こーべ通信:元気は自分のためならず。
グリル野菜、”Date My Friend”、AIを前に進めるのは1人会社、完成前に陳腐化、バカにみられる勇気、啓蒙思想2.0、ハイペリオン、Contrasto NYC、棋士編入試験、モンテカルロ・マスターズ、問いマップとライブラリ。
おはようございます。田中志です。先週、山梨からロングドライブで神戸に戻ったきたのですが、静岡に抜ける山中を走っていたら木々から花粉が隆起するさまが観察できました。ヒノキ花粉はピークとのこと、皆さまご自愛ください。
スタンフォード大の『おべっかを使うAIは向社会的意図を低下させ、依存を促進する』研究がScience誌に掲載されました。AIに限らずおべっかを使う人間も周囲に悪影響を及ぼすので、する方もされる方も注意しましょう。今週から社会人となる皆さま、彼らと関わる友人・知人全員へのアドバイスです。
今回は、先週の出張先で立ち寄ったスーパー銭湯、フロントから浴場に向かう通路で見かけた自販機の話から始めます。朝からラップトップPCにへばりついてヘトヘトに疲れた夕方に見かけた、なんてことのない普通のロッテ・アイス自販機です。
この並びをみて何を思いますか?わたしは骨の髄からコンサルタントなので、ひとめ「気持ち悪い並びしてんな」でした。
クーリッシュ5、モナ王チョコ3、苺2、バニラ・あずき1ずつの合計12パネル。なぜクーリッシュを上下分離するのか。なぜチョコ3パネル・苺2パネルを斜め・たすき掛けにするのか(しかもあずきと苺の色が微妙に近くて誤選択多発しそう)。謎はつきません。まとめて整理しろよ、分散させるなよ、担当者仕事しろよなといらつきながら大浴場に向かいました。
通常比10倍の濃度らしいお湯に浸かり疲れを溶かしていると、ふと、あの並びは優しさの結果なのかなと思い始めました。たとえばこんな感じ。
未就学児でも自分でボタンを押せるところにクーリッシュを置いておきたかったのかな。スーパー銭湯を訪れた家族連れ、抱っこなしで、子どもに「はい、押して」→がこんとクーリッシュが出てくるという経験を与えられるのっていいな
あずきを類似色の苺パネル近くに置くことで、子どもに苺をねだられるも小豆の気分だったお母さんが「あ、ごめん。間違って押しちゃった。でもおいしいよ」で押し切れるな。不思議パネル並びがミス偽装の責任を引き受けてくれるから
なにが正しいのかはわからない。↑に書いたような担当者配慮の成果かもしれないし、『パネルは雑配置の方が売れる』という原則があるのかもしれないし、商品入替の度にパネル位置を整理するのが面倒くさくなった結果なのかもしれない。自販機はただ無言で立っているだけだ。
解釈はこちらに委ねられています。世の中のたいがいのことは、解釈を一つに絞ることは出来ないし、そうすべきでもないし、もちろんその必要もない。他人に押しつけて迷惑をかけない限り、自由な解釈を採用すればよいのです。解釈を選べるのであれば、できる限り気持ちの良いものを選ぶべき、が私の信念です。広まってほしい、気持ちの良い信念です。
疲れたりイライラしていると、ダメな解釈に引き寄せられる。お風呂に入る前の私がやってしまったように「(知りもしない)あいつはダメだ」というものである。私はがんばっているのだ。それに比べて周りの人は・・・となりやすい。そんな自分を正す理性後からも残っておらず、足りない頭を使って自己正当化を始める。負のループである。
いまは、誰もが認知負荷を引き受けねばならない時代です。政治も企業もインフルエンサーも、DDOS攻撃にも似たマーケティング業で私たちの注意力を麻痺させ、稚拙なメッセージや教義を信じさせようと必死に売り込んでくる。結果、どんなに賢く理性的な人でも、とんでもないバカ・アホになる瞬間が日に何度も訪れることになる。先週日曜日にラガーディア空港で起きた痛ましい事件は、人間の注意力には絶対的な限界があることを示している。どんな仕組みやシステムも、心身が疲れた人をミスから救うことは出来ないのです。
私たちに出来ることは何があるでしょう。まず、元気でいることだと思います。元気を保てていれば、理性が動き出し、他者に寛容に、優しくなることが出来ます。(経済学の言葉で言うなら、認知・元気は外部効果を持ちます)そのために、しっかりご飯を食べ、体を動かし、夜はしっかり寝ること。どれが欠けてもいけません。私は、どれか一つでも欠けた状態で働くビジネスパーソンを一切信用しません。彼・彼女が持続的に正しい意志決定を行う確率は限りなく低いから(なお、遺伝子レベルのショートスリーパーは人口の約0.004%しかいません。寝ましょう)。
心身が元気であることは、あなた自身にとって大切であることは言うまでもありません。さらに、あなたが元気であることは、周りの人にとっても同様、ときにそれ以上に大切なのです。元気は自分のためならず。今日もしっかりご飯を食べ、歩いて職場に向かい、夜ははやく寝るようにしましょう。「春眠暁を憶えず」を体現する皆さま、それも人の為なのです。
花粉症、おべっか使い、元気であることについて。お便りをお待ちしています。
💼心惹かれたもの
グリル野菜:出張滞在先にオーブングリルがあり、日々いろんなものを突っ込んで食べていたのだけど、玉ねぎ・人参・じゃがいもを乱暴にいれて乱暴にグリルするだけで大満足の食事になる。Back to Basic.
浜松餃子:サービスエリアの昼食。大堪能やらせていただきました。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
「自分を売り込まない」出会いの設計 : NYで”Date My Friend”というイベントが大人気、全回完売しているという(著者が参加した会でも少なくとも2組のカップルが誕生したらしい)。その名の通り、自分ではなく友人を他人の前で紹介する。それだけの仕組みである。マッチングアプリが敬遠される理由は単純で、自己PRは過剰か過少の二択になること。友人を介してこの歪みを消すことが出来る。アプリが孤独を数値化する時代に、おせっかいが静かに巻き返しているのだ。 link
知性の看板を掲げたスポーツ賭博 : イラン有事やAI自動取引の盛り上がりを契機に、予測市場の盛り上がりが多く報じられている。選挙結果やGDP成長率を予測する知的マーケットプレイス、そういう触れ込みだ。しかし取引の大半はNFL(アメフト)とNBA(バスケ)などスポーツ領域で、資金面でのシェアは9割にも上る。2024年大統領選で脚光を浴びメディア価値が賞賛されたKalshiもPolymarketも、興奮が過ぎ去った後はただの『合法スポーツ賭博所』と化している。”予測”の大義を掲げれば規制のハードルが下がり、賭博のレッテルを回避できるというのは賢い命名戦略かもしれないが。スポーツ・ギャンブルにかなり近いところにいるDeNAやmixi、サイバーエージェントは間違いなく日本版の実現を仕込んでいるだろう。なお経産省は、”スポーツDX”のタイトル下でスポーツ賭博を報告させている。この命名は不誠実が過ぎるだろう。 link
1人会社に44万ドル、中国のAI国策 : 中国の地方政府が、AIを活用し産業のAI浸透を促進する一人企業に最大44万ドルの補助金を出し始めた。蘇州市は2028年までに1千社育成(創業者1千名)を宣言。上海浦東新区はGPUなどの計算コストを30万元まで負担する。大企業に投じると利幅確保で動きが鈍り速度が出ないからこそ、むしろ個人事業主を狙ってとにかくスピードに全振りする。官僚機構をまるごとスタートアップ支援に動員するやり方を見ていると、シリコンバレーが規模で負けるイメージが浮かぶ。これまで産業変革を大企業や投資家に求めていたが、いよいよ1人会社の時代がきたのかもしれない。 link
『中国の世紀』論を唱えていた著者自身が撤回 : 米国のエコノミスト、ノア・スミスが自身の中国楽観論を撤回し始めた。北京が主導する産業政策の早期限界、AIエージェントによる技術優位の脆弱化、習近平の疑心暗鬼、トランプの軍事行動が露わにした中国軍の限界。4つの論点を並べて、10〜20年後の失速リスクが高まったと述べている。。 link
誘致に補助金→撤退に補助金の米エネルギー政策 : 米トランプ政権が仏・TotalEnergiesに10億ドルを支払い、大西洋上の洋上風力プロジェクトを中止させた。再エネを推進するのではなく、むしろ撤退させるために巨額を出すというのは日本人感覚からすると信じがたい事態である。誘致しつくってもらうのにも補助金、止めるのにもさらに補助金。エネルギー政策が技術的合理性で動いていた時代は終わり、政府・行政との取引により前進も後退もする時代が到来した。さて日本。三菱商事は撤退した一方、BPを組むJERAは前進を続ける。政府は背中を押すか、背中を打つかのどちらかである。 link
ドローンの攻撃先はデータセンター : 3月上旬、イラン軍のドローンがUAEのAWSデータセンターを攻撃。ハイパースケールクラウドへの軍事攻撃は史上初である。GAFAM各社は地域の安定を信じて湾岸に巨額資本を投じてきたが、それは空想として崩れ去った。中国とのチップ輸出揉めは迂回貿易でなんとでも出来たが、サーバールームに直線で向かってくるドローンを止めることは民間企業には不可能だ。地政学リスクを資本力で上書きできるという前提そのものが、煙と一緒に消え去った。 link
完成前に陳腐化するデータセンター : もう一つデータセンター話。NVIDIAのGPU新製品サイクルが2年→1年に縮んだ。一方でデータセンターの建設には数年かかり、この時間差は解消しえない。話題になったOpenAIとオラクルが主導したStargate計画は、建設中に最新GPUとの乖離が拡大し2026年に中止。Googleは自社TPU開発で垂直統合を選び、外部のデータセンターに依存しなかったが故にこの罠を回避出来ている。投資判断の速度とインフラの物理的制約の間にある溝が、AI産業の新しいリスクカテゴリになりつつある。拙速、がこんなに当てはまる事象もない。 link
協力が責任を消滅させる仕組み : 1944年にマーシャルが実際の戦場をあるき調査したところ、歩兵の15〜20%しか銃を撃っていないことに気づき驚いた。8割の兵士は全く仕事をしていないのだ。80年後の今、この比率は著名テック企業の中をみてもほとんど変わらない。NotionやSlackが着実に浸透し、可視化された環境で”協働”が推奨される事で、一部の人がハッスルし周りはそれに乗っかることが常態化してしまった。コラボレーションが目的化すると、失敗はプロセスのせいになる。個人の責任は組織の中に溶けていってしまう。会議の回数が増えるほど成果は落ちるというブルックスの法則、その強固さにはほとんどのサラリーマンが同意してくれることだろう。協力は美徳ではない。責任の所在がわからない協力は、一部の勇敢なファイターが支えているのだ。 link
会社の承認層が1つ増えると速度は1/10になる:これは精神論でもなく、努力でなんとかなる話でもない。待機時間を考えた現実的計算の結果である。数十名の中規模チームであっても、なぜ方針変更に何四半期もかかるのだろうか。AIがコードを瞬時に書いても、人間の承認にかかる時間は1秒も縮まないのだ(参考:ザ・ゴール)。レビュープロセスの完全排除はもちろん不可能だが(責任をとる=本物の人間の仕事なので)、速度を上げる方法はひとつしかない。レビューの回数を減らし、製作者や現場に任せることである。組織図に構造を一つ増やす、プロジェクト体制に謎のアドバイザーを1人加える度に、10倍遅くする価値があるかを確認したほうがいい。 link
疲労の正体は休息不足ではなかった : 疲れたら休む。直感的に正しいこの判断は大きな誤解。普通の人が普通に行うレベルの運動は、体力を消耗するのではなくむしろ生成する。「疲れているから動かない」は「貧乏だから投資しない」と同じく非理性的な選択だと。テニスでも散歩でもよい。身体を動かす30分が一番安い疲労回復投資である。なお、カフェインは回復ではなく借金ですって。借金しすぎないように。 link
バカに見られる勇気が唯一の防御壁 : Appleでマッキントッシュを開発したチームの平均年齢は21歳。Xerox PARCも同じように、若者たちが開発をリードしていた。若く、周囲の期待値が低い人間ほど、愚かに見えるアイデアを恐れずに出せる。しかし成功したり年齢を重ねることで、この自由は消え去ってしまう。ノーベル賞受賞者が受賞後に小さな問題を避けて大成果を急ぎ、業績が落ちるパターンをリチャード・ハミングが記録している(リチャード・ファインマンも同じようなことを感じ、その後「積極的無責任」を体現するに至る)。あなたの組織で最後に”愚かなアイデア”を口にしたのは誰だろう。彼・彼女を褒めて上げるべきだ。 link
📙本
啓蒙思想2.0:人間は合理的に考えられる、という前提そのものが間違っていた。カナダの哲学者ヒースは、認知バイアスまみれの脳を抱えた我々が”それでも正気を保つ”ためには環境を整えるしかないと断じる。あまりにも不確かな個人の理性に賭けるのではなく、集団として理性が機能する環境をつくれと。488ページの重量級書籍だけど、読後に見える景色が変わる。感情的な時代、感情を否定せず環境から考えようというまっすぐ思想。 link
盤上の海、詩の宇宙:七冠達成直後の羽生善治と、現代詩の巨人・吉増剛造が「考えるとは何か」を語り合う対談集。将棋と詩、一見すると接点がないが、ふたりは不思議に通じ合っているようにみえる。羽生先生の語りが若々しい。分野が違う達人同士の対話が、単独では到達できない場所に届く好例、いい対話だった。 link
ハイペリオン:28世紀、7人の巡礼者がそれぞれの物語を語りながら、謎の存在シュライクが待つ惑星へ向かう。チョーサーのカンタベリー物語を骨格に、キーツの詩を精神的支柱に据えたSF。6つの挿話がホラー、恋愛、戦記、ハードSFと全く違うジャンルで独立して機能する不思議な読み心地。SFの皮をかぶった文学、あるいは文学の皮をかぶったSF。どちらでもいい。とにかく読んで!としか言えない一冊。 link
📻観た/聴いた
Gastro Obscura:世界中の珍しい食べ物を紹介するインスタアカウント。子猫のような形をしたシュークリームや、爆発する惑星のような形をした果物まで。 link
Contrasto NYC:ポッドキャスト・声ファンの上出さんがニューヨークでオープンした登山グッズのお店。こんな世界観で、テニスラケットやバッグを売る店やりたいな。可能性あるはずなんだよ。 link
🧩感じた/感じている
今年の花見予定がゼロなのは、週末にテニス予定を入れすぎているからかもしれない。
私は『妥当な極論』が好きで、『荒唐無稽な正論』が嫌いである。
どんな主張も、既存前提への反証から始めるべきだ。誰かに対して疑問や反対を合理的に述べ、自分に向けられる反対や疑問に対して頑健に対抗することから始めるべきである。反証のない主張は結局宙に浮いたままで、誰にも拾ってもらえない。
🍵関心事
将棋】先週金曜に行われた棋士編入試験第三局で福間女流五冠が敗れ、試験官の三連勝で幕を閉じました。女性棋士の登場は次の機会にお預けです。初の女性棋士は、奨励会三段リーグから出るのか、はたまた編入試験から出るのか。若手全盛のいま、現行制度の編入試験を通過するのは至難の業。どうなることか。
テニス】今週のモンテカルロ・マスターズでクレーシーズン入り。6月の全仏に向けて誰が伸びてくるか。仏・フィスのファンになりつつあります。
🥑活動報告
もう少し仕事の発信もしないとなと、noteをまたがんばり始めました。3日間同じことを手を替え品を替え書いています。月500円くらいの1人会社リアルを伝えるメンバーシップもやります。ご期待ください。
3/27金:現場判断を「義務」にしよう
3/28土:現場の若手を、ただの処理係にするな
3/29日:火傷し続ける組織
Cobe Associe自社HPで、読んだ本や記事のライブラリと、それら踏まえて頭にある問いマップを公開しました。どっちも面白い仕上がりです。
4月真ん中からプロジェクトが1つ追加。ヘルスケアど真ん中のお仕事です。がんばります。
みなさまから、春のお便りをお待ちしています。





