座布団、山之口貘
土の上には床がある 床の上には畳がある 畳の上にあるのが座浦団で その上にあるのが楽という 楽の上にはなんにもないのであろうか どうぞおしきなさいとすすめられて 楽に坐ったさびしさよ 土の世界をはるかにみおろしているように 住み馴れぬ世界がさびしいよ
作者紹介:山之口貘(1903–1963、本名は山口重三郎)は沖縄県那覇市生まれの詩人。1924年に上京し、職を転々としながら、貧困、借金、家族、沖縄人としての疎外などを題材に詩を書く。深刻な境遇を自己憐憫ではなく飄々としたユーモアと話し言葉に変える作風で知られる。代表作に「生活の柄」「妹へおくる手紙」「会話」など。1958年の『定本 山之口貘詩集』で高村光太郎賞を受賞。
詩の紹介:第一詩集『思辨の苑』(1938年)に収録。1935年に発表されている。
『遥かなる山に向かって――日系アメリカ人二世たちの第二次世界大戦』を読んでいる。真珠湾攻撃直後、カリフォルニアやアリゾナなど米西海岸地域に住んでいた日系一世・二世の人は尽く「集住センター」や収容所に送られた。家や車などを二束三文で売り払って移動した先の生活は、1日の食費が50セント、トイレに仕切りはない環境だったという。二世の若者は生まれも育ちも米国で市民権を持ちながら、日本の血が流れるが故に敵性外国人と呼ばれ、恥を晴らそうと米軍に志願するも多くが欧州の戦地で命を落とすことになった。
私たちの生活の根っこには、いろんな人の血と汗と涙がある。さて、いま感じている快適さに対する違和感を、私たちはどれほど持っているだろうか。「年収○○万円稼いでいるんだからこの生活が出来ているのは当たり前」と言う人はあまりに勉強不足だ。
山之口貘の本作。座布団が象徴するのは、歓迎、安定、くつろぎである。私たちが日々目指すものだ。顧客のくつろぎのために仕事をし、そこで得た糧で家庭の安定を獲得して、知人・友人を歓迎することで喜びを広げる。人間の日々だ。
しかし私たちは、楽に至って初めて、自らがその住人でないことに気づくことがある。いい会社なんだけどどうにも居心地が悪い。高いレストランに行くことが増えたけど、どうにも下が馴染まない。徐々に身の程を、自分自身の幸福の形を理解し始める。たとえそこが驕奢で安寧の知であっても、馴染まないところならば、残るのは寂しさである。
参考:山之口貘詩集



