道具に頼るな。練習を欠かすな。
ビジネス版ビリーズブートキャンプ、セネカ、生きるとは戦うこと、エピクテトスの哲学。高坂史観、貸主協議会2026、みなみかわライブ。
「うちの若いのを鍛えてやってください」と仕事の依頼いただくことがある。おっさんになった証拠だ。彼らの仕事ぶりやアウトプットを眺め、悩みや課題を聞き、これから何をすべきかをみちみちと話す。宣言させ、追いかけ、諭し、やらせ、繰り返させる。鍛錬の基礎は普遍的なものである。体が覚えるまで基礎をこなし、性格・特性に合う応用が上に載るまで繰り返させることだ。
コンプライアンスが厳しい時代、猛特訓は外注される。私はコンサルタントというよりビジネス界のビリー・ブランクスである。みなさんもぜひ入隊してください。

改めて言うまでもないことだが、人を育てるのは本当に難しい。教えたことは翌日には忘れられ、「やります!」と言っていたはずだが一向に成果物はあがってこない。一方で謎のYoutuberが語る似非ゴミ仕事術を律儀に実践していたりする。そしてたちが悪いことに、小賢い人は、すぐに道具の話を聴いてくる。
「ChatGPTとClaudeどちらがいいですかね?」
「ニュースアプリを通勤時にみたりするんですが紙の新聞も読むべきですか?」
「ディスプレイを大きくすると作業効率変わるらしいんですが、何インチがおすすめですか?」
みな真剣でまじめな表情をしている。むしろ真面目だからこそ、即効性のある答えを探しているのかもしれない。なにかの道具を手にすれば、今日明日にも能力が高まると思っているのだろう。「自分は変わらない/変えたくない。道具でなんとかしたい」。銀の弾丸はない、という言葉を知らないのだろうか。「○○すればすぐに●●!」を開発しすぎた弊害かもしれない。
哲学者・セネカが二千年前に残した、”vivere militare est.” という私の大好きな言葉がある。ストア派のコンセプトがこんなにも詰まった格言はないと思う。
ストイックさを追求する野心ギラギラの人はこれを「生きるとは戦うことである」と訳し、「戦うためにはこの道具を買え(URLはこちら)」と迫る。アホボンは大量の道具を買ってくれるし、どうせ状況は改善しないのだから、永遠と客であり続けてくれる。消費税は政府だけが課すものではない。下手の道具調べまっしぐらである。
原文のラテン語”militare”のニュアンスは、”戦う”よりもむしろ”兵士として軍務に服する”に近い。兵士の仕事は、行軍し、見張りに立ち、野営を張ることだ。兵士たる日々の大半は派手な戦いにはなく、たいそう地味な作業の連続である。セネカは、病気や災難への不平をこぼす友人・ルキリウスに対して、人生の苦難は兵士の任務のようなものとして引き受けよ、と言ったのだ。私はこの意味で、原文を愛している。
道具の質問ばかりする人は、装備ばかりに目を配る軍人である。鍛錬と雑事を無視して何ができるのだろうか。アホボンに最先端AIや高性能デバイスを与えてもまともなアウトプットは出てこないことに皆さんは頭を悩ませていることだろう(私もだ)「いかに名刀でありましても、使う人が当を得なければ、名刀の切れ味はありません」と言ったのは松下幸之助である。当を得るためには?やっぱり鍛錬・練習だ。
大人になると誰も「おまえはもっと練習すべき」「君には鍛錬が足りない」と言ってくれない。ハラスメントのリスクは負いたくないし、業務外の時間の使い方やその人の将来についてコメントするのも憚られる。「仕事に必要なことなら、鍛錬も業務時間にやるべきじゃないですか?」と言う人に、まぁそうかもね(君がそれでいいならいいけど)と苦笑い応対するのが精々である。
道具だけで解決できる問題は、いずれAIやロボットが全て解決してくれるはずだ。それは客観的要素によって定義される”仕事”であり、労働とは完全に分離されている。その仕事を、私たち人間はもう手放してよいのは僥倖である。しかし哀しいことに、「Claudeの最上位プランを使わせてくれないと仕事になりません」スタンスの人に残された業務はもうないのだ。知識や能力は奪われないが、道具は簡単に無力化される。
道具はあくまで補助的存在であり、鍛錬によって磨かれる心技体が価値の根源であり続けるだろう。幸か不幸か、世界中にある仕事のほとんどは人間感情と複雑に結びついている。哲学者・エピクテトスは「よく生きるために欲望、承認、義務と3つの心象領域を大切にすること。大切にするために何をするか?日々”練習”せよ」と言った。GLP-1薬が欲望を、SNSや推し活が承認を、退職代行が義務を、それぞれなんとかしてくれる道具だと思えるかもしれない。しかしそれは欺瞞だ。私たちは日々練習しなくてはいけない。
道具の価格は安くなったし、これからも安く鳴り続けるだろう。同じくらい、逃げ出す費用も下がっている。相対的に高くなったのは鍛錬・練習である。もしあなたが練習を厭わない精神を持っているなら、それだけで大層な資産家である。どんな大金持ちでも真摯さを買うことはできない。
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💼心惹かれたもの
パールコーン:村田農園から夏を感じよう。素揚げにするとうまいらしい。 link
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
南米は飢餓を根絶しかけている:FAOの報告によると、南米の飢餓人口は2020年から3分の1減少し、カロリー不足の人口は3.5%と過去最低に。ブラジルは2025年に国連の飢餓マップから外れた。The Economist誌はこの理由を中央銀行の安定した独立性にみている。パンデミック時の果断な利上げがインフレを他地域より早く制圧し、食料価格を安定させたことで低所得層の生活が安定し、貧困撲滅のグッドサイクルが回り出した。左派の給付も右派の財政緊縮も、現金給付だけは安定して継続してきたことも重要だ。表面的にイデオロギー対立を起こそうと、機能する政策は静かに超党派化で進行させている。民主主義とはこう言うものである。 link
麻薬戦争で敗北を続ける政府組織:国連の世界薬物報告書2026年版が出た。2024年の南米コカイン生産は史上最高の4,100トン。現地政府が数十年取り組むコカ畑掃討作成にもかかわらず、アンデスの農家は栽培技術のアップデートを続け、生産量を伸ばしている。流通量が増えすぎて卸売価格は下落し、供給が需要を追い越しかけているとまで言われる。一大中継地点だったアントワープ港で大型摘発をしていれば良かった時代は終わり、流通が小口・分散化したために摘発の難易度も上がっている。コロンビアの新大統領・デラエスプリエジャ氏は麻薬撲滅に向けた全面戦争を宣言したが、潤う違法武装勢力も強気に出ている。イランよりもなんとかしなければいけない問題のはずのだが。 link
米ミシシッピ並みに貧しくなった英国:購買力平価でみた英国の一人当たり所得は約5.6万ドルで、米国最貧のミシシッピ州と同水準となった。中間層で比較すると独より20%、低所得世帯は仏より27%も所得水準が低い。英米で各種制度は似通っているはずなのに、両者の経済水準は乖離を続けている。「社会で対処すべきだが私は何もしたくない」というNIMBY主張が蔓延る英国では土地開発が停滞しており、政治の論点は成長より福祉・分配に寄っている。日本の手なりの未来がここにある。断固拒否して、前を向こう。link
中国、少子化により1年で3万校が閉鎖:少子化の第一波が就学前・初等教育を直撃しており、一方で過去の出生ピーク世代を吸収する高校と大学はむしろ拡大中という構造のねじれが起きている。教育インフラは人口動態の遅行指標であり、日本が数十年かけて経験した縮小を、中国は桁違いの規模と速度で通過しようとしている。出生率が○○%よりも、1年間で学校○○万校が閉校に、のほうがインパクトを感じてしまうのは人間の脳のバグである。 link
子どもたちを不幸にしたのは本当にスマホなのか:心理学者ピーター・グレイは、子どもたちのメンタルヘルス悪化の原因を『自律性の喪失』だと語る。祖母のタバコを買うお使いが許されていた時代は遠い昔で、現代の子どもたちは屋内に閉じ込められ、外で行うのも大人の監視下にある習いごとくらい。子どもたちは遊びを通じて人間を知る。全ての責任をテクノロジーに押しつける不格好な老人になるなよ。link
脳資本という投資対象:マッキンゼーと世界経済フォーラムが共同で、脳の健康と認知・対人スキルを合わせた”脳資本”を投資対象として扱おうと提案している。脳疾患の予防・治療への介入を拡大すれば、2050年までに2.6億年分の人生損害を回避し、累積GDPで最大6.2兆ドルの利益をもたらすことになるだろうと試算している。幼児教育プログラムのリターンは年7〜13%、費用対効果は最大9対1にも上る。AIに投資が集中する時代の対抗軸として人間の脳を持ち出すあたりがいかにもヘルスケア産業が最大顧客のコンサルファーム。数字の示し方は抜群に上手なマッキンゼー兄貴。link
その他にも
平均な努力なら、平均的なリターンしか期待できない:努力は必要条件だがそれが平均的なものである以上差別化要因とはならず、大事なのは分布を外れることである。link
ニュース暴露は”喫煙”と同じ:かつて医師がキャメルを勧めたように、情報通であることは健康的な習慣とされてきた。しかし実際は本人と周囲の機嫌を悪くするだけだ。link
深夜のオムレツパーティー、47人分を焼く:友人作りが難しく、しかし最重要テーマの現代で。link
📙本
文明が衰亡するとき:古代ローマ、中世の通商国家ヴェネツィア、そして現代のアメリカをテーマに、彼らはいかに沈んでいったのか・沈みつつあるのかを高坂正堯が描く。塩野七生さんの推薦文にあるとおり、全てが姿勢の話である。 link
われわれはもっとも根源的な意味でものを作り出す存在ではない。われわれは一次産品や半製品を買い、それに手を加えてーーすなわち他人の生産を利用してーー生きるのである。それらはともに客観的に見て悪いことではない。またいずれの点でも、われわれの生き方は他人にも利益を与える。しかも、その意思さえあれば、われわれは他人に利益を与える行動を増やすことができるし、われわれはそうしなくてはならない。それにもかかわらず、巧妙な生き方をするが故に、通商国家が他人に好まれないのも、人間の性からしてやむをえない。
ただ、それ以外に通商国家の生き方はない。貧弱なパワー・ベースにもかかわらず、広汎な通商関係からかなりの力を持つようになった国の外交はそれ以外にありえない。そして、そのことを自覚しておこなえば、そうした生き方はそれなりに堂々としている。塩野七生氏が書いたように、ヴェネツィアもまた偽善によって彩られた。しかし「それをしていることを十分に承知している人間の行う偽善は、有効であるとともに、かつ芸術的に美しい」のである。 (p295)
歴史としての二十世紀:高坂正堯の連続講演録。第一次世界大戦がなぜ起こり、第二次世界大戦から冷戦へと続く対立の歴史はいかにして続いていったのか。本論もめちゃくちゃいいんですが、余談もいい。減税をいの一番に叫ぶ政治家・政党はみな悪である。 link
余談ですが、政治家の良し悪しを判断するのによい基準があります。「私は税金を取ります」と言う政治家はいい政治家であって、「税金は取りません」と言う政治家はまやかしなのです。政府がなにかをやるためには、必ず税金を取らなければいけません。 (p146)
有閑階級の理論:宇野弘文の思想を紹介する本によく顔を出す経済学者・ヴェブレン。この本は「虚栄心が消費の本質」と喝破した100年以上前の古典。経済学・社会学なんて知らぬ!という人でも、お手元の生成AIにこの本や彼の思想を問い合わせると「あー確かになー」となることでしょう。混乱した生涯を送ったヴェルナー・ゾンバルトの著作『恋愛と贅沢と資本主義』と合わせてお召し上がりあれ。 link
📻観た/聴いた
相席スタート山添寛のサクラバシ919 貸主協議会 2026:これぞフリートーク。サクラバシステークスのくだりで爆笑しました。見逃し配信は今週金曜31日まで。 link
みなみかわライブ「ニヤる~話を3つ用意しました~」:やりたいことだけやる芸人への道。儲けに走る身内芸人をしっかり刺しにいく姿勢、かっこいいよ。見逃し配信は来週月曜3日まで。 link
ショスタコーヴィチ 交響曲第10番:東大オケ出身の新卒同期に「ショスタコ聴くならまず10番から!」とおすすめしてもらいました。第二楽章の入り、かっけーーー。第三楽章の広がりーーーー。彼の豊かな人間性と奥行きはこの曲に支えられているんだなと感じる。みすず書房の新著を案内しただけなのに丁寧に良さを教えてくれる優しいお兄さん。これからも仲良くしてね。 link
🧩感じた/感じている
この夏こそ、熱中症にかかることなく通り抜けたい。この週末暑かったですね。保冷剤のお世話になりっぱなしです。
🍵関心事
量子コンピュータ、今年後半でどのくらい技術的な前進があるだろうか。
🥑活動報告
7月最終週。半導体のことをめちゃくちゃ考える1週間。3ヶ月続けてきたプロジェクトの納品もあるので大忙しです。来月は山梨・静岡出張。少しはゆっくり出来るかしら。
お便りをお待ちしています。



