可逆不可逆、カネとプライド。
勤労を尊び、生産を祝い、国民互いに感謝しあおう!
どや顔で仕事術の本を出し世間に恥をさらしている私だが、新入社員のときには本当に何もわからない・何もできない社会人だった。何とかお客さん先でまともな仕事ができるようになったのは、先輩からもらった指導・鞭撻のおかげである。(なお鞭撻とは元々「むちで打って懲らしめること」を意味する。私は言葉を字義通り使うのが好きだ)
当時のマネージャーからは口酸っぱく「不可逆な物事には普段の10倍注意しな」と言われていた。パソコンで作成するPPTスライドやExcelスプレッドシートはいくらでも修正可能だけど、会議での発言を取り下げることはできない。会議室で投影するお客さんとの議論資料に間違いがあってもなんとかなるけれど、IRに掲載される資料のミスは命取りとなる。前者は可逆的なものであり、後者は不可逆的なものだ。当時の私は、ディスプレイ枠の下に『覆水盆に返らず』と書いたポストイットを貼り、大事な会議資料をつくるときはオブジェクト一つ一つを指さして「よし!」と声出し確認をしていた。
おかげさまで、多くの反省とともに、何が不可逆な意志決定で、何は後から何とでもなるかがだんだんとわかるようになってきた。見分けがつくようになると、付き合い方もうまくなるものである。まず、過去をくよくよ考えても仕方ない。なぜなら…
不可逆なことなら、そもそも取り戻しようがない
可逆的なことなら、いま・ここで努力を続けていけばほぼ取り戻せる。つまり現在・未来にエネルギーを割いた方がよい
同時に、現在・未来の時間軸では、何よりまず不可逆なことから決めて、それを制約にして可逆的なことを考えるべき。なぜなら…
不可逆なものなら「せっかくだから」「どうせなら」とお付き合いができるが、可逆的なものなら調整できてしまう(良くも悪くも)
古屋の黒いシルエットが、にやりと笑ったように見えた。
「カネを失うことよりも、プライドを失う方が怖い。誇りこそ、わが人生のエネルギーだし、アカマ自動車の原動力です。ここで失礼します」
「肝に銘じておきます」
黒いシルエットが背を向けた。そのまま立ち去って行く古屋を、鷲津はしばらく見つめていた。
(真山仁. ハゲタカ3 レッドゾーン)
カネは可逆的なものの典型例である。なくしてしまってもまた稼げば良いのだ。しかしプライドはそうはいかない。一度失ってしまったプライドを取りもどすことの難しさは、極端思想に傾倒して晩節を汚す政治家やアーティスト、悪銭の稼ぎ方を一度味わってしまったが故にまともな仕事がデキなくなってしまった人たちをみれば明らかだ。カネは天下の回りものだが、プライドは自然に社会を巡るものではない。プライドは意志の積み重ねによってつくられる不可逆な存在である。
株式市場が低調で、多くの人が含み損(あるいは含み益の消失)を嘆いているらしい。しかしカネに纏わるほとんどのことは可逆的な何かである。一方、プライドである。何にプライドを持つか、どんなプライドを持つか、そのプライドをどう行動で表現するか。ふと思えば、事業戦略を必死に考えているとき、不可逆的意志決定の論点はほとんどプライドに関わるものだった気もする。その会社のエネルギーであり、原動力になるようなプライドである。
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💼心惹かれたもの
Wise デビットカード:来年早々に海外旅が予定されているので、決済手数料・ATM利用手数料が安いカードをつくりました。「国際送金でSWIFT使うと高い→2カ国それぞれ国内送金で処理すればいいのでは?」こういう仕組みハック好き。 (link)

シンプルな図で示せる仕組みは頑健。link ローソンオリジナル 冷凍炒飯:コンサルタントは遍くオフィス最寄りコンビニにお世話になるものと決まっています。会議続きのある日ランチにこちらを頂いたんですが心をぐっと掴まれました。マルハニチロの『ナガラ食品監修ホルモン炒飯』もめちゃくちゃうまいです。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
米国奴隷制度解体の経済効果=GDP 9%分:奴隷制度が正式に廃止された1865年よりさらに前、1860年の時点で奴隷解放が実現されていたら米国経済はどうなっていたかをミクロデータ+定量的空間経済モデルを用いてシミュレーション。解放奴隷の生活水準や幸福度は1,200%という驚異的な改善を遂げる一方、奴隷所有者の利益は消滅し、一般の自由労働者の福祉は0.7%とわずかに減少したと推計。国全体の実質GDPは9.1%上昇したと試算され、これは元奴隷が農業ではなく北部の製造業やサービス業へと大規模に移動することにより経済拡大に繋がったと推察されるため。 (NBER, link)
私たちを支える生態系に”投資”する:従来の経済指標では、伝統的な経済学は自然の破壊を”成長”と捉えてきたが、果たしてそれはただしいのだろうか。自然を単なる”守るべきもの”ではなく、”価値を生み出すインフラ”として積極的に投資する対象へと変える経済合理性を説く。生態系サービスの経済的価値を測定する新しい指標・GEP(Gross Ecosystem Product:生態系総生産)等も考案され、実際に中国は導入を試みはじめている。 (NOEMA, link)
フィリピンから日本のコンビニ棚を監視する:ロボットの遠隔操作により、肉体労働を海外に移転することが可能になった。AIの広がりが更にそれを加速させる。 (Rest of World, link)
巧妙さの危機『みんな戦略を語るが誰も中身・本質を議論しない』:K-POPグループ・KATSEYEGapとの広告キャンペーンで話題になったとき、マーケ手法の巧拙を論じたり戦略を分析する人が数多くいた一方、だれも音楽そのものについて語らなかった。現代の政治や文化における公的な議論が、内容や真実よりも、背景にある戦略やマーケティング手法の分析に終始している。はたしてそれは正しいことなのだろうか。社会的なマーケティング中毒が、本質的な議論や個人の本当の意見を脇に追いやり、当たり障りのない退屈な中心へとすべてを収斂させているのではないか。 (Gen Zero, link)
未来の職種/AIとの協働でIVFの成功率を高める胚培養士:体外受精(IVF)の需要が急増し、胚の正常な培養を検査・監視する胚培養士が不足。従来、体外受精における受精卵の選択は、胚培養士が顕微鏡を通して行う視覚的な評価に大きく依存してきた。しかし、AIを用いて胚の状態を予測し、着床が成功しそうなものを迅速に選ぶことでより望ましい結果につながるのではないか。 (MIT Tech Review, link)
社会崩壊の匂いを閉じ込めた香水:これまでの香水が愛や夏のカプリ島といったロマンチックな物語を語ってきたのに対し、新たなニッチトレンドとして、灰、溶けたコンピューター、焦げた木、血、火薬などカタストロフィを連想させる香りが注目を浴びている。気候変動や世界中の戦争・紛争、AIの台頭といった社会的不安が広がる中、絶望的な現実から逃避するか逆にその恐怖に浸るかの二極化が起きており、香水がその心理を反映しているのでは。 (Dazed, link)
パブリックアートが街をよくしてくれる:オラファー・エリアソンが英国オクスフォードに設置した円形のベンチは、焚き火のように、街の人々が集う温かい空間として機能している。しばしば退屈なオブジェや落書きと混同される公共空間のアートだが、優れたパブリックアートはコミュニティの一員としての自覚を促し、その未来に対する責任感を引き出すという。公共芸術は単なる装飾ではなく、社会的な利益を生み出す重要な投資にもなり得る。 (monocle, link)
睡眠とは何か:もしかすると私たちのデフォルトは眠っている状態かもしれない…睡眠を、単に日中の活動のために必要な休息や充電だと考えるが主流かもしれないが、もしかすると覚醒状態こそが必要に応じて行われる例外的な活動である可能性を指摘。ローカルスリープ、初めて知ったな。 (aeon, link)
言葉にすることで見えてくる現実:頭の中にある段階のアイデアは、自分では完璧だと思っていても、いざ言葉にしようとすると、その曖昧さ、不正確さ、不完全さが露呈する。書くという行為は、単にありものの考えを表現する手段ではなく、アイデアを検証し、形成するための不可欠な厳しいテストとなる。何度も書き直すプロセスこそが、思考を厳密かつ明確にし、さらには執筆中に新たなアイデアを生み出すことにつながる。 (Paul Graham, link)
小さなチャンスにも全力で向き合え:控え選手で練習参加もわずかだった頃、コーチから「その2回の練習をスーパーボウルのように真剣にやれ」と諭され、その通り実行した結果、スターターの座を掴み取ったNFLの名選手がトム・ブレイディ。誰かが見ているかどうかにかかわらず、あらゆる機会を技術・精神を磨く場として捉え、誇りを持って取り組むことが最終的に大きな成功に繋がる。 (Collabfund, link)
📙本
資本主義にとって倫理とは何か:資本主義は単に利潤追求の仕組みなのか、それとも社会全体を支える倫理的基盤を必要とする制度なのか。「市場は人間社会の長い歴史の中で、直接的な協力システム(狩猟採集社会や小規模共同体)から進化した間接的な協力システムである」という前提から始め、市場が機能するための要請と日常の道徳性とをいかに整合させていくのかを問う。今後体系化されて行くであろうビジネス倫理学、ずっと追っていきたい。 (link, 解説)
市場参加者にとって第一の道徳的要請は、市場の失敗を引き起こす状況に乗じる行為を控えることだ。市場は通常、利己的な行動を広く認めているが、それは、 経済価値 の創出を伴うような方法で(また、たとえば単にコストを別のものに置き換えたりせずに)、個人がそれぞれの利益を増やすはずだという理解に基づいてのことだ。この目標の推進を中心としてすべての制度的取り決めが作られるという意味で、これは市場の暗黙的道徳性と言える。
📻観た/聴いた
使い捨て電子タバコから自宅電気をまかなう:500個の捨てられたベイプからバッテリーを取り出し、スタックして自宅のインバーターに繋ぐ。最後電気がつくシーン(動画18分あたり)で無題に感動してしまった。これぞDIY精神。
航空写真家トビー・ハリマン:アラスカを拠点に、都市や海岸線などをテーマに「普通の人が見たことのない画角」から世界を撮影。かっこえぇ。
🧩感じた/感じている
「山、高きが故に尊からず、樹あるを以って尊しとなす。人、肥えたるが故に尊からず、智あるをもって尊しとなす」牧野フライス従業員が持つ『工作機械に賭ける』という小冊子冒頭の言葉、由来は実語教だという。背筋が伸びる。この言葉を引用した、ニデックによる牧野フライスTOBについて記したブログが本物の文章だった。
山は高いから立派なわけではない。樹がしっかり育っている山が立派。
金持ちだから立派なわけではない。智恵のある人が立派な人新年会の予定がだんだん入ってきた。年を重ねるにつれ、季節に応じて開催される飲みイベントがどんどん待ち遠しくなっていく。いつか最後の牙城、花見を愛する日も訪れるんだろうか。
🍵関心事
3冊目書籍『仕事がデキる人の質問のキホン』がようやく発売。たくさん売れて、紙に重版がかかるといいなぁ。
福岡のTHE CLUBHOUSEをいつ覗きに行くか。
🥑活動報告
神戸の地銀・みなと銀行と融資相談を開始。地域に根を張った商売をするなら、地域のお金をお借りするのがいい。まずBSを大きくして、商売がんばります。
クライアント企業のスタッフ向けに『エキスパートインタビュー調査研修』の準備を進めているのですが、内容を文字にするにつれ思考が深まっていく感覚があり、”書くことは考えること”を改めて実感します。
12/7-12/12で東京出張です。
📩頂いたコメント
生成AI使ってますか?活用方法などあれば教えてください (TOさん)
たっぷり使っています。
<お便りをお待ちしています>



