田中志/たなかのぞみといいます。経営コンサル兼ラケットスポーツアパレル屋の店主。
毎週月曜朝に読んだものや観たもの、考えたことなどを紹介しています。
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(Substackにはコメント欄がある、知ってました?)
7/8放送のラジオ大阪・山添寛のサクラバシ919の冒頭、山添さんが”最近もやっとした話”として飲食店で受けた接客のことを話されていた。夜の時間に1人で居酒屋さんにいき、イヤホンで動画を視聴がてら食事を楽しもうとしていたところ、店員さんから、
ドリンク注文段階から『え、緑茶ですか…』な空気をほんのり出される
「お席は90分制になります」と念を押される
「混み合いましたら荷物は下に下ろしてください」と事前念押しされる
とわざわざ肩をたたかれて注意をされたのだという(山添さんの言葉そのままに『ずいぶんと、申し訳ないなと思わせてくるやん』)。まぁこれは自然な対応だ。人気店ならしょうがない。問題はここからだ。お酒を頼まない分多めに料理を頼み、席を長く奪わないように20分ほどで食事をしていざお会計となったところで、店員さんから「サインいいですか?」と聞かれたというのだ。気づいてたんかい、それでこの対応かい!と。
この状況、もやっとする人もいればそうでない人もいると思う。そのお店の対応は、個別に見ると全くおかしなところはない。お酒を飲んでくれた方が利益になるし、食事が終わっているのにスマホをダラダラ使いそうな人には注意を払うべきだし、席の非効率利用は機会損失に直結する。そして、芸能人が来たのならサインの一つでももらっておくべきだろう。そして、先の論理は芸能人云々とは独立だ。全て自然な対応にみえる。しかし全体を見渡したときに「ソレしておきながらコレするん?」だったり「アレやっておきながらコレかい!」という感情がふつふつと湧いてくるはずだ。それがまともな人間の感性であり、倫理感である。
昨日投開票があった参院選はじめ、選挙の時期が来るとこれと似たような感情を頻繁に味わうことになる。個別の政策を見ると何かソレっぽいことをいっている政党がある。実現できたら素敵なのかもしれない。討論での個別の発言も筋は通っている。しかし俯瞰し全体を眺めてみるとなんかおかしなことになっているように(少なくとも私には)見える。支持者は国防や外国人問題にテーマを絞って「この国には○○党/●●さんが必要!」と叫び(昨日の日経朝刊によると『今回の参院選の争点は外国人政策』とのことだが本邦の政治経済状況を見たときにそれが本当にイシュー/論点なのだろうか?)、政策比較サイトは空想の減税・給付策や社会保障改革を並べて「あなたの嗜好は○○党に近いですよ」と囁く。間違ったこと言ってませんよね?と開き直った候補者と、自ら望んで視野を狭める眼鏡をかけにいく有権者が共謀するのが国政選挙だ。まあ、そういうものなのだ。
場面を限定するとソレっぽい論理はいくらでも出てくる。そして口では何とでも言えるのだ。本当に大事なことは全体感であって、冒頭の場面に戻ると「最後にサインをお願いするならさすがに…」と気づくまともな感性と倫理感・イデオロギー、そしてそれらを体現する振る舞いを私たちは取りもどさなくてはいけない。残念なことに、感性もイデオロギーも振る舞いも、字幕には映らない。目をこらし、耳をそばだて「あれ?なんかおかしないか?」と立ち止まる人がいっそう必要なんだと思う。日々1つでも「よく考えるとこれっておかしないか?」を見つけられる人でありたい。
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💼心惹かれたもの
The London Sock Exchange:Super Cool. 名前もパッケージも製品も好きだ。実際に履いてみてもかわいくて好き。 (link)
みょうが:夏は薬味のおいしさを一層感じる季節。『みょうがと夏野菜の即席漬け』つくってみよう。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
ウィンブルドン決勝解説:全仏決勝もそうだったのだけど、シナーvsアルカラスはテニスがスポーツであることを思い出させてくれる。「ウィンブルドンの芝でハードコートの試合」とはよく言ったもの。しかし線審がいないセンターコートがここまで奇妙に見えるとは。さて感動にひたっている暇もなく、6週間後には全米が始まり、秋はアジアシリーズになります。この9月、東京・有明でアルカラスが見られます。 (The Athletic by NYT, link)
旅行ではベタにいこう:旅慣れた人ほど「穴場」「隠れた名店」を探しがちだけど、結局有名なところのほうが規模の経済が聞いているから安価に充実を体験できるんだよとさとす。米ニューオリンズのカフェ・デュ・モンド、いってみたいな。 (Reasons, link)
サプリメント文化の中心地・ユタ州:1994年に同州で成立した「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」はサプリメントを医薬品ではなく食品に分類手しており、厳格な事前承認なしにサプリを販売できる規制緩和地域として立ち上がった。更に健康的な教えや教徒同士の繋がりを重視するモルモン教が大きな勢力を持っていることもサプリ産業クラスターの形成に影響。制度と文化の共創産業です。 (morning brew, link)
Googleのスマホ製造チャレンジが「米国製」について教えてくれること:2013年、GoogleとMotorolaは「アメリカの製造業の復活」を掲げテキサス州でのスマートフォン組立を開始。しかし部品のサプライチェーン問題や人件費の高さ、より根本的な問題として「愛国心マーケティング」の不発によりわずか1年ほどで工場閉鎖に追い込まれた。現政権は関税政策を通じて製造大国の復権を目指すと言うけれど、まずは歴史から学ぶべきである。 (Fortune, link)
究極のサーフィン体験を求めて:「究極の波」を求める富裕層向けに、オーダーメイドのサーフィン探検旅行を提供するFelippe Dal Piero氏と彼の会社・Mahalo Experienceのルポ。完璧な波が立つ数日から24時間前クライアントに招集をかけ、精密なロジを組み顧客を最高の場所まで案内する。彼が事業をする中で作り上げてきた骨太の哲学が心地よかった。かっこいいね。>”人生の季節によって、激しい波を求める時もあれば、穏やかな波を求める時もある””最近では、自分が波に乗るよりも、人に波を譲る(良い経験をさせる)方が心地よいんだ” (FT, link)
AIが物流に及ぼすインパクト:AIが物流業界に与える真に巨大なインパクトは、自動運転トラックや倉庫のロボットといった目に見えるハードウェアではなく、サプライチェーン全体を最適化する『目に見えないソフトウェア』からもたらされる。それらは退屈なAI/Boring AIに見えるが、大きなインパクトをもたらすんだと。AIは物流世界のOSを大きくアップデートするはずだ。 (Austin Vernon’s Substack, link)
もう誰も個性を持っていない:先週一番印象に残ったリード。心理学が社会のあらゆるスキマに入り込み、セラピー文化の広がりは個性を診断名やラベルに落とし込んでいる。みなトラウマで自分を語り、ADHDなどの傾向を自己紹介欄に記載する。自らをマーケティングしやすい製品と見なすのは、自らを複雑で矛盾を抱えた人間ではなく、他者に理解してもらいやすい(あるいは同情されやすい)パッケージに落とし込むことなのだ。人間関係や感情を現る言葉は貧しくなっていくばかり。個性は選ぶものではない。複雑さの中で自ら紡ぐものである。 (GIRLS, link)
人生相談はいつからこんなにおかしくなったのか:Web(この記事では特にTiktokを取り上げている)に蔓延る人生アドバイスは過激で極端なものになっている。エンゲージメントを重視する各種プラットフォームが採用するアルゴリズムに素直に従うとそうなってしまうのだ。相談者も回答者も白黒思考(Binary Brain)の従者になり、即時的で使い捨ての関係から先に進むことはない。↑の記事と合わせて考えたい。私たちは複雑さを前提にして自らの弱さと向き合わなくてはいけない。 (Dazed, link)
真剣さはハックできない:情報が溢れる世界で、どうすれば人々はあなたの仕事やプロダクト、発信するメッセージを心の底から気にかけてくれるんだろう?私も毎週ニュースレターを書く人間として考えていることです。この問いに対する答えとして、小手先のマーケ戦略やバイラルハックではなく、感情と物語を支える真剣さこそが適切だと著者は言う。関心は、一貫した信念と本物の物語を通じて勝ち取っていくものなのだ。 (Westenberg, link)
📙本
百万ドルをとり返せ!:次のポッドキャスト課題本。以前読んだ『モンテ・クリスト伯』は1人が複数名相手に復讐する話し、これは4名で1人に復讐する話し。いずれにもエネルギーがありドラマがある。 (Amazon, link)
高峰秀子ベスト・エッセイ:古いのに古くない文章とはこの本にあるようなものをいうんですね。司馬遼太郎や黒澤明のような、私からすると歴史上の偉人に近い存在が普通に登場するコンテンツ突破系も、近所のお魚屋さんでの出会いをモチーフにしたような日常系もどちらも引き込まれる。正直で信用できる文章は時代を問わず素晴らしい。 (Amazon, link)
ねじまき鳥クロニクル:ずいぶん昔に本で読み、昨年舞台で観て、今回はオーディオブックで楽しみました。村上春樹の世界線は耳と相性がよい。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
ブラピ、F1カーを運転する:好きなんやなぁが伝わってくる。(link)
チーズはなぜ黄色/オレンジなのか:夏休みの自由研究によさそうな始まりの問い。
映画『バッド・ジーニアス』:2017年にタイで公開された作品のリメイクで、同じく仏映画「エール!」を『コーダ あいのうた』としてリメイクし大ヒットさせたスタッフ陣が担当。貧しい家庭から名門校へとすすんだ天才少女がみせた小さな善意が世界を跨ぐカンニング試験に繋がっていく。 (link)
🧩感じた/感じている
この時代、そして未来にかけて、中途半端な批評家・コメンテーターの価値はどんどん下がっていくだろう。
努力賞をほしがるコンサルタントばかりだが、だからこそいい仕事を目指そう。極北であろう。
因果一如のみが真実だ。
わたしが行うコンサル業において、売っているのは”出汁”である。考える個人・集団をつくりあげるための出汁。せっかく商売をしているなら、店の味をつくるべきである。しかしこの出汁は一朝一夕に完成しない。即席だしを使うのもいいのだけれど、よい出汁を作りたいと考える店主がいるならぜひうちの出汁をお裾分けをしたい。いま当社・Cobe Associeの主業は、お節介業であり、お裾分け業である。
🍵関心事
最高品質のスポーツソックスをつくるためにどのようなパートナーとご一緒するべきか。自社製品企画を少しずつ進めています。
経営における「良い失敗」にどう繋げていくか。>”経営における「悪い勝ち」と「良い負け」についての試論” link
🥑活動報告
ラケットスポーツアパレル屋のロゴ・ブランドデザインお仕事がキックオフ。9月頃にECサイトの一般公開を目指します。
生成AIの代表的3サービス(ChatGPT、Gemini、Claude)並行利用をはじめました。性格の違いが見え、皆かわいい。
先週のニュースレターから冒頭に自己紹介文を入れてみました。「ごちゃごちゃ書いているこいつ誰やねん?」となるはじめて訪れた方に届くことを願い。小さくても何か試し続けるニュースレターにしていこう。
<お便りをお待ちしています>