企業がマーケティングツールとして運用するオウンドメディアに魅力的なものは少ない。Collab Fundのブログなど好きなものはいくつかあるのだけど(直近の『Very Bad Advice/非常に悪いアドバイス』がおすすめ)日本企業発のもので読むべきものは相当限られる。NewspicksやPivotなどに広告出稿している企業のものは言わずもがなで、スタートアップがnoteで連載しているものもたいていスベっている。無粋で野暮なものばかりだ。
ほぼ唯一繰り返し読んでいるメディアが日立運営の”EFOビジネスレビュー”楠木建さんシリーズだ。事業論や戦略論、日常の視点などについて、上滑りしていない味わいある論考が多い。『楠木建の頭の中 仕事と生活についての雑記』『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』として書籍にまとまっているので飛行機内でまとめ読みした。改めて感じたことがいくつか合ったのだけど、特に仕事の本質に近いところのメモを共有したい。
私のこれまでのキャリアはほとんどクライアントワークなのだけど、この仕事の厳しさと面白さを楠木先生が気持ち良く言葉にしてくれていた。はらはらした打席の緊張感と、徹底した顧客洞察の充実感が両立するのがコンサルタントの仕事の面白さである。
受注仕事を始めてすぐに気づいたことがあります。受注仕事に敗者復活戦はないということです。組織の中で割り当てられる仕事であれば、一度失敗しても次の仕事は回ってきます。その人に何もさせないでいると、雇用が無駄になるからです。
受注仕事ですと、そうは問屋が卸しません。最初の打席で何らかの成果が出て塁に出ないことには話が始まりません。ホームランでなくてもイイのですが、最初から確実にお客様の期待に応えなければならない。一打席目がアウトだったらそこで仕事は終わり。そのお客さまに限って言えば、次の注文はまず来ない。「ワンアウトゲームセット」の世界です。 (Kindle, no.2,322)
この短い随筆は、ビジネスの一つの本質を浮き彫りにしています。すなわち、性能は客が決める。商品やサービスの価値は顧客の使用文脈の中で初めて決まります。どんなにグローバル化が進んでも、顧客を取り巻く文脈には国や地域で大きな違いがあります。文脈から切り離してひたすら「良いもの」を追求すると、しばしば供給側の独りよがりに陥ります。ようするに「顧客の視点に立って考える」という当たり前の結論になるわけですが、これが難しい。いよいよ市場が成熟したいま、この商売の原理原則はますます重要になっています。
商売と経営の基盤にあるのは「人間に対する洞察」です。優れた経営者の一義的な条件は人間に興味があり、人間に対する理解が深いことにあります。
(Kindle, no.2,420)
世の中のオウンドメディアがたいてい面白くないのは、(客寄せしたい!売り込みたい!という浅はかな意図に基づく内容なのに)、そこに客のイメージがないからである。オウンドメディアの記事には大量の「私たちはすごい。なぜなら〜」が並ぶのだけれど、私たちはそんな見せかけの証拠が欲しいわけではなく、自分の行動や思考を前進させるための論を求めているのである。D・カーネギー『人を動かす』から学び直すべきだ。PV/UUを追い求めるメディアが興味深くなることはない。わたしたちはいつでも社会・生活・商売の原則に立ち返るべきである。
<お便りをお待ちしています>
💼心惹かれたもの
Sporty&Rich:インスタグラムのストーリーボードから始まって紙雑誌、さらにはアパレル製品へと進化していったスポーツブランド。ラグジュアリー価格ですなぁ。 (link)
Love All Tennis:利益の10%を障害者支援団体やスペシャルオリンピックスに寄付し続けているテニスブランド。実現したい世界があるなら、ただ叫ぶだけじゃなく、行動で示そう。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
価格と価値:価値が低いまま価格を高くすること、あるいは高い価格を正当化するようにさも価値が高いかのように偽装することは悪である。「市場におけるその人の価格は、世間的な認知度や知名度、賞などのようなものであり、価値はその人の特性や資質である」自身の価値を高めることに投資し、価格に対して価値が低く留まる人を探すべきだ。自分も他人も、値札を気にしすぎていいことなどない。 (Taejun’s Substack, link)
あなたと自分自身のために私はたくさん眠る:睡眠大事だよ!の詰め合わせ>①『睡眠不足になると職場でナルシシズムやサイコパシーなどの「ダークな性格」が引き出されてしまう可能性』②『たった3日続けて睡眠不足になるだけで心臓に害が及ぶかもしれない』 ③『週末2時間長く寝ることで10代は不安を鎮められる』(Gigazine + 米国睡眠医学会)
“TikTokとInstagram時代の観光”ソーシャルメディアは休暇をどう変えたか:話題駆動型の旅ばかりになっている。手ぶらで歩く時間をつくろう。 (Le Monde, link)
人間であるためのロードマップ:私たちに必要な場は先端技術に溢れた空間というよりむしろ、人間性の余韻や交流を味わう場所だろう。 (Unorthodox Blend, link)
眺望ではなく、向かい合うように配置された公共ベンチ
天候に関わらず一年中利用できる屋外スペース
コミュニティ活動のための安価な屋内スペース
商業的な正当性を必要としないパフォーマンス・スペース
年齢層の垣根を越えた交流を促す世代横断公園
Amazon/AWSが米国データセンターでの再生水利用を拡大:2030年までに120カ所のデータセンターの冷却に再生水を使用する計画で、5億3,000万ガロン以上の飲料水を保全できる見込み。データセンターが地域社会にもたらす負荷が問題になりつつある中、直接使用する水よりも多くの水を地域社会に還元する"ウォーターポジティブ"の実現を目指す。このウォーターポジティブのコンセプト、日本でも採用する企業が増えるんじゃないか。 (facilities dive, link)
AIが市場調査を再発明する『より早く、賢く、安く』:2010年代の進化はSaaS化・マーケットプレイス化などの実行者側の手間・価格・速度を改善するものだったけれど、AI/LLMを通じたGenerative Agentsの登場は根本から市場調査の前提を崩すかもしれない。ちょうど楠木先生の本で改めてアイリスオーヤマの”ユーザーイン思想”に触れ、さてこのコンセプトをAIでサービス実装できるだろうかと考えています。”市場”や”競合”みたいなふわっと概念が対象ならいくらでも適当なアウトプットを出せるのだけど、果たして具体的なものを相手にしたときにどうなることだろう。 (a16z, link)
“不可視ID” たったひと呼吸で健康状態と身元を確認する:鼻呼吸の仕方だけでほぼ97%の精度で個人を特定することに成功、指紋と同じように活用できるかも。さらにBMIのような生理学的なマーカーとしても機能し、同時に気分や認知能力の予測にも活用できる可能性。 (Cell Press, link)
精子についてわかっていること・いないこと:ヒトでいうと、心拍1回ごとに1千個の精子がつくられ、体内での成熟に9週間かけられている。未射精の精子細胞はやがて死滅し体内に再吸収される。精子の尾の部分はチューリングパターンに従った動きを見せる。わかったこともたくさんあるけど、一方で性淘汰の仕組みや精子自体の進化過程など謎がまだたくさんある。 (BBC, link)
システム開発は「決めること」の連続:実は全ての仕事がそうなんだと気づくとき、職業人として成長したことを実感する。 (Magnolia Tech, link)
賢い人は目標より制約をうまくつかう:「目標が人をドライブする」っていう幻想、見直した方がいい。いろんな事業計画や補助金申請書類が”目標”の欄を設けているんだけど、それがあることが前進を促したのか、誰か検証したのだろうか。MVVなんかも含め「なんとなくあった方がいいよね」となっている概念・コンセプト、冷静になって見つめ直した方がいい。 (Joan Westenberg, link)
📙本
成功への情熱:Audibleで。成功のためのHowを求める人が多いけど、一番持つべきは根っこの部分の情熱である。熱意がない人がどんな道具を手にしたとて成果を生み出すことはないんだから。 (Amazon, link)
移動と階級:安易に「特権」や「格差」等の言葉を使うべきではない。着眼点は面白い(それそのものさえ借り物だけど)とおもうのに残念。 (Amazon, link)
直観の経営 「共感の哲学」で読み解く動態経営論:読後、ChatGPTと一緒に現象学を一から勉強して、それを経営思想と統合する。考える材料をたくさんくれる本。 (Amazon, link)
心穏やかに生きる哲学 ストア派に学ぶストレスフルな時代を生きる考え方:コントロールできるものは自分の品性と感情、他人に対する向き合い方のみ。不幸を事前に想定して心の耐久力を高め、その中で自身が何が出来るかを真剣に探り品性を磨く。ストア派思想が好きだ。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
Netflix『エア・コカイン事件: 密輸犯は機上にいたのか?』:フランスを目指してドミニカを出発しようとしていたプライベートジェット機に積まれていたのはコカイン700kg。軍出身の善良そうなパイロット2名、資格を持たないものの副操縦士名目で登場するおっちゃん1名、謎の地味な乗客1名。現地麻薬取締組織では汚職が蔓延っており、司法当局はフランスマフィアの存在を声高に叫ぶ。全3話、第2話の最後で一気に舵が切られて「なんぞー!」となる。。 (link)
Rebuild 409 (hak):iPad OSがどう進化していくのか私も楽しみ。 (link)
Insider/Training with Aleksandar Kovacevic:片手バックハンドがかっこいいコバチェビッチ。このYoutubeチャンネル最近のお気に入りです。 (link)
🧩感じた/感じている
朝の縄跳び、健康に絶大な効果がある。ニコラス・タレブが言うように、身体づくりに難しい器具はいらないのかもしれない。重りと縄があればいい。
どんな分野でも、面構えと立ち姿はその人のパフォーマンスを予測する優れた観察項目。自分自身の面構えはなかなか確認できないので、定期的にフィードバックをもらわないと。
「写真を撮るのが下手だね」と言われ理由を尋ねると「盛れてないから」とのこと。ありのまま以上の何かを引き出すのが撮影の巧拙なのだとしたら上手くなることに関心を持てないんだけど、それでもふわっと”上手く写真を撮れる人になりたい”とは思う。写真を上手く撮るって難しいですね。
AIが広く・深く浸透した社会での働くことについて五常・慎さんが言葉にしていた内容に深く肯いた。価値観と判断力が勝負を分けるんだと思う。
希少で価値あるものとして残るのは、好奇心、審美眼、信頼、オーラのような、機械には複製できない人間固有の資質、言い換えれば「人間性」なんだと思う。もう一つ残るのは判断力だと思う。そして、よい判断力は確かな価値観と目標設定能力(意欲)に依存する。意欲がない人には辛い社会だなと思う link
🍵関心事
イスラエルの行方。イランとの対立が落ち着いた先に何が待っているのだろう。
自社事業のブランドブックをこれからどんな風に作り上げていくか。ブランド名は(少なくとも今の感性で)これだと思うものが出来たので、これからは自分の感性に鉋と鑿をあてて磨いていく時間を持とう。
“並外れた結果を得るために、並外れたことをする必要はない”というバフェットの言葉をどう解釈し、私は何をするか。
🥑活動報告
今晩バンコクを発って北欧に立ちます。アイスランド初上陸で楽しみ。
<お便りをお待ちしています>