こーべ通信:よっしゃ、スローガンを選び直すか。
「心地よい虚構の終わりと、厳しい現実の始まり」
加・カーニー首相のダボス会議スピーチを聴いた。自分勝手な超大国を隣に抱える中堅国が抱える苦難と世界へのメッセージがぎゅっと込められていて、同じく世界情勢に翻弄される小国の民として心にくるものがあった。これまでの”ルールに基づく国際秩序”が崩壊したことを認め、大国が自分たちの都合でルールを破り続ける”力による支配”が常態化することを前提に行動を決めること。主権、領土保全、人権といった根本的価値には妥協しないことを原則としながらも、同時に「すべての国がこの原則を共有しているわけではない」現実を受けとめ意志決定をする”価値感基点のリアリズム(Value-based Realism)”は納得感のあるものだった。中堅国よ、現実と戦うために団結しよう、と呼びかける誠実な語り口。人物がみえる。
チェコの劇作家で後の大統領、ヴァーツラフ・ハヴェルの言葉を引用している。共産党政権に抗議活動を続け、幾度となく逮捕・投獄されるも1989年のビロード革命とその後の民主化を主導した彼が書いたエッセイ、”The Power of the Powerless (力なきものたちの力)”。「無力な一市民であったとしても、本心で信じていないルールや儀礼に従い続けることで、現状の歪んだシステムを維持する原因になり下がる」ことを語り、市井の抵抗を訴えた。
ヴァーツラ・ハヴェルは、『力なきものたちの力』の中でシンプルな問いを投げかけました。「共産主義体制はいかにして維持されているのか?」と。
彼の答えは、ある八百屋の話から始まります。
その店の主人は毎朝、店の窓に「万国の労働者よ、団結せよ!」というスローガンを掲げます。彼はその言葉を信じていません。誰も信じてなどいません。
しかし、トラブルを避け、従順であることを示し、波風を立てずに過ごすために、とにかくそのスローガンを店頭に掲げるのです。そして、あらゆる通りのあらゆる店主が同じことをするため、体制は存続します。暴力だけによってではなく、普通の人々が、内心では偽りだと分かっている儀式に参加することによって維持されるのです。ハヴェルはこれを「嘘の中で生きること、嘘の生」と呼びました。システムの力、制度の力は、それが真実だからではなく、皆があたかも真実であるかのように振る舞うことを受け入れていることから生まれるのです。
しかし、システムの脆さもまた、同じところにあります。たった一人が演じることをやめたとき、あの八百屋がスローガンを下ろしたとき、幻想は崩れ始めるのです。友人の皆さん、企業も国も、今こそその”スローガン”を下ろすべき時です。
これは国家の話だけれど、家族で、会社で、あるいは地元コミュニティで、私たちは嘘の生を続けてはいないだろうか。信じていないお題目の下で進むプロジェクト、模試偏差値を上げる以外意味のない教育塾、雰囲気先行で議論される減税施策。私たちは現実を見据えられているのだろうか。幻想でスローガンを選んではいないだろうか。
独立前のサラリーマン時代、この”嘘の中で生きること”がたまらなく嫌だった。既に社長が上場を諦めているのに自社紹介で「スタートアップです!」と言うこと、パートナー企業都合の劣化UXをさも最高のもののように扱うこと、追っているのは数字なのに「社会を変える!」と嘯く投資家とともにメディア露出すること。私は弱く、嘘の生の中にいた。すべてを放り投げ独立し、自らのスローガンを自らの口で語るようになった。おかしな幻想にはまっすぐ”それ、おかしいですよ”と伝えている。顧客の新規事業に関わることが多いのだけれど、新しくはじめたことよりもやめてもらったことの方が多い。何事もまず、会社や組織の手垢がついた嘘のスローガンをを下ろすことからはじめる。塩抜きなしでは新しい味は入っていかないのだ。

日本に生きる私たちは、他の誰かを気にすることなく、自らの信念に則って掲げる看板を選ぶことができる。一度に選べる看板の数は有限だ。信じていない幻想を堂々と掲げる余裕はない。今日この日、自分の顔や行動にどんな看板が掛かっているか、眺めてみても良いかもしれない。
お便りをお待ちしています。
🥑素敵
ケンゾーエステート 紫 murasaki:偉い人のご相伴にあずかりめちゃ高ワインを頂きました。とにかくおいしかったです。 link
✏️読
AIによる時間節約の約40%が”手戻り”に消えている:Workdayの調査によれば、従業員の85%がAIツールによって週に1〜7時間の節約に成功している一方、節約時間の約40%がAIの低品質なアウトプットの修正や検証に費やされている。その負担を引き受けているのが最も技術に手慣れた若い世代である。残った余剰時間もスキルアップなどではなく単純な業務量増加に繋がってしまっており、本質的な新かつ創出に繋がっているとは良い難い状況。AIから真の成果を得ている企業は、節約した時間をより深い顧客・市場分析や戦略的思考などの高付加価値な業務やスキル訓練に再投資している。 link
投資家がみたCES2026:溢れるヒューマノイドロボットの展示。実用化が見える中古EVバッテリーの再利用モデル。商用化が期待される透明ディスプレイ。華やかなデモは多くあったものの、Wifiが切れたり想定外の使われ方をしたときに起きる小さな摩擦がたくさんあったという。Rebuild.fm直近回と合わせて楽しみました。 link
学費をビニール袋で支払うインド北東部の学校:インド・アッサム州の学校、アクシャー・フォーラムは、現金の代わりに家庭から集めたプラスチックごみを授業料として受け取り、それを建築資材「エコ・ブリック」に加工し地域に販売。この地域の親たちは、子供を学校に行かせるよりも石切り場で働かせて日銭を稼がせることを優先していたが、この”学びながら稼ぐ(Learning and Earning)”プログラム導入により、通学率の向上と同時に地域の環境意識改善にも繋がっている。今後60以上の学校に展開される予定。 link
日本という資本主義衰退の最終形:公開2週間、Substackで1万Like近くを集めている。少子高齢化と経済停滞に苦しむ現在の日本の姿は、特殊な個別事例ではなく、「資本主義が成熟し限界に達したあらゆる国が辿る未来」だという。公共の場や地域コミュニティが消失し、人々は仕事と家庭、あるいはネットの孤立した空間に閉じ込められている。マクロ経済の悪化や膨大な債務にもかかわらず、日常生活が安価・安全で便利に保たれていることが、深刻な危機感を麻痺させている。この見かけ上の安定こそが、末期資本主義がもたらす究極の停滞の形である。 link
世界最小のプログラム可能自律ロボット:自力で周囲の状況を感知して反応し、何ヶ月も稼働し、1台あたりわずか1セントという超小型の水泳マシン。約200×300×50マイクロメートルと、塩粒よりも小さい。個々の細胞の健康状態を監視する医療分野や、ミクロなデバイスを組み立てる製造分野での活躍が期待されている。 link
「自らクローン種子を作るハイブリッド米」開発に成功した中国:従来のハイブリッド米は、2代目以降は収穫量や品質が劇的に低下するため、農家は毎年高価な種子を購入し続ける必要があった。中国国家水稲研究所により新たに開発されたFix8シリーズは、種子が親の遺伝子を100%引き継ぐクローンとして形成されるため、農家自身で種を保存し、翌年も同じ高収穫を得ることが可能になる。クローン効率は99.7%以上。世界全体で米の生産量を倍増させ、特に途上国の食料不安を解消する農業の聖杯となるかもと期待されている。 link
2026年、26のアイデア:ジャーナリストのデレク・トンプソンが文化、テクノロジーなど多角視点から語る今年の予測。アルコールから大麻へと嗜好の中心が移り、パーティに費やす時間は年々減少している。”未来は暑く、高く、そして孤独なものになる”と。何より印象的だったのは下のグラフで、EU全体よりもナイジェリア一国の方が生まれている子どもの数が多いこと。この傾向が逆転する日は来るのだろうか。 link
知恵は努力の産物:ベストセラー作家でありストア哲学論客としても知られるライアン・ホリデイが新著”Wisdom Takes Work”に関して受けたインタビュー。セネカの「偶然に賢くなる者はいない」という言葉を引用しつつ、知恵は名詞・所有物ではなく動詞・行動として捉えるべきものだという。知恵とは筋肉のように鍛え、維持し続けなければならない労働の産物である。少し違う切り口の記事『適切な努力量=ゼロ』も良い内容でした。 link
喜びを広げる7技法:皆さんが正月に立てた新年の抱負、まだ残っていますか?より根っこに近い部分で、生活に本質的な潤いを与えることを考えてみてはどうでしょう。友人に手触り感のある贈り物をすること、手書きカードや何でもない日にメッセージをするなどパーソナル感を追求すること、自宅をコミュニティに開放すること。最高の贅沢は非効率さの中にあります。 link
📙本
大地(三):軍閥としてのし上がった王虎、子育てが全然うまくいかないことにモヤモヤしていてかわいい。「このキャラ大事になりそう!」予感があった人物がサクッと死んだり、翻弄される読書体験。どんどん面白くなるんだけど、ここからどう週末に向かっていくんだろう。 link
「普通」につけるくすり:嫌われる勇気、幸せになる勇気などで有名な岸見一郎先生が昨年出された新著。前著の中にもあった『特別であるために無能を装ったり反抗したりする子どもや大人』をテーマに、いかにそれが本人にとって哀しい姿勢か、抜け出した先に何が待っているのかを丁寧に語っている。レビューを見たら一部酷評があり、そのレビュワーは東浩紀を「最高の知識人」と評していた。そっか。 link
📻観&聴
「不誠実な論者」4つの典型像@Youtube:いかなる優れた形式も、健全な議論を保証しない。↓のような人が出てくると場が一気に悪くなるの、わかる〜。>Dodger(逃げる人)、Twister(ねじ曲げる人)、Wrangler(口げんかする人)、Liar(ウソをつく人) link
サンパウロ”Hybrid Habitat”:緑の様子が大変いい。メンテナンスが大変そうだなぁと思うけれど、それを含めて生活なんだと真実を教えてくれる住居。面倒くさいことを排除した家には面白みもなくなっちゃうしね。 link
🧩感
福間香奈女流六冠の棋士編入試験第1局、結果は残念でした。それでもまだ始まったばかり。第2局以降に機体を載せて。
冒頭文章で引用したハヴェル「力なき者たちの力」を読み、力強く豊穣な思想と言葉に感動した。不条理演劇の作家として、どこまでも言葉に拘り続けた人物像がみえる。ポッドキャスト課題本として読んだ山本七平・空気の研究とも通じるものがある。
「嘘の生」が引き起こした人間のアイデンティティの深刻な危機、そのような生を可能にする危機には倫理的なレベルがある。それは、とりわけ、社会の倫理面での深却な危機として現れる。清費の価値体系にとりつかれた人間、大衆文化の混合物の中にアイデンティティが「融け」、自分が生き残ることしか考えず、高次の責任を意識せず、存在の秩序に根ざしていない人間は、堕落した人間である。体制は人びとのそのような堕落を拠り所にし、それを強めるが、その堕落こそ社会を投影するものとなる。 (p.44)
🍵関心
最終学歴って「最も深くまでいったやつ」or「最近のやつ」どちらを言うのだろう。感覚は前者で字面は後者っぽい。私に当てはめると前者なら経済学修士で後者だと心理学学士。結構違うぞ。
冬の寒さがいつゆるむか。予定している工事、一定暖かくないと実行不可で、かつ施工業者が限られているばかりに、厳冬が続くといろんな予定が後ろ倒しになる。コントロールできることは全力でがんばるけれど、天候はどうしようもない。
💼仕事
地場銀行に借入申込書を正式送付。固定金利165bpで期間7年。キャッシュの厚みを速度に変えるぞ。
神戸のデザイン工房・Creative 17さんに依頼して、スポンサー選手がウェアに付けるワッペンをつくりました。今月のスリランカ遠征から着用予定。
お便りをお待ちしています。




