こーべ通信:ホンモノの仕事には魂が必要
BCG同期祖父君、テプラPRO、存在しない市場で1兆円企業、台湾という焦点、北米大陸とイスラム海賊、ポーランドの成長、芸術参加でアンチエイジング、茨木のり子全詩集、軽熱中症。
ナフサ調達の問題がいろんな所に波及しており、カルビー・ポテチのパッケージが白黒になったりカゴメケチャップの包装がシンプルになるらしい。見えやすい変化なので、ソーシャルメディアを見るといろんな人が好き勝手コメントしている。ペットボトルでもラベルレスが好まれているし、意外と新スタンダードとして定着するのかもしれない。自然圧力は余剰を省く方向に働く。
(日経:カルビー、ポテトチップスなど白黒包装に インク不足で伊藤ハムも検討)
カルビー社内で最初に「パッケージを白黒にしませんか?」と提起した、文字にした人は本当に偉いとおもう。いま実行・公表に至ったということは中東でゴタゴタっとなった2月末からすぐに検討や社内営業を始めたはず。マーケや製造、品質管理など各種部門に仁義を通し、白黒化後にデザイン要素の何を残し何を消すかを早々に決めて発注先に通達・協議、消費者に妥当な説明ストーリーをつくりつつ収益が減らないように最大限工夫をするのは骨の折れる仕事だ。ホンモノのお仕事の一つだと思う。
この出来事を引き起こした張本人のひとり、米大統領は9年ぶりの北京会談に臨んでいて、とんでもない数の米企業代表が同行していることで話題になった。イーロン・マスク、ファン・ジェンセン(NVIDIA)やティム・クック(Apple)、金融界のラリー・フィンクやデイビッド・ソロモンなど。彼らはどんな気持ちで極東に足を向けたのだろう。
私人としていろんな信条があるだろうに、いろんなものを飲み込んで笑顔で写真撮影に応じ、怒りを隠し、晩餐会で味のしない飯を食い、株主に批判されないように各方面に筋を通し続ける仕事。
「職業人としてのプライドは無いのか」と批判することは簡単だが、本人が一番わかっているはずだ。彼らがやっているのも、私からするとホンモノのお仕事の一つである。
先週読んだ「頭がいいならなぜそんなに貧しいの?」が心に残っている。勉強ができることとカネ稼ぎ能力はほとんど無関係だとする記事だ。貧しい天才もいれば、大富豪の愚者もいる。貧しい愚者もいるし、ハイパー賢い大富豪もいる。当たり前のことだ。
その前提に立てば、大富豪に必ず知性を求めるのは的外れで、知性溢れる人ならとんでもない金融資産を持っていると考えるのも誤りだ。因果・相関はあるのかもしれないが、偽陽性・偽陰性があまりに多い。
IQが収入の分散を説明する割合は1〜2%にすぎない。スウェーデンの5万9千人追跡研究では、年収約5万ドルを超えると認知能力は収入と無関係になり、上位1%の高収入者のIQスコアは収入が半分の層とほぼ変わらない。本記事では、試験・テストで発揮される知性と、摩擦・利害・金銭の中で機能する知性の差を軸に論を展開する。システムの不公正や不備を見抜く知性が、最適行動の代わりに批評・皮肉に転じてしまい良い仕事・収入にパターンも描かれている。知性とカネ稼ぎの才能は、明確に別物なのだ。
摩擦・利害・金銭の中で機能する知性。これはなんなのだろう。
そのもの自体はわからないのだけれど、BCG新卒同期の祖父君が書かれたブログを読み、結局良い仕事をするために必要なのは幸運への感謝と克己の念なんだと思っている。今月、105歳で亡くなられたとのことです。ご冥福をお祈りします。(日経:多田野弘氏が死去 元タダノ社長)
「命を見つめて生きる」とは、かつて私が過ごした、3年間の戦場における生き様そのものと言ってよいだろう。数え切れぬほど死ぬ目に遭ったエピソードは、幾度か記した。さらに詳しく述べてみたい。
その戦場とは、太平洋戦争で日米両国が最も激しく戦った、ラバウル・サイパン島・ペリリュー島・フィリピン島である。その3年間に戦った日本の将兵は、おそらく何十万人もいただろうが、今、生き残っているのは、104歳の私ひとりではないだろうか。それゆえ、今回のテーマに真剣に取り組んでみた。この四戦場では、毎日が命を見つめて生きていた日々だった。…(中略)
戦場の3年間は、極限の中で命を見つめて生きたと言える。その中で一番大きな収穫は、自分が魂の存在であるのを知ったことである。以来、私の考え方・生き方が、魂主導に一変した。言い変えると、苦しみが大きいほど乗り越えた喜びが大であることを悟り、克己の生活が始まったのである。
戦後、生かされた命に感謝し、困難に立ち向かった克己の日々は、私をこの上ない幸せ者にしてくれた。その天恩に感謝してやまない。
仕事をしていると、理不尽や不思議なことがたくさんある。
それを不満に愚痴を言ったり、告発して誰かに押しつけたり、無責任にまるっと投げ出すことは本当に簡単である。しかしその簡単さに靡いていると、いざというときに天恩は訪れず、簡単に脚が土俵からはみ出てしまう。
最近読んでいる『薔薇の名前』には、数学や実験の重要性を説いた経験科学の先駆者である修道士、ろじゃー・ベーコンの名前が頻繁に登場する。神と科学は両立する。
私が尊敬してやまない職業人はみな、論理の往く果てで不条理に出会ったとき、「これも魂の導きである」と受け入れ、努力し、困難を前にして自らを高め、物事を前に進めようとする人たちである。利に聡いだけの、リアルバリューやなんちゃらの虎みたいな似非事業ばかり観ている人とは魂のレベルで異なるのだ。感情煽りと喧嘩は意味も価値を生まない。
戦略コンサルティングという論理の殿堂のような場所からキャリアを始めたのだけれど、歴代の名経営者がみなスピっていく理由がなんとなくわかるようになってきた。ロジカルにやるところまでやると、あとは祈るだけになる。勝負所では結局、魂のレベルを上げて、胆力を磨くことがすべてだ。高額な壷や数珠を買ったりすることなく、まともなスピ道を進んでみようと思う。
お便りをお待ちしています。
💼心惹かれたもの
テプラ PRO:整理整頓を進めようと思うとなんだかんだテプラが一番。スマホ連動が便利。電池駆動で持ち運びやすいのもよし。 link
馬刺し:厚くなってくると食べたくなる。冷凍でまとめ買いするのが好き。馬刺しは体を冷やす、と言うけれど本当なのだろうか。 link
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
存在しない市場で1兆円企業をつくった男:ハリソン・マッケインはカナダの農業地帯から出発し、だれもつくったことがない冷凍フライドポテトに賭けて一大企業を築いた。家族資金100万ドルを元手に、株式を一切手放さず、輸出で資金を稼ぎ工場を徐々に広げていく。米国市場には創業の16年後に参入、類似業種・オレイダのフードサービス部門を5億ドルで買収しての参入だった。亡くなった2004年時点で6大陸に57工場を持ち、160カ国の販売網、毎時100万ポンドの加工能力。すごい。議論より実証を優先し、競合の不在を先に取り、数字が出てから規模を拡大すること。真の事業家がここにいる。 link
中国で起きている『結婚・交際に対する資産評価モデル投影』:記事の主人公は、中国の婚活市場で110万人と同じ名前・王偉を持つ28歳のフォックスコン工場労働者。年収わずか約42,000元(100万円弱)。農村部で結婚するには車・アパート頭金・彩礼で50万元近く必要とされており、一度その数字を知ってからは交際に奥手になっている。しかし、毎晩行っているのはライブ配信者への課金。記事に掲載された、出会い系アプリで彼がもらった実際の拒絶メッセージは、告白してきた男性の容姿を著名俳優と比較し、「私にメッセージを送ってくること自体が失礼で侮辱的」だと突き放すものだった。告白を”相手の市場価値への空売り”と見なす論理が、愛情と経済合理性と儒教的恥が一体化した市場の構造を凝縮している。資産評価モデルとしての結婚。link
世界の先端半導体90%を握る台湾という焦点:今回の米中会談でも話題の中心であったはずの台湾を守るのはTSMCという巨大企業。世界の最先端半導体の約90%、AI訓練用チップの99%を製造する。台湾からの輸出が止まれば、先端コンピューティングに依存する全産業が直撃を受ける。スタンフォード・フーヴァー研のフライマンはここを”世界で最も危険な地政学的焦点”と呼んでいる。地理的には第1列島線、政治的には習近平の国家復興遺産。中国は侵略しなくても海上封鎖で台湾経済を締め上げられると判断している。シリコンシールドは抑止になるが、封鎖に対しては無力である。台湾有事を想定している企業は多いけれど、ゆっくりとした経済締め上げを読み取れる企業はどれほどあるだろうか。 link
コロンブスより先にイスラム海賊が北米に到達していた:ここ最近お気に入りのニュースレター、”Lost Futures”の記事。古くは1510年代、セネガンビアのイスラム教徒が奴隷貿易で大陸に連れてこられたと言われている。1528年、モロッコ人エステバニコがフロリダに上陸し、イスラム系起源を持つ最初の米国到達記録者となった。ただしこれは遠征隊を通じた到達で、イスラム旗を掲げた最初の航海は1624~1626年と想定される。モロッコのサレとアルジェリアの私掠船隊がニューファンドランド沖のタラ漁場に到達し、フランス漁船40隻以上を拿捕したこともわかっている。1610年のスペイン追放モリスコ難民と欧州人海賊がサレで合流し、大西洋型帆船と多国籍乗組員が組み合わさった事業だった。北米大陸とイスラム教の初の交わりのように、これまで考えたことが無かった視点をくれる最高のメディアだ。 link
貧困国ポーランドが世界20位にまでのし上がった理由:1989年当時のポーランドは、肉と砂糖を買うには配給券が必要で、賃金は西ドイツの1/10水準だった。そこから40年、現在のGDPは1.4兆ドルで世界20位にまでのし上がった。EU加盟後の年平均成長率3.8%(全体平均は1.8%)で、EU平均比の1人あたりGDPは1990年38%から2025年85%まで成長し立派な中堅国に。この要因として、経済学者・ピョンツコフスキは独立した司法、独占禁止精度の早期整備、共産時代に底上げされた教育水準を挙げている。若者の半数が大学の学位を持ち、低賃金と高教育が自動車やIT関連など多様な海外投資を呼びこむことになった。電動バス市場の欧州シェア15%を握るソラリスは、後発の小規模企業による先端産業参入の典型例でもある。次は少子高齢化と賃金低迷を、EU加盟効果の終わりまでにどう乗り切るかが論点になっている。link
朝鮮学校で50年教壇に立った父と、20年後の自分:五常創業者・慎さんが最近観た韓国ドラマの引きつつ語るご自身と父君の記憶。在日コリアン二世・三世が背負った20世紀後半の歴史、そして日本型サラリーマン社会への適応を重ね合わせたエッセイ。このドラマは、囲碁しか知らずに育った青年・チャン・グレが、大企業の総合商社に契約社員として入り、企業社会の論理を学んでいく話。タイトルの『未生』は囲碁用語で「まだ生き切っていない石」を意味する。私は将棋派なのだけど、最近仕事で感じていることもあり、心に深くくるものがある文章だった。自らを活かすために、環境と繋がろう。 link
湾岸諸国はなぜイランに反撃しないのか:湾岸6カ国は年間約1,300億ドルを軍事費を投じる強烈国である。これは英仏の合計に匹敵しイスラエルの3倍規模、F-15もラファールもパトリオットも持っている。しかし、イランと代理勢力の攻撃に反撃しない、それはなぜか。著者の仮説は二つ。君主たちが自国軍を信頼していないこと(装備はあるが本当に戦えるのかを疑っている)。もう一つは、軍事支出が体制維持を目的にしており対外的戦闘を最初から想定していないこと。なるほど、その国にはその国の事情がある。 link
芸術参加が生物学的老化を遅らせる:UCLが3千人超の中高年を追跡し、芸術活動への参加頻度と生物学的老化速度の相関を測った。月1回以上参加する群は、参加しない群と比べて生物学的年齢が0.8〜1.02年若いという。エクササイズや禁煙より効果が薄いが、無視できない数字ではある。美術館に行く、合唱団に参加する、楽器を弾く。健康介入の文脈でこれまで二流扱いされてきた行動が、エビデンスの方向から見直されつつある。たくさん歩き、美術館に脚を伸ばそう。 link
AI時代、戦略家の”知性”は不要になるのだろうか:元大企業CSOの著者は、戦略に纏わる労働・業務市場が崩壊するのではなくむしろ整理されつつあると言う。AIで分析時間が短くかつシャープになったことで、市場には実証済みの具体的な知性と、特徴のない汎用的な知性の二極化が生まれている。戦略家が生き残るために三つ。曖昧な役割説明ではなく明確な信念を表明すること。戦略そのものでなくクライアントの具体的な課題への解決策を提示すること。AIが苦手な現場の人間観察と深いインタビューで、平均化された知性では届かない文脈を取りに行くこと。AIの普及で戦略職が消えるのではなく、好き嫌いや特徴がない戦略家から先に消えるていくのだ。私もそう思う。 link
好奇心を仕事に:アイデアに身を委ねた人だけが深い場所に行き着ける時代である。インターネット登場以前の本を読み、何かに執着する人の近くに身を置き、公開の場で積極的にリスクを取ろう。好奇心は性格で規定されるだけない。環境作りでなんとでもなるものだ。情報摂取の平均化を断とう。断つものをきめよう。良い仕事をしよう。link
📙本
薔薇の名前 下巻:ウンベルト・エーコ自身が執筆後に書いたエッセイが収録されており、なぜこの作品を書いたのかという問いに対して「殺したくなる修道士に会ったから」と応えていた。迫力溢れる執筆理由だ。 link
茨木のり子全詩集 新版:最近の岩波・世界には毎号茨木のり子の詩が一篇掲載されていて、どれも心に残る内容だったので全詩集を買いました。打ちひしがれたとき、静かに読み込みたいと思う。 link
江戸にフランス革命を!:何かの記事で引用をみかけ即座に購入した本。歌舞伎を契機にいろんなことを考える。東大の五月祭中止で話題になった週末に橋本治の本を読んでいたのは何かの縁なのかもしれない。 link
その過去を、過去の持つ呪縛をもう一度改めて解き放つ為にも、人は今改めて、既にして呪縛を纏い終えている自分自身の現在を明確に自覚すべきなのだ。その自分自身を覆う呪縛から自由になる為にも、人は再び、それぞれの呪縛を明確にする意匠を纏うべきなのだ。
“過去”の持つ意味とはそのようなものだ。それを終えて、人は初めて、”過去”という名の”美”を手に入れることが出来る。
もう一度言う、人は意味の無いものに憧れたりはしない。知りたがったりもしない。
人はただ、己にとって”意味”のあるものを探し求めるのだ。そして、その意味を見つけ出す手掛かりを持たないものは、その意味を秘めた形象の前で、ただ痴呆のごと
くに行むのだ。
“それだけのこと”でしかないことの持つ”意味”は、とんでもなく深く、”それだけのこと”のもつ意味を理解しない人間は、あまりにも多い。 (p18)
📻観た/聴いた
プロジェクト・ヘイル・メアリー@Prime Video:今年公開の映画がもうサブスクに登場。しかしこの作品、やっぱり大画面・迫力音響で観るのが一番だと思う。紹介文のネタばれっぷりがすごいのだが、これを読んでから原作小説を読むのはむしろ楽しいのではないか。 link
理科の教師であるライランド・グレースは宇宙船で目覚めるが、自分がどんな人間か、どうやって宇宙船に乗ったかも覚えていない。記憶が戻り、太陽が消えかけている原因の謎の物質を解明するという任務が明らかになる。地球上の全てを絶滅から救うために、自身の科学知識を駆使しなければならない。だが任務のさなか、意外な友情が芽生える。
🧩感じた/感じている
もう、カネ稼ぎを目的としてがんばることはないだろう。カネが絡んでいたとしても、別の目的が見いだせない仕事なら、はっきりと断ることになるだろう。いい時期が来た。不惑が近い。
毎日何かを始めよう。あたかも、毎日翌日が月曜日であるからのように。 link
🍵関心事
熱中症なしにこの夏たっぷりテニスを楽しむ方法。改めて気づいたのだけれど、テニスは私にとっての精神安定貢献アクティビティです。走って打って。没頭と克己。
米中会談後の湾岸でどんな動きが起きるのか。今週の株式・債券市場はどう動くのか。世界的に長期金利がとんでもない水準になっているいま、何が起きてもおかしくない。
将棋・名人戦は藤井聡太名人の四連勝で防衛が決定。敗れた糸谷先生はこのシリーズをどう振り返るのだろうか。らしさ溢れる棋譜を4つ残していただきました。
🥑活動報告
来年1月からの活動計画を立てています。いまよりもっと自由に色々できるようにしたい。垢を落とし、澱を雪ぐのが先決。いい仕事をすることにまっすぐ向き合いたいですね。
お便りをお待ちしています。


