…「これはコレクト、これはインコレクト」という風に考えて暮らしている生活も、考えようによってはなかなか悪くないものである。とくに日本みたいな「何でもあり」というなぎ流動社会から来ると、かえってほっとする部分もなきにしもあらずである。余計なことを考えずにとにかく細かい部分をコレクトに揃えておけば、それですんでしまうわけだから。とにかく「NYタイムズ」を購読しておけばいい、とにかく「ニューヨーカー」を取っておけばいい(まわりを見ていると取ってるだけで読んでない人が多いようだ)、とにかくオペラを聴いておけばいい、とにかくガルシア・マルケスとイシグロとエイミー・タンを読んでおけばいい、とにかくギネス・ビールを飲んでおけばいい。
でも日本ではそう簡単にはいかない。たとえばオペラなんて流行じゃないよ、今はもう歌舞伎だよ、という風にどうしてもなってしまう。情報が咀嚼に先行し、感覚が認識に先行し、批評が創造に先行している。それが悪いとは言わないけれど、正直言って疲れる。僕はそういう先端的波乗り競争にはもともとあまり関ってこなかった人間だけれど、でもそういう風に神経症的に生きている人々の姿を遠くから見ているだけでもけっこう疲れる。これはまったくのところ文化的焼き畑農業である。みんなで寄ってたかってひとつの畑を焼き尽くすと次の畑に行く。あとにはしばらくは草も生えない。本来なら豊かで自然な創造的才能を持っているはずの創作者が、時間をかけてゆっくりと自分の創作システムの足元を掘り下げていかなくてはならないはずの人間が、焼かれずに生き残るということだけを念頭に置いて、あるいはただ単に傍目によく映ることだけを考えて活動し生きていかなくてはならない。これを文化的消耗と言わずしていったい何と言えばいいのか。
村上春樹が米プリンストンに滞在していた30年以上前に書いたエッセイ集『やがて悲しき外国語』からの引用です。最近お目にかかったクリエイターやコンサルタント(を名乗る人)たちの仕事ぶりをみて「いい仕事した気になっているかもしれないけどそれはただの焼き畑だよ」という気持ちになったのだが、村上大先生が1990年代に文章にしてくれていた。別エッセイにある、"ポリティカリー・コレクト・トークン(性別や立場によって期待される役割を備えていることを表明するための何か)"だったり、フェミニズム文学にみる"スターリニズム的細部固定化傾向"の話しも良かった。ぜひ買って読んで欲しい。
情報が咀嚼に先行し、感覚が認識に先行し、批評が創造に先行する。そんな生活の何が楽しいと言うんだろう。時間をかけて穴を掘り、時間をかけて根を張ろう。
💼心惹かれたもの
Braun RT 20 radio:この素敵デザインラジオ。魅力的。 (link)
卓上シャッフルボード:次のオフィスに置くボードゲームをどれにしようか考えており、将棋やバックギャモンに加え、テニスイベントのレセプションなんかで人気のシャッフルボードはどうだろう。一人でやってもはまりそう。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
あらゆることに役立つ100の小さなコツ:ビデオ会議時のセルフビューをオフにする、週に1日「配信停止ボタンめちゃ押し日」をつくる、呼吸ポストイット、屋外での裸足習慣をつくる、珈琲プランクあたりから実践を始めています。 (The Guardian, link)
次世代地熱×データセンターに挑むMeta:AIへの取り組みを進めれば進めるほど電力消費が増え、結果としてCO2排出量を増やしてしまっているビッグテック各社。Metaは新型地熱発電システムを開発するSage Geosystemsと提携して、150MWの地熱電力でデータセンターを動かすことを目指すと発表。従来の地熱と違って「高温の地下岩盤に水をぶつけ発生した水蒸気でタービンを回す」同社の強化地熱システムは、理論上地球上のどこでも地熱の活用を可能にします。が、どこまでコストがあうのか、時間軸がどこまで現実的かには疑問符も。個人的には、まぁメディア・IR対策の何かだな感を感じます。 (Singularity Lab, link)
未来のスポーツとなったテニス:多くのプロ試合では自動ラインジャッジシステム・ホークアイ(カメラ12台+AIシステム)が導入され、最大9名いた線審が不要に。200km/hを超えるボールをコンマミリ単位の精度で判定する技術は様々なスポーツで活用できる派生技術を生み、かつスポーツベッティングとの相性も抜群。男子プロテニスの団体であるATPは、放送権とデータ販売でそれぞれ同額の収入を得ているとのこと。びっくり。 (The Verge, link)
出会いの場となったスペインのスーパーマーケット:現地女優がTiktokに投稿したコンテンツから始まった遊び。全西に1,500店舗以上を展開するメルカドーナで19-20時の間、買い物カゴにパイナップルを逆向きにいれて、お互いにいいなと思ったらカゴをぶつけ合うんだとか。おしゃれだ。Googleフォームが出会いのツールとしてホットになっていたり。人間はどんなものも遊びの種にする、だから世の中はおもろい。 (euronews, link)
あからさまなミーム画像に笑ってしまった (link) 拡大するタンザニアの観光収入:海外からの観光客数200万人、もたらした経済価値も35億ドルを超えコロナ禍での不調を乗り越えたタンザニア。主に米国、イタリア、ドイツなどから。観光促進のために撮影されたドキュメンタリー番組などが徐々に効果を発揮しており、今後宿泊施設や移動インフラを強化することでいっそう観光業を活発化させていくぞと。 (The Citizen, link)
オゼンピックが促すリユース市場の活性化:中古アパレル取引業者によるとオーバーサイズの出品量が顕著に増えているとのこと(3XLで前年比+103%、4XLで+80%、5XLで+73%)。タイトルや説明文に"減量"の文字が含まれた新規出品も78%増加している。オゼンピック不足は深刻化の一途ですが、いろんな二次・三次変化に繋がりそう。 (Vogue Business, link)
宇宙でビールを醸造する方法:フロリダ大学の研究チームが学術誌『Beverages』に掲載した論文によると、微小重力下でも問題なく酵母細菌は生き残り、なんなら予想より早く発酵が進んだとのこと。ただしビールの香りの代表とされるエステル香は少なかったようで、宇宙ビールの味はだいぶ違ったものになりそうだ。 (THE MANUAL, link)
セレブがはまる新しい趣味=養蜂:マーサスチュワートやデビッド・ベッカム、チャールズ三世まで多くのセレブが、蜂蜜を楽しむだけではなく養蜂に手を出し始めている。養蜂家を表すオンライン上の略語・beekなんて言葉も一般化。NYでヘッジファンドを運営しながらペンシルバニア州に小さな農園を買って養蜂にどはまりしている人が紹介されているんですが、楽しそう&羨ましい。 (Town&Country, link)
ドーパミンの圧制から逃れられるか?:砂糖や油のような古典誘惑だけではなく政権批判や身近な人の噂話まで、中毒の種になるものが溢れている現代社会。ドーパミンで右往左往するのもたまにはいいけど、感謝や直感の大切さをたまにはおもいださなきゃ。 (In Bed with Social, link)
📙本
奇跡の一代記 神谷傳兵衛物語:ニュースレター第190回の冒頭で紹介した神谷傳兵衛の伝記が届いたので一気読み。多くの人が国策に乗って国産ワイン製造に臨むなか、海外製品をブレンドして製造問題を棚上げして蓄財し、たまったお金で土地や事業を買いがつがつ拡大させていくその商魂のたくましさよ。私もNAビール事業の方針を正しく考えなきゃ。 (Amazon, link)
やがて哀しき外国語:冒頭にも引用しました。下の表現をみてどう反応するか、差別全般について自身と許容範囲がどのくらい重複しているかを確かめるよいリトマス紙になるなと感じています。 (Amazon, link)
僕は原則的に女性の道案内は信用しないと決めているのだが(そのような差別的な結論に達するまでには数多くの苦い経験をくぐり抜けてきたのだ)、この人は大例外である。 (同書, 講談社文庫版 p57)
魂に秩序を:多重人格の世界に誘われる不思議な小説。1千ページ超えの文庫本って初めてだ。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
Blue Note Jazz Festival in Japan 2024@有明:数ヶ月前から楽しみにしていたジャズフェス。CHICAGO堪能、最高。 (link)
溶岩流をみる:ハンガリー人写真家・Gabor NagyがLava Flowシリーズとして出している、ただただかっこいいやつ。2023年7月にアイスランドで撮影。 (link)
The Choice:「日々の小さな選択が人生をつくる」それがわかる4分動画。先週は消化器系の調子が悪くほとんど脂質/油+アルコールをとらない生活をしたんですが、それだけで体調が良くなっている。身体はわかりやすい。
🧩感じた/感じている
ケルヒャーから出たコンパクトな高圧洗浄機・K1X、1万円切りでいい感じ。
先週行われた王座戦第2局、藤井王座の決め手に痺れた。香車の頭に角を打つってなんじゃそりゃ。
村上春樹がいう「フィジカルな感性」「フィジカルな納得」を大事にしたい。
鼻血が出たときにティッシュを詰めるの、専門家からは非推奨なんですって。ぎゅっと鼻を押さえて止血するのが最も良いらしい。
🍵今の関心事
いつ八ヶ岳方面にいくか。
才能にあう年齢がある(例:テンダラー、新しい学校のリーダーズ)私の才能にあう年齢はいつだろう。ずーっと先にあることを願っている。
🥑活動報告
新オフィスを居心地の良い場所にしたいので、スラムダンクを全巻置くことにしました。100点のオフィスになる。
昨日に東京入りして、週末まで有明周辺にいます。テニスの森で水曜から行わるテニス・ジャパンオープンのナイトセッションをいくつか観にいく予定。公式タオルやリストバンドを爆買い、通っているテニススクールのジュニアたちに配る足長おじさんになる予定です。
11月参加を申し込んでいたビール醸造研修に参加できなくなり、悲しいのですが、機会費用(約10日分の思考時間)は得られました。何をしようかしら。