こーべ通信:わたしは禁煙アドバイザー🤐
The good physician treats the disease; the great physician treats the patient who has the disease.(良い医者は病気を治す。偉大な医者は病気を持つ人間自身を癒やす)
— William Osler
「コンサルタントは企業のお医者さんだ」という比喩を聞くことがある。本当だろうか。受け入れるなら、クライアント企業は患者ということになる。患者は診断を待ち、手術を受け、処方箋をもらう。受け身な存在である(私が育った奥信濃では特に)。医療スタートアップにいて実感したことでもあるけれど、田舎では、あらゆる患者が医師の言葉を絶対として治療を進める。飲めと言われた薬を飲み、来いと言われた頻度でクリニックを訪れる。患者の健康は医師のものである。さて同様に、コンサルタントが医者の役割を演じれば演じるほど、クライアントは自ら考え実行する力を少しずつ手放していくことにならないだろうか。
イヴァン・イリイチは著書著書『脱病院化社会――医療の限界』で、医療体制そのものが健康に対する主要な脅威となっている、と書いた。医療ミスや薬の副作用ということに限らず、本来人間が持っている自活力を医療体制が減衰させてしまうからだ。
社会的医原病 (Social Iatrogenesis):医療専門家が病気の定義を広げ、市井の人々を患者に仕立て上げることで、健康管理を医療産業に委ねる構造をつくってしまう
文化的医原病 (Cultural Iatrogenesis): 人間が本来持っていた、痛み、苦しみ、老化、死を耐え、乗り越える能力や文化的な感覚が、医療技術に依存することで失われてしまう。人生のあらゆる瞬間が医療ケアの対象となり、自律的な生活能力が奪われてしまう
医療の技術的進化・深化は素晴らしい。しかしシステムが高度化したがゆえ、個々人はだんだんと自らの健康を判断できなくなる。医者に診てもらわないと健康かどうか分からない。処方箋がないと不安になる。果たしてこれは健康な社会と言えるのだろうか。そしてこれは、自らを企業のお医者さんと評するコンサルティング業界が一大産業となる中で、「経営の収奪」を引き起こしている構造に近いのではなかろうか。(『会社という迷宮 経営者の眠れぬ夜のために』の冒頭をぜひ読もう)
哲学者ハン・ビョンチョルは、現代社会は「できる」が支配する能力社会だと言う。もっとやれ、まだできる、可能性は無限だ。そういう肯定的な言葉ばかりが溢れている。でも同時に「やめろ」と言う(いってくれる)人がいなくなった社会でもある。企業の中でも同じだ。何をやるべきかは語られるが、何をやめるべきかはあまり語られない。やることばかりが膨れ上がった会社に蔓延するのは充実よりも疲労感・徒労感である。
私がコンサルタントとしてやっている仕事は、医師とはほど遠い。せいぜい禁煙アドバイザーである。薬に頼ることはしない。本人がタバコなしの生活に慣れ、規律を取りもどすことにとことん付き合うのが本業である。「なぜそれを続けているのか」「何がやめられなくさせているのか」「本当にそれでいいのか」。専門性のへったくれもない、ただの口うるさいお節介おじさんである(注:禁煙外来の医師はド級の専門家です)。やるべきことを示すより、やめる背中を押すこと。あるいは諭すこと。やるべきを伝えるならそれ以上のやめることも併せて提言すること。私は否定性のフロントランナーである。
皮肉な逆説である。私のようなタイプのコンサルタントは、成功すればするほど自分の仕事を消していくことになる。規律を取り戻した組織は、もうアドバイザーを必要としない。禁煙に成功した人が禁煙外来に通い続けないのと同じだ。つまり、良いコンサルタントのビジネスモデルは構造的に自殺的である。しかしあらゆる虚業のビジネスモデルは自殺的でなくてはならないはずだ。肯定の夢はいつか現実になるべきであり、夢は終わらなくてはいけないのだから。
お便りをお待ちしています。
💌お便り
当方もコロナ禍中にこさえた国庫デットガチ返済勢です。早く負債ゼロになりたーい!
そうだ、国金の借入も残ったままでした。「レバレッジは正義」と教え込まれた会計弱者なので負債ゼロが見えてきたら追加融資の申し込みをしてしまいそうです。アクセル踏むぞ。『42歳からのフルローン。2カ月で決めた中古マンション』いい記事でした。
はじめて投函するサイレント購読者です。
今週の一旦負けようのエッセイが沁みたのでサンキューレター兼ねて送る次第です
年齢に限らず、そのかんがえかた気づかされました
嬉しいお便りです。これからもがんばります。サンキューレターっていい文化ですね。私もいろんな人に書き届けていこう。
🥑素敵
Nikke 音声ファイル文字起こし:手軽ではやい。いまは要約精度や共有の仕組みを魅力と感じてyomelを使っているのですがそこそこお高いので、手元で業務プロセスが整理でき次第こちらを中心に活用していこうかなと思っています。サービスの継続性を考えるとローカル実行を大前提にしないといけない。 link
カプリチョーザ:久しぶりに食べに行ったのですが激うまでした。なめたらあかん。チェーン店だと侮ってはいけない。あなたはカプリチョーザに行くべきだ。
✏️読
米国建設業、40年停滞の構造的謎 : 1964年から2004年の40年間、米国建設業の生産性は年0.59%ずつ下がり続けた。製造業やITが劇的な効率化を遂げる裏側で、住宅1平方フィートの施工時間は1993年からほぼ不変。個々の工程を見れば改善はあるはずなのに全体の数字は一向に上向かない。タスク単位の効率化がシステムに波及しない構造的断絶。しかもこの病は米国固有ではなく先進国に共通している。なぜ建設だけが、進歩から取り残されるのか。 link
電力脱炭素、ボトルネックは送電網・系統接続 : 2025年、再エネ発電量が石炭にほぼ並んだことが大きく報じられた(特に欧州で顕著)。IEA最新レポートの見通しでは2030年までに再エネと原子力で世界の電力の半分を賄えるといわれている。ところが需要が過去10年の1.5倍のペースで膨れ上がるためになかなか脱炭素が進まない。最大の駆動力はデータセンター、米国の電力需要増の約半分をAIが飲み込む計算になる。クリーン電源は増えても、ボトルネックが発電から送電に移っただけで問題は解決していない。現に2,500GW超のデータセンタープロジェクトがグリッド接続待ちで渋滞中。 link
太陽を瓶詰めするDNA由来の分子 : DNAが紫外線で構造変化する——この生体反応を模倣した合成分子が、太陽エネルギー貯蔵の新しい技術アプローチに繋がるかもしれない。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームが開発したピリミドン分子のエネルギー密度は1.6MJ/kgと、リチウムイオン電池の約2倍にあたる。水に溶け、最長3年間保存でき、酸触媒を加えれば0.5秒で水を沸騰させる熱を放出する。バネのように光で歪み、トリガーで戻る。バッテリーでも燃料電池でもない第三の貯蔵手段となるかもと期待を集めている。屋根の集熱器で温めた液体を循環させ、夜間に熱を取り出す構想は、太陽光の「時間差利用」に新しい回路を開く。実用化は先でも、原理の筋はよさそうにみえる。 link
中国CO2、21ヶ月連続減の真相 : 中国のCO2排出量が21ヶ月連続で横ばいか減少している。2025年通年では前年比0.3%減。ここで重要なのは、エネルギー需要は伸びているという事実だ。需要増と排出減の同時進行は、中国史上初めてのこと。背景には太陽光発電の前年比43%増という爆発的な伸びがあり、石炭火力の発電量は1.9%縮小した。ただし化学産業の排出は12%増えており、セクター間のばらつきは大きい。Carbon Briefの分析が突きつける問いはシンプルやけど答えにくい。このモメンタムは構造転換の証拠なのか、それとも景気減速の副産物なのか。 link
タバコ増税が闇市場と暴力を呼ぶ : 1箱55豪ドル。ニューヨークの倍である(日本に比べたらそれでも倍以上する)。オーストラリアは10年で8回のタバコ税増税を重ね、喫煙率を下げることに成功してきた。代償として、国内タバコ販売の半分を闇市場がになっていると推計されている。違法品は1箱わずか10豪ドルと正規品の1/4。この価格差が暴力2も繋がっている。メルボルンでは250件超の事件が記録され、2025年1月には無関係の女性が死亡する事件にも発展。政府は増税路線を崩さず、取り締まり強化で応じる。しかし場当たり的なもぐらたたきとの批判は根強い。規制が根本的な行動変容ではなく市場の地下化を促しただけのとき、その政策はまだ成功と呼べるのか。 link
債務230%の日本は炭鉱のカナリア : TOPIXは2023年以降ほぼ100%上昇し、S&P500の80%を凌ぐ。だが日本が抱えるGDP比230%超の債務問題は消えていない。高市政権の財政拡張が秩序あるリフレに着地するか、無秩序な崩壊を招くか。焦点は日銀が保有する1.2兆ドル超の米国債だ。日本の金利が上がり、この巨額資金が本国へ逆流すれば、米欧の債券市場が震撼する。財政赤字を常態化させた先進国にとって、日本は炭鉱のカナリアに見なされつつある。秩序と崩壊の境界線は、どこにあるのか。 link
GLP-1薬が消した「無意識の間食」 : 米国世帯の1/5に少なくとも1人の減量薬・GLP-1薬利用者がいる。スナック菓子の売上は約10%減、デザート消費にいたっては84%減である。決算説明会でGLP-1に言及する食品企業は2年前の5社から36社に急増し、ペプシコは甘さ屋カロリーに頼らない成分改良ブランドを強化するなど消費者変化への対応を続けている。一時的な食欲抑制にとどまらず、嗜好品メーカーを支えてきた無意識の間食習慣そのものが書き換えられている。食品産業が半世紀かけて育ててきた衝動的需要の土台が崩れるとき、何が残り、新たしくなにが生まれるだろう。 link
そのブランドは客人として適切か : デジタル空間をAIが埋め、SNSでは本音が言いにくくなったいま、本物の会話はアルゴリズムの世界を離れ、グループチャットやニッチ空間、そして対面パーティで行われるものとなっている。Facebookのオーガニックリーチが2%を割り込むなか、指標で測れない親密な空間が影響力を取りもどしている。マーケティングをなんとかしたいブランドはどうにかして参加権を得ようとしているが、高級ブランドを含めた大半が『次のトレンディなパーティを嗅ぎまわるクラッシャー』として振る舞い、不誠実さを一瞬で見破られる始末。文化はバナー広告で築かれるものではない。良き客人として招かれ、誠実な振る舞いと会話の上で信頼とともに醸されるものであるはずだ。ダッシュボードを捨てて食卓につけるかどうか——それがブランドの文化的生存を分ける問いになりつつある。 link
大量のAI生成コードは誰が保守するか : AIがコードを大量生産する時代が来た。職人の手仕事だったソフトウェア開発は工業化のフェーズに入り、低コストで使い捨てのプログラムが氾濫し始めている。1865年にジェヴォンズが石炭消費で見出した逆説がここでも発動する。農業の工業化は飢餓を解決するどころか肥満を生んだ——ソフトウェアでも同じことが起きるだろう。厄介なのは、広がり続ける技術的負債という公害である。自動生成されたコードの責任をとる人は誰もおらず、したがって誰も保守しない。効率の果実だけをもぎ取り、負債を外部化する構造は、産業革命以来繰り返されてきたパターンそのものかもしれない。 link
AIに対する極端な評価の背景『眩い閃光か、完全な暗闇か』 : コンサルティングレポートの制作に3ヶ月とジュニアアナリスト軍団を要した仕事が、AIで1週間に圧縮されうる。それでも失業率は5%を切ったままだ。この断絶をどう読むべきか。電気の普及には発電所も送電網も必要で、数十年を要した。だがAIは再帰性を持ち、人間の介在なしにスケールする構造をもっている。活用したい人、強く拘り続ける人には百万ワットの電球に見えるが、別の人には何の活路も見いだせないゴミ(暗闇)に見えてしまう対象である。有用性の非対称がこれほど極端な技術は前例がない。変化がまだ来ていないのか、それともすでに始まっているが可視化されていないだけなのか。あるいは、電気の不急寺にも同じ議論があったのだろうか。 link
📙本
疲労社会:韓国出身の哲学者ハン・ビョンチョルの社会哲学エッセイ。成果を重んじる現代社会の病は抑圧ではなく過剰な自己肯定にあり、自己搾取に苦しむ人々の課題、その表出のひとつがうつ病であると。国家や権力、上司など明確な敵がいた全時代と異なり、現代の敵は「もっとがんばれ」と語りかける内側からの自分の声であり、ハンはそれを「今日の主体は、被害者であると同時に加害者である」とする。ぎゅっと詰まったよいエッセイ。 link
チップス(ハゲタカ6):企業買収テーマの経済小説・ハゲタカシリーズ。今回の舞台は台湾の半導体ファウンドリと日本の国策半導体企業。どちらもいま盛り上がりど真ん中のテーマ。テクノロジーを巡る米中対立に対する視界が少しだけ開けました。 link
破戒:次のポッドキャスト課題本。舞台となっている奥信濃・飯山市は私が18歳まで育った土地で、主人公が下宿する蓮花寺のモデルは私が通った幼稚園併設のお寺です。穢多の生まれであることを必死に隠そうとする主人公・丑松。同じ境遇で思想家として活動する師範学校の先輩・蓮太郎を尊敬しつつも、彼に自らの出自を明かすべきか、あるいは亡き父の教えを守り誰にも穢多の民であることを隠し通すか。切実な葛藤のある小説です。 link
📻観&聴
立川談春 独演会@神戸:昨年西宮で堪能した談春師匠、今年は神戸で。紺屋高雄、いいお噺ですね。 link
🧩感
将棋各棋戦が佳境。土壇場2連勝で名人戦挑戦者となった糸谷先生、彼に負けて挑戦機会を失うも叡王戦挑戦者決定戦準決勝で藤井聡太六冠を破った永瀬先生、初のA級昇級を決めた伊藤匠二冠、昇級するベテラン勢の久保先生や山崎先生。福間香奈女流六冠の編入試験ももちろん、目が離せない対局ばかりです。本日3/9は王将戦七番勝負第5局、先手の永瀬先生が勝てば王将位奪取です。昨晩の封じ手段階では永瀬先生がやや優勢。
結局は狂気が勝つ。 link
🍵関心
中東のこれからと変化の波及速度・範囲。人命や統治の社会変化はもちろん、湾岸諸国の政治経済への直接影響しかり、雇用低調で予備選前のドタバタも予想される米国、1日100万バレル以上の原油を市場価格の2-3割引きで同地から仕入れているとされる中国、戦時ドローン供給元を断たれるロシアなど、広く変化が及ぼされるはず。
家のバルコニー農園になにを植えるか。コンサルお仕事が生成AIくんのおかげで相当加速しており(更に加速させられそうな予感もあり)、私が身体をかけてやるべきことはいよいよテニスと農園主になりつつあります。
💼仕事
先週東京で行った講演会はだいぶ好評頂きました。企業研修のお仕事、もっと積極的に対応していこうとおもいます。
お仕事のもう少し突っ込んだことを書き残すニュースレターなりブログコミュニティを別途つくろうと考えています。小規模法人らしい生き残り方やお仕事獲得の方法、補助金・助成金・借入の話し、AI全力ぶん回し仕事術などお届けしたい。Substackプラットフォームがなかなか日本で広がっていかず、現状noteが第一候補です。やるぞ!となったらまたご案内します。
お便りをお待ちしています。


