AIよりDIY.
まず自らなんとかしようとすること、鬱とパンづくり、宇野常寛『庭の話』、大井競馬場。サグラダファミリアのレゴ、Appleジャーナルアプリ。セレナとドーピング、眩しすぎるヘッドライト、ルックスマクシング、普通にやること。未来工場、逆張りから追従へ、記憶に残るのはやったこと。エマソン・精神について、岩波世界7月号。Hump Back「番狂わせ」。ククシュキン引退。今週は島根〜広島出張です。
この一ヶ月、華金はもっぱらベーグル生地を捏ねています。それはもう一心不乱に。一週間ため込んだ返信が面倒なメールも(たくさんある)、切り口が見えていない分析も(たくさんある)、一向に成果が見えない人材育成も(最近増えた)、全部頭からおさらばです。これぞ没頭。通常レシピは8個仕上りなのだけど、いっぺんにたくさんつくりたいなと、近所のホームセンターでばかでかいミキシングボウルを買いました。本当にでかいです。
今回は、なんのこっちゃわからないかもしれませんが、ホームセンターの話をしようと思います。好きな話を乱暴にするのが好きなので。
忙しいみなさまに向けて。以降で書くことは↓の展開形です。
悩みや課題を感じたとき、それがどんなものであれ、SNSやChatGPTを開く前に、あるいは占い師やクリニックに駆け込む前に、まずホームセンターに向かうべきである。相談よりコーナン、AIよりDIYです。
悩んだり課題にぶつかったとき、多くの人はスマホでキーワードをたたき、情報や共同体・共同幻想に救済を求めます。同じ悩みの人を探して、共感のスレッドを読み、おすすめのサプリ、おすすめのクリニック、おすすめの思考フレームワークを熱心に仕入れる。30分スクロールすれば、解決策らしきものが手に入るでしょう。ひとまず満足。
さて一週間後。肝心の悩みが一向に減っていないことに気づく。そしてまた情報を探す。いろんな企業がマーケティング観点で最適化された情報を出している。当然引っかかる。一部の人はお金を払って何かしらのモノやサービスを受け取る。さて、その人の悩みは減っただろうか。多少は減るかもしれないし、あるいは減らないかもしれない。少なくとも時間とお金は減る。また新たな悩みが登場し、またスマホで即効薬を探して、時に逃避して・・・このループです。
SNSも、クリニックも、ドラッグストアも、あるいは流行のジムやサウナも、売っているのは仕上がった『解決パッケージ』です。共感のパッケージ、処方のパッケージ、ウェルネスのパッケージ。誰かが(たいていは強欲な人が)先回りして、お金と時間を払えば受け取れる形に加工してくれたパッケージ。いろんな会社が、悩みを群やカテゴリーとしてまとめて、消費機会に変換し、奥の方に薄ぼんやりと『救済』の文字が見えるベルトコンベア、その向こうで手招きをしているわけです。抵抗しないと。だって、消費のループに組み込まれているうちは、本当の課題解決はありえないわかですから。それ、パッケージですよ。人の数だけ悩みがあるって、上白石萌歌さんもゆーてるじゃないですか。
で、ホームセンターです。関西ならコーナンやロイヤル、関東・東京ならカインズやDCMでしょうか。コロナ禍で一瞬DIYブームが来たときには賑わったようですが最近は下火、ECもいろいろ立ち上がる中で売上は減少傾向、都会に住む人には縁の薄い業態です。
最近いってます?ホームセンター。めちゃくちゃいいですよ。キッチン用品から掃除用具、園芸品やペット関連。多種大量のニッチ商品と、値札・型番のみの潔い商品展示。あそこには解決パッケージが売っていません。あるのは素材だけ。棚に並ぶ無機質なものたちを組み合わせ、自分のためだけの道具にするための取組は、あなたに、あるいは私に委ねられている。
仕事がはかどらないなら、スタンディングデスク化できる棚板をつくろう。なんとなく気持ちが沈むなら、水と太陽光があればすくすく育つ紫蘇の苗を一つ買って帰ろう。スマホの情報スクロールで、大量のごみレビューや不正確な評点に基づく比較購買に疲れた皆さん、Google mapに”ホームセンター”とぶち込んでください。DIY、自己解決の一歩を踏み出しましょう。Do it yourself.
この天啓を受けたのは、仕事の最中でした。私の仕事は戦略コンサルティングで、プロジェクトの始まりはたいがい、お客さんによる課題・困りごとの持ち込みです。最近気づいたことなんですが、私に相談を頂く前から真剣に自己解決しようとしているかどうかで、プロジェクトの行く末はほぼ決まっています。
困った瞬間に業者を探して丸投げする輩(客「課題はXXです」→志「解決のために何をされました?」→客「…これからです。色々教えてください」)とのお仕事は、きれいな資料が仕上がっても何かが起きることはない。一方で、課題を前にまずDIYから始めた人たちとのお仕事には必ず成果がある。「成果物よりも成果の方が大事」という話が通じるのがこの人たちで、一方丸投げ族にこの命題は不人気です。
「鬱のせいでパン作り始めた人、他にいる?」なんてredditスレがありました。DIYによる救いのはなしです。
どん底にいたんだけど、パンの焼き方を学ぶことにしたんだ。シンプルさ、繰り返し、そして美味しいパンを作るのにかかるゆっくりとした時間が、鬱から抜け出すために必要な足がかりだったんだ。それに、家族が本当に温かくて美味しいパンを喜んでくれて、それが私に欠けていた価値を感じさせてくれたんだ。パンが私の命を救ったのかもしれない。 link
この人を救ったのは処方ではなく、シンプルさと繰り返しと、ゆっくりとした時間。自分の手でつくることでした。決して、病院や薬は無益だという話ではありません。即効の科学に縋る前に、一度自分の手を経由させよう、そんな順序のお話です。抱えている悩みが10あるとして、紫蘇の苗で全部は片づかないかもしれない。それでも、自分の手でなんとかできた、という実感はとんでもなく大きな意味を持つはずです。
最近、宇野常寛さんの『庭の話』をAudibleで聴いています。“消費ではなく浪費”を語った國分功一郎『暇と退屈の倫理学』の論理は既にネット・PFによって焼き尽くされ、私たちにできるのは孤独に事物と向き合い、つくること、つくったものを通じて事物に対して受動的な体験をすることの大切さが書かれている(と私は読んだ)。パスカルが言い、わたしたちが日々実感しているように、”人類のあらゆる問題は人間が一人で静かに部屋に座っていることができないことから生じている”。静かに座っていられないならどこにいくのか。そうです、ホームセンターです。
3週前に提案した行くべき場所は競馬場だったけれど、今週提案するのはホームセンターです。東京にいらっしゃる皆さん、大井競馬場の前にはニトリとDCMがあります。7/1の帝王賞は20:05発走。浜松町からモノレールで8分、仕事終わりにぜひまとめてどうぞ。
お便りをお待ちしています。
💼心惹かれたもの
サグラダ・ファミリア レゴセット:今月、メインタワー「イエスの塔」が完成したことを記念し(全体完成は2034-35年見込み)発売。1.2万を超えるピースがあり史上最大セットとのこと。完成サイズは高さ62cm×幅47cm×奥行き39cmでお値段800ドル。たっけぇぞ。 link
apple ジャーナルアプリ:日々の日記をアウトライナーのDynalistに書いてきて4年分・90万字、最近挙動が怪しくなってきました。メモアプリのべた書きに切り替えか、?と思っていたらApple純正の公式アプリが良さそうなので試用。写真や手書きも気軽に組み合わせられて使い勝手が良いです。インデント上げ下げができると最高なのだけど。
✏️読んだ/読んでいる
📃記事
スポーツと痩せ薬の関係を、競技生命延長とドーピングから考える:久しぶりに復帰したテニス界のレジェンド、セリーナ・ウィリアムズがGLP-1製剤ゼップバウンドの使用を公表したことが話題となっている。会見で彼女が語ったのは、妊娠後の身体はトレーニングだけでは戻らず、膝の負担を和らげるためにもこの薬が必要だった、という主旨のことだ。自体を複雑にしているのは、彼女はこの薬を扱う遠隔医療サービス・Roのアンバサダーを務めており、夫は同社の投資家でもあること。さらにWADAが2024年から、禁止物質でもパフォーマンス向上薬でもないGLP-1を(判断基準や期限を提示することも無く)監視対象にしていること。技術と経済が先に走り、規制が後からついてくるお決まりの構図がここにも。ドーピング史で繰り返された構図の次なる主戦場は、筋肉や血液ではなく、体重そのものかもしれない。link
米ヘッドライトが眩しすぎるのは古い規制のため:LEDヘッドライトの強い光とSUVの車高が重なると、対向車のフロントガラスを直撃することになる。日本では当たり前になりつつある、対向車の目の部分だけ避けて照らす適応型走行ビームだが、米国では違法となっている。国家道路交通安全局が国際基準とは別の独自規則を守り続け、連邦議会の法改正も止まったままだからだ。安全のための規制が、安全のための技術を禁じ、夜道を危なくしている。規制は守るべき対象が消えたあとも勝手に走ってしまう典型例である。link
「くだらない科学」の排除で失われるもの:トランプ大統領の指示で、米国立科学評議会の全委員が職を失った。GPSもワクチン、発光組織など、現代社会を支える偉大な技術の源流は、この組織が監督してきた基礎研究にいきつく。「それってなんの役に立つの?」「そんなくだらないことじゃなくてもっと意味あるテーマに取り組めばいいのに」そんな声も浴びてきた基礎研究のいくつかが経済・社会の養成と結びつき、戦後の経済成長をつくってきたのだ。何度も税金の無駄として何度もやり玉に挙げられてきた恋愛研究助成だが、その研究結果はのちの婚活支援やマッチングアプリ産業の土台になった。くだらないかどうか、事前にわかる人などいないし、起訴を疎かにした国・社会に未来は無いのだ。 link
若者に残されたのは身体だけ:経済は不調で家を買うこともできず、大学に行けば20万ドルの教育ローンが残り金利は9%。政治空間も最悪、そして家族や宗教も崩壊しつつある。そんな社会で、若者に残された唯一の主権領域、つまり自分の力で何とかできる対象は身体だけになってしまった。それに目を付けたジムやサプリ、美容医療業界が「自己改善産業」というパッケージを作り上げ、いまやそれは米国だけで400億ドル規模を誇る。”ルックスマクシング”を私たちは笑えるのだろうか。 link
全部無視して、ただ普通にやろう:健康や政治、あらゆる事が測られるようになり、可視化する場所が増え、インフルエンサーが最高を煽り最低を貶す。結果、睡眠も食事も運動も最適化すべきプロトコルになり、趣味や政治観はアイデンティティに昇格し、日常の些事は文明の行く末を問う国民投票のように、とにかく”大事(おおごと)化”し、全員が疲れ果てている。メッセージはシンプル、ただ普通でいることを受け入れよう。極端な主張は目立つし、即席の帰属意識もくれるだろう。しかし、過剰であっていいことなど何もないのだ。あなたにとっても社会にとっても。心得。 link
ほとんどの物事は注意を払う必要があるが、執着する必要はまったくない。
注意は必要だが、冷静さを失ってはならない。
休息は大切だが、わざわざ量や質を競う必要はない。
食事をとろう。しかしカルトの習慣に従う必要はない
考えることは大切だが、政治に人格を蝕まれてはいけない。
反応はするが、しかし対象は選び、大声を上げる必要もない。
他、印象深い記事を短く。
BCG分析『未来工場の勝敗は質的能力で決まる』:土地や人が安い場所を選びコストリーダーシップを追求する道は閉じつつある。 link
考えたことは消え、やったことだけが残る:アイデアは運動ニューロンに刻まれて初めて機能し、数回やって実を結んで、ようやく生活の一部になる。戦略資料も同じで、つくって読んだだけでは無意味ですよ。link
逆張りから追従へ:私たちに必要なのは「どうでもいい」という態度表明なのだ。 link
計画は失敗する前提で:築くのに10年、失うのに1日という非対称が世界の基本仕様であり、事前期待が高いほど、現実が悪くなくても計画のほうが先に破綻する。余白は事後の言い訳ではなく、最初から設計に織り込んでおくべきなにかなのだ。link
📙本
精神について:19世紀アメリカを代表する思想家・エマソンのエッセイ集で、個人主義と思考の独立を説いたエッセイ『自己信頼(Self-Reliance)』が納められている。心に残る言葉がたくさんありました。敬虔で真剣な人からしか生まれない何かです。 link
私どもの思考は敬度な受容である。私どもの考えることは私どもが決めているのではない。思考するとはただこころを開いて光のさしとむのを待つことである。知性の生長も本来人為のどうすることもできない恵みであって、人はそれが何時どのようにして恵まれるか予知することのできない神である。
岩波 世界 7月号:今月号はスポーツ特集。商業との安易な結びつきに警鐘を鳴らす論考(丁寧に論理で考えが深まる)、一方で商業化が進むことで謎の権威に潰される人が減るのだという論(なるほど確かにその視点も…と広がる)、いずれも迫力がありました。↓は前者寄りの論考から。漢数字→アラビア数字は私のためです。 link
第一の教訓は、商業化のダイナミズムは一度稼働し始めると制御が困難になる点である。1948年の最高裁判決を機に、放映権収入を握った強豪校が経済的・政治的に圧倒的な影響力を持つに至り、NCAAのガバナンス構造は実質的に変容していった。1997年には大学スポーツのガバナンス構造が大幅に改編され、意思決定の主導権が事実上、収益力の高い強豪校・強豪カンファレンスへと移行したのである。その構造を覆すだけの政治力はもはや組織内のどこにも存在せず、中小規模校の声は決定プロセスから実質的に排除されていった。
日本のUNIVASは2019年の設立以来、「ガバナンスの統合」を中核課題に据えてきた。ただ、その統合が「誰の、何のための論理」に基づいているのかを問う必要がある。市場価値に基づく収益拡大の論理が先行すれば、いずれ強豪校や強豪リーグの論理が組織全体を支配することになるだろう。
メディア論―人間の拡張の諸相:マーシャル・マクルーハンの骨太思想。私たちはメディアによって作り変えられているといってもいい。職場で使うメディアが、その職場での職業人を規定している。 link
📻観た/聴いた
Hump Back「番狂わせ」:ひっくり返らないくらい強いモノを持とう。おもろい大人になろう。何歳になっても、番狂わせをおこそう。
大きな玉ねぎの下で:先週の声報より。Runnerもいいけど、こっちもね。 link
🧩感じた/感じている
2月のニュースレターで紹介したテニス選手・ククシュキンが引退発表、10月のアルマトゥイ・オープンが最後の大会となります。お疲れ様でした。テニスこそ人生。かっこいいっす。 > こーべ通信:よっしゃ、たくさん負けるか。
努力は必ず報われる。当初想定した基準において、ではないかもしれないけれど。どんな風に報われるんだろう、を想像するのはこちらの責任です。 link
品位、情熱、結束、規律、尊重。国際統括団体が定めるラグビーの価値観。経済を最優先にするわたしたちが失ってしまったものの全てである。自力で取りもどさないとね。
メシをUbereatsに頼っていると、段々に人間としておもろくなくなっていく気がする。最近ウーバーばっかりだわ、と言っている男からおもろい話が聞ける気がしない。その生活習慣、食事選択で立ち現れる価値観の問題だろうか。
🍵関心事
憎悪の感情抜きで政治と向き合おうとするとき、私たちが手にすべき道具は何か。
スターマーが直面しているのと同じような「憎悪のループ」が、文化、芸能、スポーツなど、様々な分野で増殖しているのが見られる。「憎悪」は、「ファンダム」と表裏一体の現象なのだ。それはエンゲージメントを生み出すインターネットの花形コンテンツであり、カネになり、票になり、世の中を回していく。憎悪で経済や政治を回す世の中が、戦争に向かっていくのはむしろ自然のなりゆきではなかろうか。
(ブレイディみかこ『イミン、イミグレ、イミグランツ 第7回 憎悪するポリティクス』, 岩波 世界 7月号 p174より)
🥑活動報告
週末、テニス界の国民的スターから名指しで動画メッセージを頂きまして大変光栄です。まず無私で貢献するべきですね。
今週後半、島根〜広島出張です。合間に足立美術館を堪能する予定。佐久間さんANN0で取り上げられていた松江のフレンチと、友人のご家族がやっているフランス家庭料理惣菜のお店を訪れるのも楽しみにしています。
お便りをお待ちしています。



