神戸からおはようございます。
このニュースレターはいま134名の方が登録してくださっています。いつもありがとうございます。登録は↓からです。
先週から詩集「みじかい髪も長い髪も炎」を読み始めています。大好きなPodcast、いんよう!の中で紹介されていた本で、自分と年齢がそれほど変わらない詩人・平岡直子さんが紡ぐ31字の世界の奥行きの深さに、日々圧倒されています。
思えば、これまでの人生で詩というものにまともに触れたのは義務教育の国語の時間くらいで、「よくわかんねぇなぁ」という感想以外を持った記憶はありません。俳句や短歌から豊かな世界を想像する土壌も持ち合わせていなかったし、古文や漢文の授業で扱う詩句から受験テクニック以上の何かを吸収しようとする意図など持つベクもありませんでした。
しかしいま、形は違えど話し言葉・書き言葉で勝負する仕事をして、言葉や表現にアンテナを張る生活をしていると(このニュースレターを書くことも、いまや生活の一部です)、詩の中で扱われる日本語の迫力に、文字通り言葉を呑む瞬間があります。
茨木のり子さんの有名な詩、「自分の感受性ぐらい」です。
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか苛立つのを
近親のせいにするな
なにもかも下手だったのはわたくし初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄自分の感受性ぐらい
自分で守れ
ばかものよ
これを読んで、「他人のせいにせず自責で!」のような教訓を抜き出すくらいなら、小学校4年生でもできるでしょう。さて、自分が書き手なら。気難しさをしなやかさという文脈の中で捉えることができたのか。だめなことを「そういう時代だから、環境」で終わらせないことを尊厳と呼べるだろうか。最後「自分の感受性ぐらい 自分で守れ」と書いた後に、一般に発表する詩の結びとして、「ばかものよ」と書けるだろうか。
昨年開かれた個展にあわせて詩人の最果タヒさんが西日本新聞のインタビューに答えているんですが、言葉そのものを探すのではなく、意志を先回りする、ということをおっしゃっていました。同時に、共感を目指さないことも。
「自分の頭の中にあるもののために言葉を用意するのではなく、意思を先回りしている言葉を追いかけていく。すると、言葉の奥行きに触れられるんです。そんな時、詩はダイナミックになります」
「自分自身の言葉ではなく、共感されやすい言葉をみんなが積極的に発しているのではないか」
「自分の感性を通過しない言葉で人を傷つけているから、相手がどう思うのか想像が及んでいない」
どの詩人だったか忘れてしまったのですが、「私は自分の言葉を社会に溶かしていきたい」とおっしゃっていた方がいたのを記憶しています。社会をかえるでもなく、共感を生むでも、訴えるでもなく、ただ溶かしていく。そんな姿勢で、言葉を使っていきたいですね。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
りんごの絞りカスでできたフェイクレザー:デンマーク・コペンハーゲン発のプロジェクト、Leap。美しいです。品切れになっちゃっているんですが、再販されたらサンプルボックス(€39)を買ってみたい。 (link)
研究者にはびこる不正:Scienceに掲載されたオランダからの報告。科学者の半数以上が定期的に疑わしい研究に従事しており、全体の約8%が過去3年以内に研究結果の捏造・改ざんを行ったと認めています。 (link)
2021年のビデオゲーム業界レポート:米国の業界団体ESAの調査報告書。米国単体で2.3億人のプレイヤーがおり、大人で2/3、18歳以下で3/4が週1回以上プレイしているとのこと。 (link)
半導体不足の解消には数年かかる見込み:昨年から続く半導体不足ですが、Intelは、今後数年は同様の傾向が続くのではないかと見込んでいます。“it could still take a couple of years for the ecosystem to address shortages of foundry capacity, substrates and components.” (link)
シリコンバレーを越えようとする6つのテックハブ:深センやテルアビブはよく聞くかもしれませんが、ナイジェリア・ラゴスやブラジル・レシフェは初耳でした。 “Each has its own story and a set of unique factors behind its rise. What they all do carry is a measure of the Silicon Valley myth: The idea that, if you want to make it in tech, you need to be there.” (link)
オピオイド問題は解決できる:2020年の米国での薬物過剰摂取による死亡者数は9.3万人と過去最高となりました。オピオイド問題はずっと社会問題です。供給制限、保険カバレッジを含む治療プロセスの改善・強化、注射器再利用制限などのハーム・リダクション(恥ずかしながらこの概念に初めて触れました)、根本原因である貧困などへの対処。バイデン政権はいずれも政策として打ち出しており、実行が問われています。 (link)
オリンピックの予算管理とプロジェクトマネジメント:オクスフォード大学の研究者から今年出てきた論文。1960年以降のすべてのオリンピックは平均172%も予算超過している。オリンピックのコストとコスト超過率はべき乗分布に従っており、Irreversibility, Fixed deadlines, the Blank Check Syndrome, Tight coupling, Long planning horizons, an Eternal Beginner Syndromeという6要因がその発生要因として作用している。 (link)
COVID-19流行がデンマークのCEOたちに及ぼした影響:the Copenhagen Institute for Futuresの研究。CEOの世界観がよりヒューマニスト的になり、社会的ウェルビーイング、従業員脆弱性、メンタルウェルビーイング、地域コミュニティの一員であることの重要性により焦点を当てるようになったことが明らかに。 (link)
技術楽観主義(テクノオプティミズム)とは:技術とそれがもたらす未来を盲目的に信じることは何を意味するのか。技術楽観主義は、進歩を装った停滞であり、政治的なものです。「テクノオプティミズムは、技術的解決策に焦点を当て続ける。この変化は、私たちが多くのことをする必要はなく、行動する必要もなく、変化することを望む必要もなく、ただ待つだけで、最終的には私たちのためにすべてをやってくれる技術が登場することを意味する」果たして。 (link)
ディープマインド、人体のほぼ全てのタンパク質の構造をAIで予測:タンパク質の構造を予測するAIツール「アルファフォールド」を用いて、人体に存在するほぼすべてのタンパク質の形状を予測し、35万個のタンパク質構造を格納したデータベースを公開。 (link)
誰もが、他人に気づかれないところで努力をし、問題を抱えている:他人の芝は青い。同時に、他人は見えないところで努力をしている。自分にも他人にも、寛容でありたいです。 (link)
豊かさとの向き合い方: “Desiring money beyond what you need to be happy is just an accounting hobby” 「わからないことは「わからない」と言えること。因果応報を恐れずに、業界についての批判的な真実を話すことができること。過度の心配をせずに、妥当な間違いを犯し、それを率直に話すことができること。そして、自分の給料を正当化するために忙しそうなふりをしないこと」 (link)
Tiktokスタートガイド:私もやる日が来るだろうか…3回アプリを落として、使わずに(使えずに)、3回アンインストールしています。 (link)
一度は訪れてみたい、美しい美術館・博物館16選:美しい。 (link)
📙本
無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争:ビル・ゲイツが2018年に本書の原著を注目書籍に上げたことで有名。出だしのハラハラ感。米ロ中が先行する無人兵器開発レース。世界にルールはできるのか。いやはや、早川書房にハズレなし。 (link)
知ってるつもり 無知の科学:なぜ費途は薄っぺらな主張に流され、浅はかな判断をするのか。2人の認知科学者が学際的な視点で人間の知性を紐解いていく本書。やっぱり早川書房。 (link)
スプシで作られたレシピ集:本ではないんですが、レシピ本と捉えると最高の出来。 (link)
🎥観た/観ている
Time誌が選ぶ2021年世界100の都市:日本からは東京と北海道が。全部行きたい。旅に出たい。 (link)
香港を出でてイギリスに向かう移民たち:BS1ドキュメンタリー。 (link)
新型コロナウイルス感染や複製メカニズムのアニメーション:ユタ大学の生化学者や科学アニメーターらが協力してつくったこちら。Gigazine日本記事がこちら、元動画がこちら。
良い質問の仕方:基本的なことですが、守れている人は多くない5つの原則。
ドバイで成功した人工降雨実験:めっちゃ降ってるやん。
📻聴いた/聴いている
いんよう!第154回【メドメイン社と胃がんの病理AI論文②】:先週ご紹介したPodcastコンテンツの後半。上野動物園に散らばった子供たちを上空から見つける例えの秀逸さよ。近づけば良いというものではない。 (link)
第136回【佐々木クリスさんとNBAとサイエンスコミュニケーション】:NBAの戦術史と、それをデータを通じて確認し、語るお仕事について。あるいは、データがないなかでそれを整備する基礎研究について。 (link)
🧩感じた/感じている
「あなたの課題は何ですか?」とストレートに問いかけて、それに対して有効な回答が返ってくると期待しているならば、その質問者はお花畑に住んでいる。
科学的な真実と別の次元で、信じるか信じないかを選ぶ権利は私にある。同時に、信じること・信じないことで生まれる世界に対する責任の一部も、自分にある。
複雑さを受け入れながら、言い切る人が好きだ。
人は基本怠けるもの。例外はない。あらゆる人がだ。
フットワークが軽い、は褒め言葉だが、軽くしたいわけではない。
🍵今の関心事
人が物事を考える時の時間軸はどのようにして決まるか。決まった後に本人and/or他人がそれを変更しようと思った場合、何にアプローチすると変化量が大きくなるか
多様性からの連帯、とは何を意味するのか
おっさんの自分語り、聴きたい人はいるのか
Responsivility/責任とimputablity/帰責性を個人あるいは組織として区別するために、明示的にしておくべきルールは何か。変化させるべき振る舞いは何か
🥑活動報告
今週大きめのプロジェクト報告をして1本締めて、同時にもう少し大きめのプロジェクトのキックオフもする予定です。頑張るぞ。
今週ワクチン2回目の接種予定があります。各種連絡が滞ってしまったらごめんなさい。
来週12日(木)、BCGの先輩、高松さんと一緒に有隣堂イベントに登壇します。来てね。→ 田中志さん×高松智史さん オンライン特別対談『コンサルタントの調べる技術 変える技術 考える技術』
今週も、Happy Weekを:-)