空気の研究、高田純次、新ロゴ。
先週ランチをご一緒した大尊敬するビジネスパートンの方と「高田純次、やっぱりかっこいいですよね」と頷きあった。御年78歳。”ミスター適当””芸能界一いい加減な男”は、責任を取ることや結果を出すこと(のみ)を求められる社会・会社で窒息しそうな大人にとって、屹立たる灯台であり続けている。
発言録がよく話題になる。以下がその例なのだけれど、注目すべきはどれも『文章としては論理的・まっとうなのに』『文脈の力により論理から最も離れた力を持つ』ことである。慣用句と実用語のギャップ(先週ニュースレターのように)、倒置法による世界のずらし、同音異義語の活用、、、聴き手の頭にふわっと生まれるイメージを、接ぎ句で「ん?」と思わせ、最後はなるほどと笑いに変える。落語の『考えオチ』、言葉遊びの『地口』と同じ地平にある、噛みしめるほど味わい深い言葉である。
“俺も昔はギターで飯が食えたらって思って。ずいぶんと練習もしたんだけど、難しくって諦めた。それからはハシで食うようにしたよ”
“オレは100メートルを9秒で走れたよ。バイクで”
“キミ、誰かに似てるよねえ。誰かはわからないけど”
“キミ、はっきりした顔してるねぇ~。どこが目でどこが鼻かすぐ分かるね~”
“子供の頃は『しんどう』って呼ばれてたよ。よく貧乏ゆすりしてたから”
山本七平『「空気」の研究』を読んでいると、なるほどわたしたちが高田純次を愛するのは”空気づくり・破壊・操作”が抜群に上手いからだと納得させられる。山本がこの本で伝えていたのは、論理的判断・ロゴスよりも”ふわりとした空気”が人々の決定を左右していること、そしてこの空気に”水を差す”ことの重要性である。高田純次がやっているのは、社会に固着しかけている様々なイメージ・想念・定義に対して、ジョーク・ウィットという「有効な水差し」を届けることに他ならない。ともすれば誰かを不快にさせずにはいられない水差しを(山本も「水を差すことは社会に不可欠だが実行する人は嫌われる」と言う)、和やかに、穏やかに遂行している。最も洗練されたレジスタンスの形がここにあるのだ。
年齢を重ね、経営書として読むものがドラッカーや稲盛和夫、楠木健などに移ってきた。みな、論理の向こう側について語っている。ドラッカーは「『私は』ではなく『われわれは』を考えよ」といい、稲盛和夫は「正しい理念とフィロソフィ、情熱を組織の端々まで届けよ」、楠木健は「論理で判断できる良し悪しよりも、理屈抜きの”好き”が持つエネルギーを大切に」と説く。みな、会社組織の中にある点ではなく、その間を埋める空気の重要性を語っていたのだ。理念とは?フィロソフィーとは?のような野暮なことを聞いてはいけない。定義は論理の前提でしかなく、定義できないからこそそれは空気なのだ。”点”を分析する論理も重要なのだけれど、点を動かすのは、その間を埋める空気である。悪しき・易きに流れる空気に水を差し続けるのが経営者の仕事なのであり、同時にコンサルタントの仕事もそうであるべきだ。
高田純次に憧れるのは、新卒からずっとコンサルタントとして、つまり”水差し役”として働き、クライアントの現場スタッフから煙たがられ続けてきた結果なのかもしれない。それをエネルギーに変えられる人が大ファームで活躍しているのだろう。私は別の道、ウィットとユーモアで柔らかく水を差し、相手に自然と膝を打たせるような関わり方を目指している。昨年末、会社ロゴの下に”fair, nuance, humor(フェア、機微、ユーモア)”をコピーとして入れたのは、我ながら秀逸な意志決定だったと思う。
<お便りをお待ちしています>

💼心惹かれたもの・場所
ピンバッチ キャッチ・留め具(というかAmazon):アイスランドで買ってきた鯨のピンバッチ、裏の留め金がどこかに行ってしまい困っていたのですが、無事にAmazonでキャッチのみ売っているのを見つけてありがたく購入。神戸経済を潤すべく街のお店で買うのを基本にしているんですが、「これってどの店のどこに置いてるんだ?」がわからないものはECに頼ってしまう。本屋さんも同じ構造にある。 (link)
リトアニアの公園”Kovo 11”:”レクリエーション、コネクティビティ、コミュニティ”の3原則に基づいて再整備された都市公園。 (link)
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
仕事の未来は「絶滅、アート、スポーツ」の三択:作家であり投資家でもあるAnu Atluru氏は、効率性や生産性だけを求める仕事はAIによって絶滅し、人間がやることに意味がある仕事は物語や個性を伴うアート、あるいは人間の限界への挑戦を鑑賞するスポーツとして生き残ることになるという。AIをチームメイトとして歓迎することで、私たちは効率性の呪縛から解放され、より人間らしい創造的な活動に没頭できる時代が来るのかもしれない。 (The Sublime, link)
参考:エージェント時代における人間性、意味、仕事:放射線科医やソムリエが生き残る理由、Z世代が再定義した成功の意味を受け入れてみること、そして会社=家族の幻想を捨て、自分自身のキャリアをデザインする勇気。
ネット発の新世代億万長者が変えるラグジュアリー市場の様相:14歳で純資産1億ドルを超えるライアン・カジなど、Youtuberやライバーなどインターネット・コンテンツクリエイターが新たなタイプの富裕層となり、新たなラグジュアリー市場のトレンドを生んでいる。彼らにとって、フェラーリ購入や豪華な旅行は単なる浪費ではなく、次なるコンテンツへの投資。この「見せる消費」を原動力とする新しい億万長者たちが、これからの高級市場を支配する鍵を握っているとみた大手ブランドはOnlyfansやTiktokスターとの提携を模索している。 (Jing Daily, link)
言語は生きた歴史証人:インド英語の独特な響き、その背後には数千年にわたる人類の移動と文化融合のドラマが隠されている。南アジアの言語を特徴づける”そり舌音(レトロフレックス)”は本来インド・ヨーロッパ語族(英語やヒンディー語の祖先)には存在せず、ユーラシアからやってきた移住者のサンスクリット語と土着言語が出会い混じり合ったことで生まれた。これこそ歴史の痕跡である。 (Thought Trail, link)
不完全な物理学と精霊のこと:(注 オカルト的な幽霊話ではないです)くりこみ群と有効場、計算複雑性、量子重力…最新研究を踏まえると、「物理学ですべてが解明できる」という信念は幻想かもしれない。科学の光が届かないその先には何が潜んでいるのか?宇宙そのものが抱える計算容量の限界を考えると、どうしても理論化できない、圧縮できない何かは確実に残ってしまう。それは予測不可能でありながら、私たちの人生に確実に影響を与える力。かつて私たちが「精霊(あるいは”空気”)」と呼んだものは、実は物理学の計算不可能性の向こう側に広がる、名もなき現象のことだったのかもしれない。 (Mechanics of Aesthetics, link)
家庭用ロボットの未来:「家事はロボットに任せたい」誰もが一度は夢見るこの未来が意外な形で訪れるかもしれない。最新の人型ロボット・NEOとスマート掃除ロボット・Maticという2つの対照的な存在から分析をはじめるこの記事は、人型ロボットを、宅配便のラストワンマイルならぬ、家事の最後の一手間を埋める存在と捉える。しかし、本当に人間の形をしたロボットが家の中を歩き回る必要があるのか。もしかしたら、天井から生えたロボットアームの方が便利かも。技術への愛と、生活者としての冷静な視点が交差する、ユーモアあふれる未来予測だった。 (Product Lost, link)
「失敗を受け入れよ」と説くストア派哲学の裏側:「すべてを受け入れよう」という一見賢明な態度が、実は世界で起きている不正義から目をそらし、行動を放棄するための巧妙な自己正当化だとしたら。個人の平穏を超えて動かなければいけないときがある。 (The Drift, link)
人類への信頼を取りもどそう:100年前の図書館員が航空機関連の書籍を若者に貸し出したことが、後のアポロ計画の成功に繋がった。ニュースの見出しは悲劇ばかりを伝えるがそれが世界のすべてではなく、私たちは皆、知らず知らずのうちに人類という巨大なプロジェクトの一部として貢献し合っている。データで見れば世界は確実に良くなっている。私たちは皆、人類という巨大なチームの一員なのだ。 (outlandish Claim, link)
あなたは”行動”で測られる:「本来人間の内面は善であり社会によって堕落させられる」と考えたルソーと「善人や悪人という本質はなく、善い行いをする人と悪い行いをする人がいるだけだ」と考えたベンジャミン・フランクリン。人がこの二つの対立する考え方を都合よく使い分けているが、現代で有用なのはフランクリンの現実・行動思考だと著者は言う。「根はいい人なんだけど…」という言葉に甘えていないだろうか。「本当の自分」を探して内省ばかりしていないだろうか。善人になろうと内面で悩むよりも、実際の善い”行い”を繰り返すことのほうが明確である。行動で自らを測ろう。 (boz, link)
神聖な不満を持つこと:“私が知る限り、最も充実した人々には二つの特徴がある。一つは、新しいアイデア、経験、情報、そして人々に対する飽くなき好奇心。そして、彼らは常に自ら招いた不幸の中に生きているように見える” (personal canon, link)
📙本
「空気」の研究:Audibleで耳学問。音読されている方の声がいいのでスッと入ってくる。”臨在感”なる未知の言葉が随所に出てきて、「ある対象(物、人、言葉、概念)に霊的な何かが宿っていると感じ、それが絶対的な影響力を及ぼす心理状態」を意味する。空気の発生源である。その場にいる全員が、ある特定の対象に対して臨在感を共有してしまった状態=空気の発生。なるほど、そうやって宗教的組織を作るのか。 (Amazon, link)
📻観た/聴いた
このつまみ知ってんのか!?〜2025冬〜:最高の企画。吉岡屋の漬物は本当にオススメです。
🧩感じた/感じている
冒頭書いた『水を差す』と、『ケチを付ける』『揶揄する』には感覚的ながら明確な線があるのだけれど、なかなか言葉にならない。冷笑的なケチ付けマン・揶揄者からは徹底して離れなくてはいけない。
いろんな業界の人が”アドベントカレンダー”の名目で素敵な文章を書いてくれており、読むのが楽しい。12月の好きなところの一つです。 → “メガバンクでコース別採用されなかったあなたのために。“
🍵関心事
山本七平が語った「日本人は無意識のうちに、あらゆるものを宗教化・カルト化してしまう」は、現代でも当てはまるだろうか。米国政治を見ていると太平洋の向こう側の方がよっぽど…と思ったりするけれど、「お客様は神様!」「この商品神!」のような表現にみる”神の軽さ”を考えると、確かにそうなのかもしれない。
🥑活動報告
今週は年内最後の東京出張。刺激をもらって関西に持ち帰ります。
『仕事がデキる人の質問のキホン』絶賛販売中。どれくらい売れているのか、出版社から特に連絡がない。便りがないのは良い便りと信じて。。
📩頂いたコメント
日記、とても良かったです!本の感想や、世界が動いている感じが読んでいて心地よかったです。また気が向いたときに書いてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします!
(Wanさん)
よかったです。Wanさんの言葉に勇気づけられて定期化してみました。書いてみて、自分自身気づくことがたくさんあルナと感じています。有料購読者も増えるといいなあああ。
Cobe.fmから田中さんを知り、メーリングリストに登録させてもらいました。40歳前半男性です。体力維持のためにテニスをはじめようと思っています。テニスの魅力を教えてください。 (furuhashiさん)
ラケットの真ん中でボールを捉えたときの気持ちよさったらないですね。すぱーんと。あと個人的に好きなのは、ダブルスの最中、ペアと以心伝心・阿吽の呼吸でポイントを取る瞬間です。仕事で大変なこと・難しいことがあったらテニスで気分転換、テニスで得た学びが仕事にも生きる。そんな好循環も体感しています。最初から上手くやるのはなかなかに難しいスポーツですが(あのイチローでさえフォームがめちゃくちゃ)、気にせず楽しんでいきましょう。大人になると初心者であることが許されない場がどんどん増えていくと思うんですが、それに抗う場としてぜひテニスをやってみてください。
<お便りをお待ちしています>



