おっさんの志
名前、新卒のワークブース、佐々木希。寸志、篤志、香典返し。空港シミュレータ、Apollo。顔レンタル市場、キューバ国際意志派遣業、逸脱の常態化。ある島の可能性、遙かなる山に向かって。ショスタコーヴィチ、竹原ピストル。熊本アンテナショップ、コンサルは儲かる?、ベトナム戦争と為替介入を勉強する。
志。わたしの名前は漢字も読み方も初見殺しです。
”志”の字をこれまで誰も一発目で”のぞみ”と読めた人はいない。新卒の会社はワークブース横に”TANAKA NOZOMI”と表札を貼ってくれたのだけれど、入社前に周囲の先輩方に「かわいい新卒女子が来る!」とあらぬ期待を持たせてしまった(佐々木希がロッテCMで世の男性を魅了しており時期が悪かった)。平仮名『たなかのぞみ』は丸みたっぷり、日に日にごつさと黒さが増していく実存とかけ離れた印象を与えてしまう。名は体を表す、の反例になってしまった。
志とはそもそも、若者のものである。孔子が学を志したのは15歳のとき。北海道の地でクラーク博士が「大志を抱け!」と発破をかけた相手は大学生たちだった。
志という字のなり立ちは之(進む)+心、目標に向かいまっすぐ進む強い心のことだ。中国・史記にある『燕雀安知鴻鵠之志哉』を読むと、原義のギラギラ感が伝わってくる。この言葉を口ずさんだとされる陳渉は小作人から最後、楚の王にまで上り詰める。いかにも志のなせる業である。
しかしわたしはただのおっさんである。さすがのクラーク博士も、私を目の前にしたら「ま、そこそこに、いい感じでやりましょうや」と言うとおもう。しかし我が名は志。どう向き合うのがいいのだろう。
友人は、まだまだ高みを目指そうぜ!という。人生は長くなり、巷では60代70代の先達が現場でバリバリ活躍している。40歳なんてまだまだ若手だよ、の人がほとんどだ。大学や新卒同期たちも実業の世界で迫力ある仕事を続けていて(参照:link, link, link)、先週トヨタ本体復帰が世間を賑わせた豊田家御曹司はほぼ同年代だった。みんなすごい。ただ金を稼ぎ、組織内の地位を上げるみたいなしょーもな願望や野心を持つ人は周りから消え去った。いよいよホンモノの仕事に取り組めるようになるのが40歳、現代の”成人”ということなのかもしれない。Think BIG!!な向き合い方が求められている。
もう一つ、志には、他人を思いやる親切な気持ちや、感謝の気持ちを表す意味もある。
寸志(目上の方に贈るちょっとしたお金)・篤志(社会奉仕や寄付)、香典・香典返しの表に書くときの使い方だ。年齢を重ねるにつれて付き合うことがふえるあれこれである。
土佐日記では、医師がわざわざ薬酒を持ってきた厚意を”こころざし”と表現している。心の向く先を自らの願望ではなく他者に向けたとき、志は厚意になる。先週私が熊本に向けたのも志である。皆さんもぜひ、支援の倍額を現地に届けましょう。 →令和8年熊本地震 緊急支援募金(LINEヤフー基金)
若者が持つ志はとにかくギラギラしたものであるべきだ。とにかくデカいことをやろう、それが若さだ。一方、老生した志は自然と親切に向く。60歳を超えたら、投資だなんだで増やすより、お年玉でたくさん配るほうがすてきな大人への道である。一瞬話の本筋を外れるのだけれど、昨日SNSで「還暦を超えて金融資産が1億円を超えました。FIREできますか?」という投稿を見かけて、ネタであることを心から願った。REはRetire Earlyの略だってわかっているのだろうか。
とかく、おじさんの志は難しい。2つの志をちょうど良くブレンドしなくてはいけない。『身の程』という言葉で人はそのブレンド具合を評価し、混ぜ方を誤るとイタイorしょぼくれたおじさんの出来上がりだ。『みっともない』は日本人が最も大切に守り抜くべき倫理感の一つだと思う。イタイおじさんもしょぼくれたおじさんも、どちらも大変みっともないし、そうはなりたくないものだ。
週末にベーグルをつくった。材料を混ぜ、じっくり捏ねながらこんなことを考える。私の志も発酵を繰り返しながら、うまく膨らんでくれるといいのだけれど。最後の焼き上がりはどんなもんだろう。おいしく仕上がれば何でもいい。私の心の向かう先です。
お便りをお待ちしています。
💼心惹かれたもの
空港シミュレータ:管制官の仕事がいかに偉大かを痛感できる。ブラウザでプレイできるのでお昼休みにでもやってみてください。タスクお手玉に頭が爆発します。高スコアの皆さまは本職の方々なのだろうか。 link
Apollo Neuro:低周波振動を発して自律神経系を休息状態に導くウェアラブルデバイス、とのこと。睡眠改善を報告している人が何人かおり気になっている。次大儲けしたら買ってみよう。$448。 link
ジャパンテニスライジングファンド:マネーフォワード創業者・辻さんを発起人として、赤浦さんや仮屋園さんなどVC業界大物たちの寄付資金で運営されているジュニアテニス選手支援ファンド。これと同じことを関西でやりたいんですが、どうやったら理事の方々と繋がれるのだろう。誰か1人介せばお会いできそうな気もするのだけれど。 link
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
”顔レンタル”市場が立ち上がりつつある:中国でAIドラマや広告向けに自らの顔画像とその利用ライセンスを売る人が徐々に増加している。相場は1回あたり15ドル〜。ミニドラマの95%以上でAIが使われ、無名俳優をわざわざ現場に呼ぶよりも、適当な人に演じさせて後から顔や声を差し替えるほうが安上がりである。問題は、ライセンスを付与した相手がそれを目的外の怪しい広告やポルノ動画に使われても、本人に止める術はほとんどないことだ。生体情報は一度出したら回収できない不可逆な資産で、労働力の切り売りとは質が違うのだ。デジタル空間のプラットフォーム商売が広がったときに起きた「規制後追い市場の誕生」がここにも。Rest of Worldはいい記事が多いな。link
キューバを延命させる国際医師派遣業:米国経済制裁や直近のエネルギー問題で経済が崩壊しつつあるキューバだが、社会主義体制下で磨き上げてきた医療制度の下で育った医師の海外派遣でなんとか年40億ドルの外貨獲得に成功している。The Economistは、国家最大の輸出品が人材、しかも医療者という構図を”生体輸出”と呼ぶ。派遣医師たちは多くない給与の大半を国家に吸い上げられながら、それでもキューバに残した家族を養うために海を渡る。社会主義革命の看板だった無償医療が、いまや外貨獲得装置として幸か不幸か国家を延命させている。日本がいよいよやばくなったら、私たちは何を輸出して外貨を引っ張ってくるのだろうか。 link
空調の地政学:気温上昇が社会問題化しているのは日本だけではない。欧州や米国でも、冷房は快適性追求の”便利家電”ではなく、電力網と政治を揺るがす問題へと変わりつつある。気温上昇でエアコン需要が急増し、低所得国では供給が追いつかず、停電がそのまま抗議運動やクーデターに変わる可能性も指摘されている。冷やせる国と冷やせない国、冷やせる階層と冷やせない階層。温暖化対策で電気料金が上がればポピュリズムの燃料になり、対策を緩めれば需要はさらに膨らむ。少し前、気候変動→政権転覆、の間を埋めるのは食糧問題か災害だったけれど、そこに空調格差も加わってきた。link
“逸脱の常態化”は起きていないか:1986年のチャレンジャー号打ち上げの際、NASAの技術者・ボワジョリーは打ち上げ前夜まで何度となくOリングの欠陥を指摘・警告するレポートを上長に提出していた。それでも組織はGoサインを出し、結果スペースシャトルは爆発、7名の乗組員は全員亡くなった。社会学者ダイアン・ヴォーンはこの事件にみられる組織行動を『逸脱の常態化』と名付けた。小さな異常が事故に至らないまま繰り返され、異常がその組織が行う意志決定の正常範囲に組み込まれていく。異常ラベルがあることが常態化した組織では、それはもう異常と認知されないのだ。「コンサルタントの価値は、顧客に常識を持ち込むこと」と言い放った先達がいて、当時は意味がわからなかったのだけれど、いまならよくわかる。異常を異常と再認識させてあげるのも、わたしたちの仕事なのだ。link
AIが就職活動フローを破壊する:米国でバズったSNS投稿『20代の新卒が1,700件応募して内定ゼロ』。就職市場が冷え切っている!という文脈だったのだけれど、良く考えると、1,700件も応募できることそもそもがおかしいのではないか。AIで応募書類が量産できるようになった結果、応募→書類審査という行為の意味がお互いに消失しつつある。応募者全員が同じツールでそれっぽい書類を作り上げ、選考する企業側もAIで適当にスクリーニングして結局は学歴や目立つ経験をベースに判定を行う。結果は変わらず、ただ無駄になるエネルギー量が増えただけである。手書き履歴書はいまでも批判される文化だけれど(私も心の奥底では嫌いだ)、いま改めて導入・強制する企業が現れても不思議ではない。私が採用担当者なら、対面・手書きの論文試験を必ず課すことになるだろう。AIバカを雇うエラーに比べればよっぽど安い投資だ。 link
「十分高度な技術は宗教と区別がつかない」:宗教の効用は「理由は複雑なので説明しないけれど社会and/or本人のためにならないことを防ぐこと」にあった(e.g.イスラム教の豚肉禁止も当時の保存・調理技術を考えると合理的)わけだが、AIが生成したアウトプットを妄信し作業現場をロボットに委ねる現在/近未来の職場環境もそれに近いものになるのではないか。答え合わせなしにただアルゴリズム出力を信用することはつまり判断力の外部化であり、それは信仰と同義であると指摘する。一度判断基準を外出しすると、再度それを取りもどすのは至難の業だ。元ネタと同じだね。 link
その他。
最低賃金は全国平均1176円へ:川崎のまいばすが深夜時給1,765円?時代だ
最初の草稿は自分で書け:AIにも他人にもつくらせるべからず。
EUの電化目標が数学的に不可能なのは、分母に廃熱を含んだ誤った指標を選んでいるから:指標を適切に選ぶのは大事だぞ
ど冷えもんBOX:テニス会場にほしい
手段が目的を飲み込む戦争の自己増殖:最悪な『手段の目的化』
📙本
ある島の可能性:ミシェル・ウェルベックの長編。理性とは、愛とは何だろう。新興宗教教団のトップ2人、『刑事』と『学者』が対立しつつもうまく組織を拡大させまわしていく様は、あぁこれぞスタートアップと。犬と一緒の生活への憧れが強まりました。これを高校時代に読んだと言っていた知人、よく読み切れたな、尊敬する。 link
遥かなる山に向かって 日系アメリカ人二世たちの第二次世界大戦:『ヒトラーのオリンピックに挑め』で有名なダニエル・ジェイムズ・ブラウンが描くノンフィクション著作。山崎豊子『二つの祖国』の後に読むといっそう感じるものがある。私たちの生活は、本当に多くの先人たちによって成り立っているんだと実感する。 link
石垣りん 詩集:太平洋戦争を跨ぎ最後まで日本興業銀行の行員として勤め上げ、家族や兄弟に翻弄される生活を書いた詩人。迫力だ。詩はいいぞ。 link
炊事が奇しくも分けられた 女の役目であったのは 不幸なこととは思われない、 そのために知識や、世間での地位が たちおくれたとしても おそくはない 私たちの前にあるものは 鍋とお釜と燃える火と それらなつかしい器物の前で お芋や、肉を料理するように 深い思いをこめて 政治や経済や文学も勉強しよう、 それはおごりや栄達のためでなく 全部が 人間のために供せられるように 全部が愛情の対象あって励むように。
📻観た/聴いた
ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲第8番:新卒同期のショスタコーヴィチ敬愛者に強くおすすめ頂きました。交響曲第10番もそうだけど、二楽章の切迫感というか、世界観が強く心に残る。ソ連の芸術とはこういうものなのだろう。来年1月から価格統制が始まるロシア、そこで生まれる音楽もまた変わっていくのだろうか。
竹原ピストル / よー、そこの若いの:俺の話を聞くな!てめぇの声を聴け!
🧩感じた/感じている
地震後、東京の熊本アンテナショップに行列ができた。人間の心には自然な善意があるとわかる最高の何かだとおもう。きっかけさえあれば私たちはもっと善い存在になれる。逆にいえば、常に善 or 常に悪は不可能だ。善は流動的だからこそ際立つ。
コンサルタントは相手の考え方を変えたり、修正しようとする人でなくてはいけない。が、相手の考えにそのまま乗っかったほうが儲かるのが世の常である。ゆえに、政治家やメディア出身者は根本的にコンサルタントに向いていない。そして、コンサルタントが儲かっているということは、何かがおかしい。コンサルタントを名乗りつつ、コンサルティングしていない人がいるということなのだろう。「顧客が求める事(ならなんでも)を提供するのが現代のコンサルティングなんです」なんて戯れ言はやめろよ。
圧倒され、絶望してからが人生。
日々は個別事情に全身を浸しているのだから、たまには原理原則に立ち返ること。 link
🍵関心事
ベトナム戦争のことを改めて勉強しよう。いま中東で起きていること、そして世界で今後起こることを考えるために、ベトナム戦争を見つめ直すのが「巨人肩乗り」になる気配。沈み往く米国、反抗する小国の行方、市民たちの反応と残す遺恨。シルバースタムを読もう。
7月末に財務省が為替介入。「金を溶かした」と批判している人がいるが本当か?と、ChatGPTとお勉強。経済学修士をとったけど財政・金融政策は専門外で全くわからない。お勉強パートナーとしてのAIくん、とっても優秀。
🥑活動報告
これまで週2-3更新でやってきたこのニュースレターを毎日更新にしたらどうなるだろう。月曜はそのままに、残り6日で読んだ記事一覧、ビジネス書紹介、詩、日記、内省、音声配信などをお届けしてみようかと思っています。また別途、個別登録のご案内をします。試してみることに失敗はないぞ。
お便りをお待ちしています。



