こーべ通信:よっしゃ、贅沢するか。
2026年もよろしくお願いします。
1年の読書記録を『2025年 今年の29冊』にまとめました。どれも良い本なのでぜひ手に取ってみてください。
1冊目にあげた”肩をすくめるアトラス”は強く心に残る一冊でした。「世界の原動力となっている理性・知性の持ち主たちがストライキを起こしたらどうなるか?」思考実験をそのまま形にした80年前の小説。アトラス:ギリシャ神話で天を支える巨人、この小説の中では社会を支える有能な経営者や思想家の象徴です。そんな彼らが能力の発揮を拒否(:肩をすくめる)した世界でおきる惨劇が文庫本1,800頁(!?)分描かれています。ほんまにこの本が米国で900万部も売れたの?? トマ・ピケティ”21世紀の資本論”みたいなこと??
作中、”非アトラス”が大量に登場し、だるい発言や行動を繰り返します。「それは私の仕事じゃない。君がなんとかすべきだ!」「論理的に反論は出来ないけれど私の感情がNoと言っている!」「事実は人間の数だけある。科学や論理は虚構」「有能なあなたは慈悲の心を持つべき(つまり私を助けるべき)」著者アイン・ランドは彼らを”たかり屋””略奪者”と表現します。お金だけではなく、アトラスの精神にたかり、有能さを略奪する。
たかり屋の代表格、主人公兄の鉄道会社社長は「私たちは現実に対処すべき」が口癖です。ワシントンの政治家に阿り、決断は全て妹に丸投げ。本業より補助金で稼ぎ(それを誇りにし)、自らの劣等感を癒やしてくれる人を妻に迎え、それら全てを『人間感情や能力という”現実”に対処する行為』と嘯く。だるいを超えてきもいです。いよいよ米国経済すべてが崩壊するというときに、彼が主人公に叫ぶ言葉があります。
こういう時期に、考える贅沢は許されないんだ! (第三部 AはAである)
アイン・ランドがこの作品を描いた背景には、母国・ソ連における富裕層略奪や集団主義教育への嫌悪感、さらには移住先の米国で広がる社会主義的傾向やニューディール政策礼賛への危機感がありました。彼女は米ソ対立を国家間の争いではなく「理知と能力を尊ぶ思想」と「無能と犠牲を尊ぶ思想」の最終決戦だと捉えていました。この戦いはどうなったのか。勝ったのか、負けたのか。終わったのか、いまも続いているのか。
彼女がこの作品を引き行った講演(本紹介にあるエッセイ)で、信じる倫理について話しています。考えることはこの倫理を支える前提です。
自分のあらゆる確信、価値、目的、願望、行為を、自分の能力の及ぶ限り正確で周到な、そして自分の能力の及ぶ限り冷徹に論理を適用した思考によって、根拠づけ、導き出し、選択し、検証しなければならないという原則にコミットすることです。
自分自身の判断を形成する責任、そして自分自身の思考によって生きる責任を引き受けることです(これが自立という美徳です)。
自分の確信を、他人の意見や気まぐれの犠牲にしてはならないということです(これが 一貫性/誠実さという美徳です)。
どんなやりかたであれ、決して現実を偽造しようとしてはならないということです(これが正直という美徳です)。
物質的にであれ精神的にであれ、自分が稼ぎ出していないもの、値しないものを得ようとしてはならないし、相手が稼ぎ出していないもの、値しないものを与えてもならないということです(これが正義という美徳です)。 (kindle no.666)
2026年、新年一発目からこんな文章を読んでくださる皆さま、ありがとうございます。お会いしたことがない方がほとんどですが、たぶん皆さんはアトラスでしょう。今年も一緒に贅沢しましょう。考える贅沢を堪能し、美徳を体現して、充実した1年を過ごされますよう。
<お便りをお待ちしています>
💼心惹かれたもの
Factorio:年末にSwitch2販売抽選に当選、我が家にもゲーム機がやってきました。妻とは桃鉄を、1人では世界工業化を楽しんでいます。世界工業化、楽しくて延々やってしまってしっかり寝不足。このゲーム、サプライチェーンマネジメントの教材として最高では。オペレーションをオーバークックで、SCMをFactorioで学ぶおっさんです。 (link)
Meadow:機能をぐっと絞り込んだスマホ。元端末と同じ電話番号で機能する魅力。冒頭の問題意識メッセージがシャープで好きです。リアルの世界でMake it happenする2026年にしよう。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
ケヴィン・ケリー『”あり得ない”を尊ぼう』:私たちが享受する秩序や善は、宇宙の法則に逆らって積み上げられた奇跡・統計的異常値である。例えばWikipedia。2000年当時、「誰でも編集できる百科事典が世界最高のものになる」と言えば、不可能だと笑われたはずである。次の20〜30年で起こる最も重要な発明や社会変化も、現在の常識では不可能・バカげているように見えるはずだ。予測不能でユニークな、ありそうもないことを考え実行しよう。確率の低さを理由に可能性を否定してはいけない。 (Kevin Kelly, link)
事業をするとは「現実との接点を持つこと」:「良いサービスなら、放っておいても客は来る」そんな甘いエンジニア的思考を持っていた著者は、母親の整理整頓ビジネスを手伝うことで商売の現実を知ることになる。「目立つ購入ボタンなんてダサい」と思っていても、実際につけると売上が爆増する。安く済ませようとした広告運用で、結局は大金をドブに捨てることになった。事業の本質は複雑さではなく、泥臭い行動の積み重ねにある。机上で考えがちな全ての人に。 (FRIED KIELBASA, link)
私たちは気候レジリエンスに”投資”すべき:ほとんどの人は気候変動そのものより、災害による保険料高騰やインフレといった経済的痛みに関心があり、多くの政府が推進する脱炭素エネルギー増進だけでは問題は解決しない。超高断熱素材を用いてエネルギー需要自体を減らす、熱波や洪水対策を都市設計に実装するなどのほうが即効性があり現実的でもある。核融合や宇宙太陽光発電に期待するのもいいけれど、泥臭い施策もやっていこう。 (NOEMA, link)
カルト化するセラピー奨励:多くのインフルエンサーが心の不調を”個人の問題”として語り、高額セラピーを推奨するPR動画を公開している。しかし、私たちが抱える孤独や不安の正体は個人の内面の問題ではなく、実は「友達と飲みに行かなくなったこと」や「経済的な将来不安」にあるのかもしれない。もっと稼ぐこと、友人と飲みに行く心身の余裕。内省ばかりを促す”セラピー・カルト”から抜け出し、外に出て、リスクを取り、他人と関わること2026年にしよう。 (No Mercy No Malice, link)
犬が人間関係の代用品になりつつある:現代人は複雑な人間関係よりも、無条件に愛してくれる犬を選ぶ傾向にある。飼い主の58%が「ストレス時は人より犬がいい」と回答。多くの人がパートナーよりペットを優先し「人間=ペットの親」化が進む現代。犬との関係は心地よいが、裏切らない相手への依存は複雑な人間関係から逃げる社会的孤立の象徴的現象なのかもしれない。 (The Walrus, link)
ゼロサム思考が米国政治を分断する:ゼロサム思考が強い人ほど、政府による富の再分配や積極的差別是正を支持し、移民に対しては制限的な政策を好む。この思考パターンは祖先から継承されており、祖先が奴隷制などの搾取を経験した人はゼロサム思考が強くなる傾向。そして、リベラルは「富裕層が得すると貧困層が損する」と考え、保守は「移民が得すると国民が損する」と考える傾向にある。双方が異なる領域で”パイの奪い合い”を見ているため、対話が成立しないのだ。 (Social Economics Lab, link)
米国右派が”人種集団主義”に回帰:政治家やインフルエンサーは、支持を集めるために「あなたに特定の集団を憎ませる」必要がある。左右両派がアイデンティティ政治に依存し、相手を悪魔化することで求心力を維持している。かつて「肌の色ではなく人格で判断せよ」というキング牧師の言葉を引用していた人々が、今では「出身国が地獄ならそこから来る移民もゴミだ」と叫ぶ。個人主義が崩壊し、集団で人間を裁く”人種的集団主義”が復活しつつある。私たちは個人としての理性や倫理感に立ち返るべきだ。 (Noah Opinion, link)
メタモダニズムとは何か:それ本気?それともネタ?その両方だよ、と答えるのがメタモダニズムの思想。進歩信仰や客観的真理を重んじるモダニズムと、皮肉、相対主義、脱構築を体現するポストモダニズムの間を行き来し、両者の洞察を同時に保持する考え方をいう。希望と絶望、誠実さと皮肉、構築と批判の間に漂い、複雑な現実をそのまま抱きしめよう。皮肉と本音を同時に携えよう。 (Technological Metamodernism, link)
摩擦を選ぼう:AIが約束する「摩擦のない世界」は本当に幸せだろうか?便利さが人間の思考力や他者との繋がりを奪ってしまうことはないだろうか。芸術の価値は過程にありコミュニティの価値は非効率な手間にある。そして摩擦が生み出す困難が成長や意味を生む。面倒で思い通りにならない他者と関わり、妥協し、協力することこそが民主主義やコミュニティの本質である。考えることをアウトソースするな。人間らしくあるために、最大限の抵抗をしよう。 (The Roof is on Phire, link)
📙本
水源:分厚い二段組み小説。登場人物の多様さが素晴らしい。しかし、肩をすくめるアトラス(+↓エッセイ)を読んでいるならこちらは別に…という感じも。一気読みよりじっくり読みで付き合います。 (Amazon, link)
SELFISHNESS:原題”The Virtue of Selfishness (利己主義の美徳)”で、肩をすくめるアトラス/水源の著者であるアイン・ランドのエッセイ集。こらスタートアップ経営者に刺さるわ。「自分の幸福の実現が人間にとって最高の道徳的目的」「人が行動するときには常に自分自身がその行動の受益者でなくてはならず、自分自身の合理的自己利益のために行動しなくてはならない」噛みしめるほど味が出る良い本。 (Amazon, link)
人間にとっての善は、誰の犠牲も要求せず、誰のためのどんな犠牲によっても実現できない、というものです。自分が正当に獲得したもの以外を望まず、自分を犠牲にせず、他人を犠牲にせず、お互いの取引によって価値を交換する限り、利害の衝突は起こらない、つまり合理的な人間の利害は衝突しないというものです。 (Kindle no.810)
小説 上杉鷹山:米澤の名君と名高い鷹山公を主人公に描く歴史小説。駆逐される家臣やその子どもたちが、アイン・ランドの描く街場の人たちと重なる。中盤に登場する質屋の主人、鷹山公の政治改革には賛同しつつもしっかり商売をさせてもらいます、と言う描き方で、これぞという人物だった。わたしもそうありたい。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
Drone Photo Award 2025:大賞はイランの砂漠に浮かぶ船。どの作品も魅力的。 (link)
こたけ正義感『弁論』:冒頭しっかり弁護士ネタを振って、中盤〜後半は生活保護・「いのちのとりで裁判」についてアツく語り、最後しっかり笑いで締める。年末の風物詩として続いてほしい。ので、お布施としてグッズを買いました。来年はリアル参加するぞ。いやぁ、厚労省は本当に大変すな…
🧩感じた/感じている
「手段の目的化」を警告する文章は苦手なのですが(その目的もより上位の目的の手段であり、目的を延々辿った先にあるのは無のみ)、いいブログシリーズでした。『おい、冷笑すんな』と『おい、対話しろ』が好き。> 『おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、』
テニスの新シーズンが始まった。将棋は順位戦がいよいよ佳境。全勝の永瀬先生に1敗の糸谷先生が先手で挑む8回戦(1/27予定)が勝負所か。
🍵関心事
人生初の人間ドック、いつ行くか。2月上旬を狙う。
ソーシャルメディアで見かけたお金儲けの切り口をどう受けとめるか。確かに、と思うものが多い。正しく使うか悪用するかに倫理感が出る。
女性に美しさを売る。男性に欲望を売る
親に平和を売る。子供に夢を売る
金持ちに安全を売る。貧乏人に希望を売る
老人に若さを売る。若者に地位を売る
孤独な人に帰属感を売る。病人に奇跡を売る。健康な人に恐怖を売る
賢い人に近道を売る。愚かな人に承認を売る
信仰心の強い人に確信を売る。信仰心のない人に反逆を売る
あらゆる人に時間を売る
🥑活動報告
年末年始は「振り返り40問」を使って棚卸しをしました。書き出してみると思い出すこと、考えることがあり、自然と大事なことに記載が寄っていきます。皆さんもやってみてね。
今年有料購読者100名めざします。月々コーヒー1杯、みなさま、お願いします。
<お便りをお待ちしています>




