大分の温泉にて。委ねられた言葉を見つけました。
雑文字起こしを成形してやつがこちらです。
「トイレの水は温泉を使用しています」という一文が、ずっと頭に残っています。こういう掲示って、だいたい二種類あると思うんです。ひとつはマーケティング。「アイスがおいしいです」とか、「牛乳売ってます」とか、「回数券はこちら」とか、何かを買ってもらうためのもの。もうひとつは管理のためのメッセージ。「一歩前に出てください」みたいな、何かを促したり禁止したりするものです。
でも、「トイレの水は温泉を使用しています」は、そのどちらにも入らない。売りとも関係ないじゃないですか。トイレの水が温泉だから、このトイレを使おう、とはならないし、トイレが温泉水を使っているなんて素晴らしい、だからこの温泉施設に行こう、ともならない。同時に、管理のメッセージでもない。何かを禁止しているわけでも、こちらに行動を求めているわけでもない。私はトイレの水を手動で水道水に切り替えられるわけでもないので、ただ事実として「トイレの水は温泉を使用しています」と置かれているだけなんです。
これ、もう詩だなと思ったんですよね。ポエムだな、と。すごく心に残りました。
この施設、全体としてもすごく良かったんです。お客さんもたくさん入っていて賑わっているし、商売っ気を出そうと思えば、いくらでも出せる場所なんですよ。アイスがおいしいとか、この牛乳おすすめですとか、トイレなんて人が必ず立ち止まるわけだから、視界を長く占有できる、かなり良いマーケティングの場所だと思うんです。商売気マックスの人が運営していたら、絶対に別の掲示になっていたはずです。インスタ投稿してくれたらプレゼントします、とか、回数券はこちら、とか、あるいは管理系で「一歩前に出てください」とか。男性だとあの感じ、イメージがつくと思います。
でも、そこをマーケティングにも使わず、管理にも使わず、ただ「トイレの水は温泉を使用しています」とだけ書いてある。何度も口に出してしまいますけど、いや、本当にいいですよね。私はこの施設のことがすごく好きになってしまいました。別に「商売気がないからいい」と言いたいわけではないんです。ただ、これを「貼りましょうよ」と言って、「いいね」と言える人がいるというのがまず良いし、さらに「これ、残しておこう」と判断できるのもいい。「剥がしたほうがいいじゃん」とならないのも、なんだかすごくいいんですよね。
こういう、「何のためでもない文章」みたいなものって、結局いいんだなと改めて思いました。世の中って、「こういうことをやっておくと役に立つよね」とか、「こういうことは言っておかないとね」とか、そういうもので溢れすぎるとしんどいじゃないですか。目的が強すぎる文章ばかりになる。だからこそ、こういう、ただ置かれているだけの言葉に惹かれるんだと思います。
さっきアルバムとか言ってたけど、カメラロールですね。カメラロールを見返していて、改めてそう思いました。ただ、写真を撮ったときは14〜15度くらいの水風呂に5〜6分入った後だったので、感受性がちょっとあっちの世界に行っていた可能性はあります。でも、今見返してもやっぱりいい。いい日本語だなと思います。
ぜひ皆さんも、町や商業施設で、こういう文章を探してみてほしいです。マーケティングでもなく、ルールでもない、ただそこに置かれている言葉。表札みたいなものは昔からありますけど、目につく看板って、いまはだいたいマーケティングか管理のどちらかになってしまいましたよね。新しい建物にある表示や警告も、ほぼ管理系の何かです。だからこそ、こういう詩的な文章がぽつんとあると、すごく目立つし、その周辺にはもしかしたら何か大事なものがまだ残っているのかもしれない、という気がします。
すごく小さい話ではあるんですけど、大分のその温泉は本当に良いところでした。もし行く機会があれば、ぜひこの温泉を探してみてほしいですし、この施設自体も本当に気持ちよかったので、この温泉に入るためだけに九州へ飛ぶ、という旅も十分ありだと思います。夏でも秋でも冬でも、旅先の候補としてかなりおすすめです。








