こーべ通信:新時代に必要な「倫理、民主、科学」
台湾祭、中正紀念堂、三民主義。キンミヤ焼酎。遊びの時代。最高に賢く最高に愚か。コンサルの正体。活火山フォトグラファー。叡王戦第2局。
おはようございます。東京出張から無事神戸に帰ってきました。今回も押上に宿を取り、会議の合間にスカイツリー・ソラマチに初訪問。開けた空の下、台湾祭をやっていました。キービジュアルがすてきで、お散歩先として最高でした。
2月から購読している中東特派員が書くニュースレター”Iran War Dispatches with Tim Mak”でも最近、台湾経済への問題が取り上げられていました。曰く、イランとイスラエル・米国の対立が長引けば、台湾から夜市がなくなってしまうかも知れません。台湾では災害発生時にパニック買いや買い占めが何度も起きてきた歴史があり、今回は原料の中東依存度が高いビニール袋やプラ容器、プロパンガス(LPG)の供給がだいぶしんどくなっている。夜市の店主も、彼らに備品を下ろす会社も零細企業がほとんどで、コスト増を販売価格に転嫁するだけの時間的余裕はないはず。一部の環境団体は「夜市をより環境に優しく持続可能な場所に変えるべき」と叫び、頼清徳総統は原子力発電の再活性化を訴える契機としていまの事態をうまく使っている。政治と経済をみつめるなら台湾に行け。
10年以上前、台湾旅行で台北・中正紀念堂に行きました。ここは、初代総統・蒋介石を讃えるメモリアルホールです。三層に分かれた階段は孫文が唱えた三民主義(民族・民権・民生)を象徴しており、その階段の上がった先にはバカでかい蒋介石像と、背景に「倫理、民主、科学」の文字が刻まれていたことが記憶に残っています。
三民主義。これを唱えたのは中国革命の父・孫文(神戸を18回も訪れた日本と縁深い政治家で、明石海峡の根本・垂水区に孫文記念館があります)であり、「国家の独立(民族)」「人民の政治参加(民権)」「生活の安定(民生)」という三つの政治目標を表現しました。彼を師事する蒋介石がこの目標達成にむけた神髄としてまとめたのが倫理、民主、科学。なぜこの3つなのか。
曰く、民族は単なる血統や国家主義を超えて人間関係の秩序や共同体道徳に立脚すべきであるため「倫理」の根を張らなくてはならない。民権は主権在民の問題だから当然「民主」がその本質である。そして、民生は経済・産業・制度設計の問題だから「科学」的方法で実行されねばならない。この3つが揃って初めて台湾(彼らの言葉では中華民国)が成り立つ。ほぅ。
元々のニュアンスと現代の語感に差異が生まれたことや、蒋介石の政治的認識が変わっていったことを受け、この言葉の元々の意味合いはほぼ失われています。元々は国家を強くするための統合コンセプトだった民主はむしろ国家権力監視の意味合いを濃くし、儒教的価値観に基づく倫理は公の場から消え去ったといってもいいでしょう。しかしいまの世界・社会を眺めるに、現代に必要な「倫理、民主、科学」を再編集しなくてはいけないとも思うのです。
お便りをお待ちしています。
💼心惹かれたもの
亀甲宮焼酎(キンミヤ) 一升瓶:東京出張の最大の学びは「ボトルキープするなら黙って一番デカいやつにすべき」です。これまで4合瓶に甘えていたなと。Life is for Sharing。神戸のお店にたくさんキープボトルを置いていきたいなと思います。 link
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
怒りの時代、反抗としての遊び:今週一番良かった記事の一つ。エンゲージメント最重要のオールドメディアやSNSは怒りや不安を煽ること自体が商売であり、「こんな不正がある。正しいこちら側につけ。そうでないなら愚鈍である」という副音声で発信を続けている。情報量過多で相手を鈍らせてこちら側の想定通りに操作しようとするのはあらゆる企業マーケティングの常套手段である。著者はそんな時代に「遊ぼう」と私たちに語りかける。それこそが、何ならそれのみが、怒りを燃料にしなくても生きられる身体を取り戻す活動なのだと。遊びに時間と労力を割くことは、自らの自律性を取りもどすための必須活動である。 link
ロボット・AIがピケティ論を現実にするかも:「資本主義の恩恵は資本家に集まり格差は自己増殖する」と語ったピケティ論は日本でも人気を博したものの、実態をみれば『資本蓄積→金利低下→賃金上昇』の経路で資本と労働は基本的に補完関係にあったことが立証されている。しかし、高度なロボット工学とAIがこのメカニズムを破壊するかもしれない。完全自動化が実現すれば人口ボーナスの恩恵があるはずの発展途上国の成長源泉が失われ、富は最も多く貯蓄し投資する人々に集中する(先進技術による果実はアクセスが限られる非公開株から生まれる部分も大きい)。著者たちは、グローバルな累進資本課税だけが格差拡大を防ぐ手段であり、このような仕組みがない限り、最終的には”移行期(a.k.a いま)に豊かだった人、あるいはその相続人”がほぼすべてを持つ世界に近づくと言い切る。22世紀の格差論。 Link
ハンガリー大統領選の教訓『いつでも自由を取り戻せる』:ハンガリーの総選挙で指導者ペーテル・マジャル率いる野党が圧勝し、米トランプ大統領や仏極右政党党首のルペンが裏で手を組み支援していた与党ビクトル・オルバンの15年体制が崩れさった。マジャルたちは経済、医療、学校といった生活の論点に絞り、地方を回って新の愛国を説き、独立メディアと一緒にまっすぐな声を届けることに全力を注いだ。世界で広がりつつある”非自由主義”は、権力や金の力を用いて「これが世界の不可避の流れだ」と民を説得してきた。しかし、不可避なことなどないのだと。非自由主義が永続するという前提を一つの選挙結果が覆し、多くの小国・中堅国の政治家たちを励ましている。局地の経済訴求と内部からの信頼性。言葉を失わなければ、私たちはいつでも自由を取り戻せる。 Link
金融インフラ主権を手放してはいけない:カナダのメディア、The Walrusが「VisaとMastercardがカナダのクレジットカード市場の96%を握っていること、そしてその決済ネットワークが米国企業の支配下にあること」を問題視している。両社は22年にロシアへのサービスを停止する決断を下し、国際刑事裁判所の判事が米国制裁により海外で決済不能になった事例も報告されている。安全保障というと軍事や外交のことを考えがちだが、21世紀の国際主権を考える上でお金の流れを司る決済インフラもこの輪郭で捉えるべきだと語る。「自国製品を買おう!」に比べると地味な「自国サービスで決済しよう!」の政治提案は有権者を惹きつけるだろうか。 Link
あなたの失敗や不満はエネルギー切れのせい:通勤や雑事やメッセージ処理でエネルギーを使い切った人は、夜にHPゼロ状態で漫然とした消費や家族コミュニケーションを行うことになる。それが私たちが求めた姿なのだろうか?大事なことは、1日・1週間・1ヶ月・1年などの単位で、より良いエネルギー配分を行うことであり、実質的にはエネルギーの前借りに過ぎないもの(e.g. コーヒーやエナドリ)を『元気になるためのもの』と混同しないこと。そして、エネルギー節約に繋がる神話(e.g. 宗教や儀礼、倫理感)を再評価すべき、なぜならそれらは人間の有限なエネルギーを節約するための発明なのだからと著者はいう。なるほど、宗教は省エネ技術だったのか。 link
“最高に賢く最高に愚か”を表す言葉が必要だ:AIのことを考えよう。ルービックキューブは瞬時に解けるのにTシャツは畳めない。何十億人の中から顔認識はできるのに、相手が退屈していることはわからない。将棋ではプロを圧倒できるのに、子どもがその場で考えた新しい遊びには負ける。特定領域で超知能を発揮しながら日常的なタスクで著しく不器用な人工知能は、能力の凹凸が人間の既存概念を超えている。著者、ケヴィン・ケリーは”dumbsmarten”や”genidiots”で天才と愚鈍が同居している状態を表現しようとしている。この命名企画、深夜ラジオの企画にして欲しい。 Link
エリートぶるなら「真剣な読者たれ」:文学や古典はそれ単体で商売になりにくい故、ニュース性の高い周辺情報ばかりが飛び交い、何なら知的エリートとされる人さえもその文脈でばかり物事を語る現状を嘆く。私たちは、人間が築いてきた文化の前でちゃんと敬意を持てるかを改めて問われているのかもしれない。AI流行に合わせて、”Taste”の議論が盛り上がっているけれど、それは単なる好き嫌い(=Preference)であってはならず、質量ともに十分な厚みを持つ知識に基づくものであり、訓練の蓄積の結果として発揮されるものであるはずなのだ。改めて、良い読者としての振る舞いを取りもどそう。 link
楽観主義は性格上の欠点ではない:多くの物事が失敗するのが世の常である。ソーシャルメディアなど言論空間が広がり、雰囲気で批評をしたり適当な分析で失敗理由を列挙する人間が賢明とされ、楽観主義者は無知と扱われる”競争的悲観主義(Competitive Pessimism)”が蔓延している。悲観は外しても損が小さく、楽観は外すと高くついてしまう非対称性を避けることはできない。確かに、橋の設計には悲観主義者が必要だし、血液検査の結果を読むのも悲観的なくらい慎重な人のほうがいいだろうが、悲観主義は一つの道具であり、技術である一方で、人格にしてはいけないのだと著者はいう。考えてみよう。良くなる可能性があると仮定して動かない限り、良くなるわけがないのだ。病院も、公民権運動も、ワクチンも、最初は「やれるかもしれない」と思った人から始まったことを忘れてはいけない。記事の締め、すてきな言葉だ。 Link
I would rather be wrong about what we’re capable of than right about why we shouldn’t bother trying.
(私たちには何かできるはずだと信じたが故に間違うほうが、どうせやるだけ無駄だと正しく言い当てるよりずっとまし)
📙本
コンサルの正体ーThe Big Con:コンサルファームとアウトソーシング企業は別の存在。オバマケア登録サイトのシステム設計失敗のせいで初日登録が6人だけだったってエピソード笑ってもうた。 link
現代語訳 風姿花伝・三道:次のポッドキャスト課題本。今昔、熟達のプロセスはおんなじだね。 link
薔薇の名前:次々の課題本。エーコの思想を学ぼう。完全版、分厚いぞ。 link
📻観た/聴いた
活火山を生撮影するフォトグラファー:グアテマラのフエゴ火山は2018年の噴火で約200人が死亡した。それでも登山者が訪れる。写真家ピーター・フィッシャーは1万2000フィートの高地で、凍える夜と灼熱の昼間に挟まれて撮影を続けた。一歩進むと半歩後退する火山灰の登山道。頂上まで約2時間、多くの人間が途中で断念する。なぜそこへ行くのか。死の際での美しさを求めるという衝動は、冒険の解説よりずっと説明が難しい。フィッシャーの答えは写真の中にある。 link
プログラミングに最適な音楽:心が落ち着く。サイトデザインもよい。 link
🧩感じた/感じている
迫力ある仕事がしたい。岩波・世界で実現しようとしている何かである。
『世界』は、良質な情報と深い学識に支えられた評論によって、戦後史を切り拓いてきた雑誌です。創刊以来75年、総合雑誌として読者の皆さまの信頼に支えられてきました。とりあげるテーマは、政治経済、安全保障、社会、教育にとどまらず、AI、デジタル社会、ジェンダー、気候変動などの分野にも積極的に取り組んでいます。複雑な危機の時代に、それでも知りたい、と考え続ける読者に応えたい。世界と関わっていくための窓であり続けたい――そんな思いから、迫力ある誌面づくりに邁進いたします。 link
へぇぇぇ意外だ。>Expedia「最も安い運賃で航空券を予約するのに最適な曜日は金曜日」 link
🍵関心事
将棋。叡王戦第2局、伊藤匠先生の寄せ方があまりに美しく感動ものでした。玉は包むように寄せよ、のど真ん中でした。どんな勉強をするとここに近づけるのだろうか。
『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』などで著作を楽しませて頂いている鈴木忠平さんが出した将棋ドキュメンタリー『いまだ成らず 羽生善治の譜』を積ん読しています。いつ読めるだろうか。
先週の東京出張で、いいちこが季刊誌を出していると聞いて驚きました。かなり骨太の特集を組んでいる非販売本たち。社内の誰がどんなモチベーションで続けているのだろう。 link
🥑活動報告
GW前にいろんな仕事を片付けていかないと。忙しくがんばります。
お便りをお待ちしています。





