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ロバート・M・パーシグが1974年に出版した自伝的架空小説『禅とオートバイ修理技術』を読み始めたのは、大好きなポッドキャスト・RebuildでNさんがこの本を紹介していたから。いつか読もうとKindle積ん読していたのを、美紀さんと一緒にやっているポッドキャスト・Cobe.fmで取り上げるのをきっかけにいよいよ読み始めた。
頭をひねりながらじっくり読むのに最適な本だ。文庫版まえがきで新しく追加された時間論の描写、芸術的創作と科学的説明の交錯、大学を"理性の教会"にしてしまう人間集団など、味わい深さに溢れている。なお、この本には、禅やオートバイ修理技術そのものに関する解説は含まれていない。いわく、オイゲン・ヘリゲルの著書『弓と禅』へのオマージュタイトルらしい。
幽霊、それが本書序盤のテーマの一つになっている。バイク旅の途中、仲間と「幽霊は存在する」という会話をする。多くの人が、実は幽霊を信じているんだと。
…ということは、引力の法則は人間の頭のなかにしか存在しないということさ! 幽霊なんだ! 人はみないい気になって他人の幽霊ばかりを追いかけて、自分自身のことについてはからっきし無知で、原始的で、迷信的なんだ!
…自然のあらゆる法則は、幽霊と同じように、人間がつくり出したものだ。論理学の法則や数学の法則もそうだ。この世のものはすべて人間のつくりものなんだ。それを否定しようとする考え方もそうだ。人間の想像力を抜きにしては、この世には何も存在しない。
ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」や、近いところだと浅生鴨さんの「ぼくらは嘘でつながっている。」にも近しいコンセプトがある。想像、ストーリー、ナラティブ、嘘、、、これらは同じ地平にあり、多様性や持続可能性みたいな流行テーマはこの力を借りて社会に拡がっている。私たちは幽霊をベースに社会を築き、発展させてきた。これからもそうなっていくはずだ。
幽霊も善し悪し。私が取扱注意と思っている幽霊の一つが責任だ。
『ありのままで良いよ。あなたのせいじゃないよ』の非自責、『大企業と政府が悪い』の他責、『私がいないとダメになっちゃうから』の自責、『〜している人に悪い人はいない』の非他責。すべて、幽霊の呪縛にとりつかれた結果うまれている幻想に見える。にもかかわらず、責任というものが有史以前から存在しているかのように、あるいは厳密に所在を特定できるものかのように扱う人・集団がずいぶんといる。
あなたのせいかもしれない。そうじゃないかもしれない。誰かのせいかもしれない。そうじゃないかもしれない。防ぎようがあったのかもしれない。そうじゃないのかもしれない。
責任が追及されるのは、概ね物事は上手くいっていない場所・時だ(いまのTwitter社のように)。戦争や紛争、インフレやレイオフ、環境問題みたいなビッグテーマはもれなく上手くいっていない(だからニュースになる)。年末は、責任に思いを馳せるにはぴったりの季節だ。
その幽霊は、追求する意味のある幽霊だろうか。責任追求を徹底してきた場は実際に良くなったのだろうか。「責任を取る/取らさなければ今後も同じ問題が起こる」は果たして真実だろうか。責任の所在にかかわらず「自分に出来ることを粛々とやろう」ではだめなのか。
幽霊の取り扱いはとかく難しい。こういう難しいテーマを考えるときは一人になって、かついろんな感覚を遮断するのがよい。例えば、オートバイで遠くに出かけたりして。もちろん、Twitterアプリを削除した上で。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
話を整理するとはどういうことか:返す返す私は、「自身の強みは『整理・言語化・構造化』にある」と顧客や周囲に伝えています。そのときの"整理"が意味することはこの記事に書かれていることとほぼ同様で、その効用も書かれているままです。大事だぞ、整理。めちゃめちゃ大事なんだぞ。 (Books&Apps, link)
子供の頃からの夢なんてものは、叶うべきじゃない:「クラムボルツに学ぶ夢の諦め方」を思い出しました。夢のほうを永遠に進化させるから、夢は永遠に叶わないのがいいんだと思う。“イイコトしてる俺かっけえ” の感情で駆動する人類、できる限り遠ざけておきたい。 (Books&Apps, link)
長い道のりを往く: “Oceans are made of drops.” っていい表現ですね。同時に、DropsもOceansで出来ているんだなぁと。 (Seth’s blog, link)
NotionからもAIアシスタントが:ヘビーユーザーの私、これは超絶楽しみ。少し前にJasperも試して、何か使いようがないか考えています。 (notion, link)
シリコンバレーで続くレイオフは文化リセットの一環:いい話だとおもう。原油産出国では税金ゼロです、みたいなことに違和感を覚えるように、BigTechの従業員優遇、おかしいですもの。 (vox, link)
研究室発・培養肉が市場に登場する:米・スタートアップUpside Foodsが開発したLab-developedの培養肉を、先週水曜日にFDAが承認。 (vox, link)
月金の仕事は自宅で:曜日ごとのオフィス利用率変化がAxiosに。私はほぼ毎日自宅にいます。捗るよ。 (Axios, link)
インドの毛髪産業が窮地に立たされている:58億ドルに上る世界のウィッグ/エクステンション市場、製品の1/3には本物の人間体毛が使われているとのこと。剃髪文化が残るインドは毛髪の輸出国ですが、関税回避の横行やアングラ系事業者増加によって規制が強まっています。寺院や小規模な毛髪代理店が打撃を受けています。 (The Economist, link)
独・大型風力発電は補助金依存:グリーン発電でブランディングを続けてきたドイツですが、風力発電設備の稼働率は低調、南北の電力需要差による送電網インフラ維持のコストも膨大だとNZZが指摘しています。向こう2-3年でこういう告発はたくさん出てきて、SDGsのトーンも人権などに移りそうだなと思っています。 (NZZ, link)
途上国の気候変動対策には2030年までに年間2兆ドル必要:国連が先週発表したレポート "Finance for Climate Action"の中で試算結果が公表されました。「今後10年間に予測されるエネルギーインフラと消費の成長のほとんどは、新興国や発展途上国で起こる」として、即時の対応を求めています。 (euronews, link)
卵白由来の材料で水を濾過する:プリンストン大の研究チームが発表。卵白由来のエアロゲルで水の濾過やエネルギー貯蔵、遮音や断熱に利用できるとのこと。無酸素環境で凍結/乾燥→900度加熱するんですって。マイクロプラスチック除去にも効果的とのこと。すんげぇな。 (What’s Craigs mind, link)
世界初、ふん便移植を当局が承認:オーストラリアのスタートアップ・BiomeBankが限られた利用用途に絞って申請。次の段階は特定の病気をターゲットにできるSuper pooの開発だと。 (gigazine, link)
マジックマッシュルームが治療抵抗性うつの治療に使える可能性:シロシビンの治療利用可能性について、NEJM掲載の論文が出ました。10カ国233名のTRD患者さんが参加。英・メンタルヘルス企業のCOMPASS Pathwaysがスポンサーです。 (Trinity Colledge Dublin, link)
献血が不要な未来が来るかも:NHS Blood and Transplantとthe University of Bristolの研究チーム主導で、実験室で増殖させた赤血球を他の人に輸血する臨床試験が始まっています。さっそくGigazineさんも記事に。 (Cambridge, link)
ネガティブな感情のパワーを活かそう:「ポジティブ思考」「ありのままの自分」等が褒めそやされる時代ですが、怒りや悲しみを感じることは人生の現実であり、その感覚を否定したり抑圧したりすることはむしろ不健康への道です。否定はグリッドプロセスの一環であり、闘争なのです。ネガティブ感情に、柔軟性と拡張性を伴わせることで人生は豊かなものになるはず。 (Przekroj, link)
情熱はキャリア上のトラブルを引き起こすかもしれない: エンジニアから社会学者に転身したエリン・チェ氏が「人は自分の仕事を好きになるべきだ」という考え方に疑問を投げかけ、いかに情熱主義が生まれ広まったかを考察します。私自身は、それでも情熱の価値を信じています。"意味づけのポートフォリオを多様化する"という表現は素敵ですね。 (nature, link)
📙本
孤高の挑戦者たち: バッテル研究所-現代のピタゴラス集団:vol.97冒頭で取り上げたブログで紹介されていた今北さんの書籍。冒頭からしびれた。泥まみれで這い上がろう。そういう場を選ぼう。 > “私は、彼らとの出会いをどうしても書きとどめておきたかった。それは個人の日記という意味においてではない。自己に対する挑戦とは、決して格好のいい事ではなく、何度もキズつきそして泥まみれになる事であり、そこには、どんなプロフェッショナルも避けて通る事の出来ない「這いあがりのプロセス」がある。そしてこの「這いあがりのプロセス」というレンズを通して見る限り、そこに国籍の境界線はない。その発見の喜びを記すためである。” (Amazon, link)
仕事で成長したい5%の日本人へ:↑の今北さんのビジネス哲学書。対決から逃げない、っていうのはほんまに大事やなぁと。毎年年末に読むことを決めた経営書の1冊になりました。新書でさっと読めるのも良いポイント。 (Amazon, link)
DHBR 22年11月号 『これからの経営者の条件』 :HBS竹内先生の、経営の足かせになっている3過剰、オーバーアナリシス(過剰分析)、オーバープランニング (過剰計画)、そして オーバーコンプライアンス (過剰規則)はまさにその通りだなぁと。 (Amazon, link)
🧩感じた/感じている
ハーバード・HBSが実践する “Knowing, Doing, Being”は、シンプルながら本質的な教育の在り方だ。
『むい』(無為、無位、無畏、無意)に惹かれている。次の取組みコンセプトにしたい。これに共感できる人とイニシアティヴ/組織を共同で立ち上げたい。
柞刈湯葉さん『ヴィーガンの思想は自動的に「動物に対する反出生主義」である』の視点、目が開かれる思いがした。これだから『水曜日の湯葉』購読はやめられない。万人にお勧めしたい。
交換は善であり、然である。ダイバーシティは静的なものであって、インター/トランスの動態で物事を見つめたい。
水曜に祝日がある1週間、なんか毎日頑張れるな。休符の使い方に個性が現れる。
🍵今の関心事
時代精神/zeitgeistをいかに掴むか。世界情勢、政府介入の行き先と力感、労働の行方、人口構成、社会的価値観、研究・技術の6要素をバランスよく見つめなくてはいけない。
二項対立的思考と二項動態的思考をいつどのように組み合わせるか。
市場の幻想に捕らわれたクライアントを、いかに顧客という現実に引き戻すか。そのために私自身の在り方をどう発展させるべきか。
12月以降のお仕事を、誰とどんな風に進めていくか(ご相談待っています)
🥑活動報告
先週の東京出張で毒展@国立科学博物館、ピカソとその時代@国立西洋美術館にいってきました。カビが生み出す毒の強力さ、毒がもたらした生態系の多様さ、アイヌの毒矢を使った狩りの工夫、パウル・クレーの作品が生み出す豊かさに圧倒されました。感性を鍛えよう。
直近ご相談頂いていた案件3件がいずれも来年以降の実施へと後ろ倒しになって、このままいくと12月末まで少しゆっくり出来そうです。嬉しいと同時に、また案件を探していくぞ、の気持ちです。
今週も、Happy Weekを:-)