」というポジションを、良くも悪くも取りがちだなと思います。それに対してこの時代のソーシャルワーカーは、当事者としての必要性から調査のプロになったということですよね。困っている人を助けるため、社会を変えるために、調査技術と調査結果が必要だった。勇気づけられると同時に、自分たちのいまのスタンスを見つめ直すことを求められるような歴史です。
日常のフローチャート:森博嗣思考は役に立つ。 (Amazon, link)
自分の楽しみを持って、自分で生産すること。つまり、アウトプットする。一生なにか作り続ける生活。それが、本当の楽しさを生み出すし、また金もかからない。ゆったりとして、のんびりと生きていける。そして、実は、この金をかけない生き方こそが、本当の贅沢なのである。
📻観た/聴いた
ジョニー・アイブとの雑談:Stripe CEO・Patrick Collisonとのセッション、ほんとにいい声してますね。彼が始めたAIハードウェア企業ioをOpenAIが買収すると22日発表。55名のHW/SWエンジニアや製造専門家がOpenAIに加わることに。26年の初デバイスお披露目が楽しみ。
Silent Hiking in New Zealand for 7 days:ニュージーランドの美しい山並みと自然。圧巻。名前の通り35分強、自然音と緩やかなBGMを背景にとにかく美しい画が続く。私たちがNHK BSに求めているものがこれ。
Not Fair:最近のお気に入り曲。あがる。 (link)
🧩感じた/感じている
尊敬しているコンサル会社代表の方が、私がおすすめした本をテーマに企業ポッドキャストを収録してくれていた。大光栄。
JETROの方が紹介してくれた「中小企業国際業務支援弁護士紹介制度」が大変有り難い。日本の公的機関、探せばいろんな機会を提示してくれているんだよな。
『厳しいがフェアである』は経営者・上司として理想の人物評である。創業者はもう一歩、そこに熱量を載せる。(参考:『人望』とはなにか。)
自分たちに情熱が足りないからといって、製品やサービスに漂う情熱を生み出すことを消費者に頼るのは不誠実ではないか。多くの会社はファンマーケティングとしてこの方法を採用している。
🍵関心事
次の戦場をどこに定めるか。応援しているテニスのジュニア選手が大学生やプロ選手相手にファイトしているのをみて、私も常在戦場、もっとがんばらなあかんと感じています。
柞刈湯葉のような文章を書くために歩むべき道。先週の日記も痺れた。エリクサーを抱えて全クリしている場合じゃない。>”老後の不安もあるし、貯金はいわば命綱なわけだけど、僕は命綱を守るために生きているわけではない。不満を抱きながら生きながらえるよりも満足して死んでいけ、とも思う”
🥑活動報告
一介のコンサルタントから事業家に進化すべく、日々挑戦しています。7年ほど事業をやってきてそこそこ自己資金も厚くなってきたのですが、そのほとんどを費やして新しいことをする。長く寝かせてしまっているノンアルビール造りにも再挑戦する道を探っています。身銭を切りすぎて路頭に迷ったら誰か雇ってください。この事業づくり報告のためのSlackスペースを作ったので、参加希望の方がいればメッセージをください。Build in publicでがんばります。
自分用につくった補助金申請書類作成パートナーのGPTを公開しました:2025新事業進出補助金申請サポート
<お便りをお待ちしています>